八村塁だけじゃない! 日本が世界に送り出す12選手
バスケワールドカップがいよいよ開幕した。この数年で飛躍的な成長を遂げた日本代表は、国際試合を禁止されるどん底の状況からアジア予選を自力で突破して、この舞台に立つに至った。アメリカの大学を経てNBAへと活躍の舞台を移した渡邊雄太と八村塁、そして日本国籍を取得して代表入りを決めたニック・ファジーカス。この『ビッグ3』がバスケットボール日本代表の看板選手となるが、「世界に通用する選手やチームの輩出」を掲げたBリーグで揉まれ、ステップアップした選手もチームの大事な戦力だ。国際大会で実績の乏しい日本代表が戦うのは格上ばかりだが、12人の力を結集してチームとして戦うことで活路は見いだせるはず。勝負師フリオ・ラマスの下で世界に挑む12名を紹介する。
3 PG 安藤誓哉(アルバルク東京 183cm80kg)
A東京を2連覇に導いたポイントガードは、ジョーンズカップで結果を出して代表候補に滑り込み、富樫勇樹の離脱した穴を埋める存在になろうとしている。ピック&ロールから最善の選択肢を選んで攻撃をクリエイトし、ゲームコントロールをしつつ自分で決めるシュート力もあるのが強み。安藤がペリメーターから決めれば、相手は八村とファジーカスのインサイドばかりを警戒してはいられず、日本のオフェンスの幅はより広がるはずだ。
もう一つの強みは、田中大貴、馬場雄大、竹内譲次との組み合わせで発揮される、A東京で長く一緒にプレーするからこその『阿吽の呼吸』。田中も馬場もピック&ロールの使い手となり、譲次も巧みにパスをさばけることで成り立つ絶妙なパスワークは、ハーフコートオフェンスでの高さとフィジカルでの不利を覆す武器となる。その際こそ安藤が学んだゲームコントロールの術は最大限に発揮されるはずだ。
6 SG 比江島慎(宇都宮ブレックス 193cm88kg)
日本代表がどん底にあった時期から孤軍奮闘でオフェンスを引っ張ってきたエーススコアラー。プルアップやドライブ、パスなど攻撃面でのスキルがどれも高く、それらを組み合わせて勝負どころで決めに行くメンタルの強さが光る。2017-18シーズンにBリーグのシーズンMVPを受賞した後は、地位が約束されたシーホース三河を離れてオーストラリアリーグに挑戦し、新たなスタイルを習得。帰国後も三河とはスタイルの違う宇都宮ブレックスに飛び込み激しいプレーを自分のスタンダードとした。さらにはNBAサマーリーグにも挑戦。若手の登竜門である大会に29歳の比江島はがむしゃらに飛び込んだ。結果は出なかったが、本人は「ここでしかできない経験でき、行って得られたものは大きい」と語る。
この1年、自ら厳しい環境に飛び込んだことで、比江島はセンスとスキルがあるだけでなく、よりタフに戦える選手へと進化した。八村やファジーカスとシュート力の高い選手が加わったことで、ディフェンスに今まで以上に注力する姿勢を見せるが、それでもここ一本で比江島のオフェンス能力が生きる場面は出てくるはず。泥にまみれた経験は、その時にこそ生きる。
7 PG 篠山竜青(川崎ブレイブサンダース 180cm78kg)
激しいプレッシャーディフェンスを持ち味とし、的確な指示出しで攻守を引き締める司令塔。予選を通じてポイントガードの1番手を務めた富樫がケガで代表から外れて以降、他の選手と競争させられたが、そこできっちりとポイントガードとしての総合力を示して評価を確立した。川崎で長く一緒にプレーするファジーカスとの相性は抜群。強豪相手にも粘って食らい付き、最後に勝機をつかみ取る。この難しいゲームプランをどれだけのレベルで遂行できるかは篠山のゲームコントロール能力にかかっている。ワールドカップのレベルであっても通用する『個』がいるだけに、ポイントガードがゲームをコントロールして、その『個』の良さをどれだけ引き出すかが大事。篠山はその重責を担う。
コントロールに重きを置くタイプのポイントガードではあるが、ビッグショットを決める気持ちの強さは川崎でしばしば披露してきた。ワールドカップ直前の国際親善試合でも、強豪ドイツを打倒した決定打は、相手の警戒がチームメートに偏った寸隙を突いた篠山のフローターだった。
8 PF 八村塁(ウィザーズ 205cm102kg)
NBA1巡目指名を受けた日本の至宝。高さと強さ、スピードにシュート力と、すべての要素が今も急成長を続けており、攻守において他を圧倒する存在になりつつある。相手守備組織を突き破ってのレイアップ、フィジカルでの真っ向勝負を辞さないゴール下、思い切りの良い3ポイントシュートとオフェンスでの武器は多彩だが、今のトレンドに逆行するミドルレンジからのジャンプシュート、特にドリブルで自らズレを作って放つプルアップジャンパーが最大の武器であり、このシュートで得点を繋げられるかどうかが日本の生命線となる。
