残り11秒まで一度もリードを奪えなかったA東京の逆転劇
B1東地区の1位と2位が対決する注目カードは、栃木ブレックスが22日に96-76で先勝。迎えた連戦の2戦目は、栃木県宇都宮市のブレックスアリーナにクラブ史上最多となる4035名の観客が押し寄せた。
アルバルク東京は残り11秒まで一度もリードを奪えなかった。だが、最後に微笑んだのは昨日の敗戦を乗り越え、完全敵地を克服した『赤黒軍団』だった。
栃木は田臥勇太が3ポイントシュートを決めて先制すると、遠藤祐亮、古川孝敏らアウトサイドの選手がポイントを稼いで第1クォーターを27-18のリードで終える。A東京が外を警戒すると、第2クォーターはセンターのライアン・ロシターが11ポイント。栃木が49-35とリードを順調に広げてハーフタイムを迎える。
しかし、土曜の試合との違いは、A東京がチームとしての戦い方を崩さなかったことだ。伊藤拓摩ヘッドコーチも「集中が切れかねないところは何回かあったんですけれど、それでも切らせずチームとして戦った」と展開を振り返る。差はあったが、極端に大きく広がることはなかった。田中大貴も「負け試合だとは全然思っていなかった」と試合展開を振り返る。
それでも最終クォーターを迎える段階で、A東京は10ポイントのビハインドを負っていた。大きな違いが出ていたのはリバウンドだ。第3クォーターを終えた時点でリバウンド数は栃木が29本、A東京が18本と差が出ていた。特にオフェンスリバウンドはA東京がわずか2本と劣勢で、オフェンスが単発で終わっていた。
それが最後になって、リバウンドの攻防が劇的に変わった。栃木もロシターに加えて、110キロとパワフルで腕の長いジェフ・ギブスを起用するリバウンドの強いメンバー構成だったが、それでもA東京が上回った。
竹内譲次は「最悪でも弾く(ことを意識した)。田中もギャレットも(腕の)長さがある。ガード陣も手伝ってくれて、チーム全員でリバウンドを取るという意識が持てた」と工夫を説明する。田中とギャレットはコンタクトの強いタイプでないが、リーチの長さがあるのでこぼれ球を拾うことができる。そんな意識づけが奏功し、田中は第4クォーターだけで4リバウンド、ギャレットも2リバウンドを記録した。
A東京が流れを掴み、すべての面で上回った10分間だった。栃木のヘッドコーチ、トーマス・ウィスマンも「第4クォーターはシュートが栃木は20分の4。リバウンドも15本取られている。そういう状況で勝利は難しい。フリースローも東京が10本打っているのに、栃木は1本のみ。よりタフに、アグレッシブに攻めていたチームが勝ったと思います」と顔を曇らせる。
勝ち越し点のギャレット「神様が最後に味方をしてくれた」
ただA東京は、敵地の空気と戦わねばならなかった。ギャレットは強烈なドライブを活かして、最終クォーターだけで6本のフリースローを得ている。しかし何と4本連続で失敗して、チームのブレーキになっていた。ブーイング、栃木名物の『地団駄』が作り出すノイズは間違いなくA東京を苦しめた。
伊藤ヘッドコーチにそんなアリーナの『ノイズ』について水を向けると、秋田ノーザンハピネッツ戦後の問答を思い出したのか軽く苦笑いし、こう続けた。「今年は去年より(栃木の)熱気がすごいですね。フリースロー(の成功率)は今週末まではウチが1位だったと思うんですけど……」
そのA東京がこの試合はフリースローの成功率が「27分の17」に止まった。それはブレックスアリーナの強烈な後押しがプレッシャーをかけたからだろう。
しかしA東京は残り1分22秒、トロイ・ギレンウォーターがフリースロー2本を決めて3点差に詰める。そして残り56秒、田中が3ポイントを沈めてついに80-80の同点に追いついた。
残り11秒。勝ち越しのフローターを決めたのはギャレットだった。フリースローを外すなど、ややナーバスにも見えた彼だが試合を終えてこう振り返る。「バスケットの神様が ギャレットは『しっかりできるのか』というテストをして、それに合格してバスケットの神様が最後に味方をしてくれたと思います」
彼は『テスト』という表現で、自分とチームが苦しんだ時間帯を説明する。A東京は昨日と違って点差が開いている中でも無謀なプレーをせず、全体のバランスを保つチームプレーを続けるという『解答』を出していた。
伊藤ヘッドコーチは「何回でも、気持ちが折れそうなところでも戦い続ける――。僕はグラインドというんですけれど、グラインドしてグラインドしてグラインドして、戦い続けてという気持ちのことです。その部分で今日は素晴らしいパフォーマンスを第4クォーターに見せてくれた」と選手たちの折れない心を称える。A東京は切らさず、折れずに戦った。その結果として『39分49秒』の苦しみを乗り越え、最大17ポイント差を跳ね返して大逆転勝利を果たした。
栃木のウィスマンHCも「負けはしましたけれど素晴らしいゲームではあったと思う。会場に足を運んでくれたお客さんは楽しんでくれたと思うし、きっと戻ってきてくれると思う」と試合内容については一定の評価を口にする。栃木もこの試合を糧に、また一回り逞しくなってA東京と向かい合うことになるのだろう。
Bリーグが今出せる最高のレベル、最高の雰囲気を味わえる好ゲームだった。伊藤HCは「栃木とあと6回戦わなければいけないというのが、ゾッとします」という言葉で記者会見を終えたが、観戦者にとっては『ゾクッ』とできる最高の対決をこの先も見続けられるということなのだろう。