ディフェンスでも身体の強さを生かすことはもちろん、長いウイングスパンを最大限に活用したシュートブロックは大きな武器となる。攻守ともに八村が試合に与える影響は計り知れない。八村が加わったことで日本はアジアを勝ち抜くに至った。あとはチームとして八村をどう生かし、その能力を引き出すかで、世界で戦えるかどうかが決まる。
10 PF 竹内公輔(宇都宮ブレックス 209cm100kg)
双子の弟である譲次とともに日本のインサイドを長らく支え続けるビッグマン。自ら1on1を仕掛けることは少ないがポジショ二ングに優れ、ガードとのコンビネーションやインサイド陣との連携から決定機を作り出す。八村やファジーカスのバックアップとなるだろうが、ワールドカップ前の国際強化試合ではインサイドの組織的なプレーを忠実に遂行することで、悪い流れからチームを救う働きが大いに目立ち、太田敦也に競り勝つ形で最終メンバー入りを果たした。
ファジーカスや八村のような得点力、譲次ほど縦へ突破する展開やスピーディーにパスをさばくなど目立つプレーはないかもしれない。それでも投入される際は日本にとって悪い流れとなっている原因を解消する役割が与えられるはず。そこでクレバーに、そして激しくプレーする公輔のベテランならではの働きに注目したい。
12 SF 渡邊雄太(グリズリーズ 208cm93kg)
208cmの長身に加えてウイングスパンも長く、軽快なフットワークと組み合わせることで驚異的なディフェンス能力を見せるエースキラー。世界を相手にしても個で打開できる能力を備えながら、常にチームファーストを意識してプレーできる『3&D』(3ポイントシュートとディフェンスを持ち味とする選手)。NBAサマーリーグを終えて代表合宿に合流した直後に足首を痛めて、万全の調整ができたわけではないが、ワールドカップ開幕にはきっちり合わせてきた。攻守両面でのバランスの良さはチームに大きな安定感をもたらすし、アジリティを生かした突破から一気にシュートまで持ち込むダイナミックな動きも効果的だ。
また、プレースタイルこそスマートだが、リバウンドやルーズボールの一つひとつに執着心を露わにし、勝負にこだわるメンタルの強さも光る。謙譲を美徳とする日本が世界に食らい付いて、序列をひっくり返すには、渡邊がそのメンタルを代表チームに注入することもポイントになりそうだ。日本が目指すトランジションバスケットを完成させるのに不可欠な戦力であることはもちろん、リーダーシップの面でも大いに期待したい。
13 SG 安藤周人(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 192cm89kg)
ピュアシューターがいない現メンバーの中で3ポイントシュートを得意とする貴重な戦力。今の日本代表のスタイルは3ポイントシュートに重きを置かないが、それでもこの武器のあるなしで相手に与えるプレッシャー、攻撃の幅の広さは大きく変わってくる。名古屋Dでエースへと成長し、ジョーンズカップでクラッチシューターぶりを見せてA代表入りと、今まさに勢いに乗っている周人の強心臓ぶりに期待したい。
一方で国際試合となると同じポジションの選手とのマッチアップでもフィジカルで当たり負けして押し込まれるシーンが目立つ。本人も「得点はメインで出ている選手が引っ張ればいい。自分はディフェンスで貢献したい」と語る。3ポイントシュートに限らず多彩な能力を持つオフェンス面での貢献は計算できる。名古屋Dとは違いプレータイムは限られたものになる状況、120%の力を注いでディフェンスで踏ん張ることができれば、日本代表の切り札にもなれるはずだ。
15 PF 竹内譲次(アルバルク東京 209cm98kg)
八村とファジーカスに引けを取らないインサイドの3番手。それでも、スムーズにパスをさばいて流れを作り出す攻撃面での貢献は八村にないもので、ディフェンスに転じればファジーカスを上回るフットワークの良さでビッグマンがアウトサイドに出てもしっかりとプレッシャーを掛けていく。こうして3番手とはいえ譲次は自分の存在感をどの試合でも発揮し、欠かせない戦力となっている。
Bリーグが始まる2016年オフに、サンロッカーズ渋谷からA東京への移籍を決断。その決め手はA東京が外国籍枠の一つをガードに使い(ディアンテ・ギャレット)、自分を外国籍選手のバックアップではなく、メインのビッグマンとして使うという構想があったからだ。「自分の野望をもっと出していかなければと思った」と譲次はこの決断を振り返る。そこから勝たなければならないプレッシャーを感じながら、外国籍選手とのマッチアップを続け、A東京のリーグ連覇に貢献した。代表でも同じポジションの八村の才能を目の当たりにして、圧倒されるのではなく「負けていられない」と発奮。トランジションで走りきり、3ポイントシュートでディフェンスを広げ、強気なアタックでファウルをもぎ取る。そのエネルギッシュなプレーは、到底ベテランには見えない。
18 SF 馬場雄大(アルバルク東京 198cm90kg)
日本人離れした身体能力でコートを駆け回るスラッシャー。スピードと跳躍力は世界を相手にしても引けを取らず、果敢なディフェンスから一気にトランジションに持ち込む豪快なプレーは日本が誇る武器の一つとなった。縦への突破力、均衡を打開する爆発力は代表でも随一。
筑波大のエースとしてインカレ3連覇、4年次からA東京に加わってBリーグを連覇、その1年目には新人王、2年目にはファイナルMVPを受賞。常にカテゴリーのトップ選手でありながら、急成長を続けている。日本代表でも最初は「ダンクを一発決めて爪痕を残したい」が抱負で、力一杯プレーするだけだったが、スキルもバスケットIQも試合を重ねるごとに向上。シックスマンでの起用が多かったが、ここに来て安定感も備えて先発候補に浮上している。Bリーグのスター選手になり、代表の主力に定着しても本人に『満腹感』は全くない。目標はNBAでプレーすること。自分自身の可能性を愚直に信じ、一切の慢心なく高みへと突き進む。
22 C ニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース 211cm111kg)
川崎で長くプレーして『Bリーグ最強の外国籍選手』だったファジーカスは昨年春に日本国籍を取得し、すぐさま日本代表に加わった。インサイドの攻守が安定したことで、日本代表は爆発的な成長を遂げるに至っている。地道な練習を積み重ねて築いたシュート精度に絶対の自信を持ち、さらにはペリメーター周辺でも確率を落とさないシュートレンジの広さ、多彩なシュートバリエーションとディフェンスとの巧みな駆け引きも光る。
かつて足首に大きな故障をした影響で俊敏な動きはできないが、高さとウイングスパンを生かしたディフェンスとリバウンドも強力。アウトサイドに引き出されてのスピード勝負では不利になるが、そこをカバーするために日本代表はゾーンディフェンスを多用するようになった。それでも得点、ディフェンス、リバウンドでファジーカスがチームにもたらすプラスは多い。ポストアップからパスをさばくこともでき、ワールドカップ直前の国際強化試合では自分が一歩引くことでパスを回し、八村により良いシュートチャンスを作り出す献身的なプレーも見せた。ファジーカスの能力はもちろん、プレーの幅の広さが大舞台で違いを生み出すことになりそうだ。
24 SG 田中大貴(アルバルク東京 194cm93kg)
攻守すべてにおいて高いレベルのプレーができる日本トップクラスの2ウェイプレーヤー(攻撃も守備も得意とする選手)は、日本代表をさらなる高みへ引き上げるために自らポイントガードでのプレーを志願。ポイントガードとしては経験不足だが、ピック&ロールから次のプレーを判断して遂行するハンドラーとしての能力はA東京で証明済み。フィジカルと高さで相手ポイントガードに負けないディフェンス能力も含め、192cmの彼が1番ポジションでチームにもたらすプラスは計り知れない。
マルチな才能を持つことは昔から変わらないが、リオ五輪を前にした世界最終予選ではまさかの代表落選。この時もポイントガードとシューティングガードの両方での起用が試された結果、どっちつかずで持ち味を発揮できなかった。それでも田中は「悔しかったが、あの経験があるからこそ代表のユニフォームを着てプレーする喜びを感じられる」と、屈辱をプラスに転じさせた。何でもできるユーティリティプレーヤーは、ディフェンスで誰にも負けないプレーをすることで一つ上のレベルに進み、日本代表に欠かせない存在となった。
32 C シェーファー・アヴィ幸樹(滋賀レイクスターズ 208cm107kg)
バスケを始めたのが遅く、スキルや経験では他の選手に差を付けられているが、それを補うだけの高さとフィジカル、そして試合のたびに成長の証を残す勝負強さが魅力。ワールドカップを控えた国際強化試合ではプレータイムが限られた中で、高さのあるニュージーランドを相手に豪快なブロックショットを披露した。
2年前のU19ワールドカップでは八村をサポートしてチームの躍進に貢献し、そこから急成長を続けてきた。この頃から、サイズを見込まれて常にチャンスを与えられ、高いレベルの中で揉まれることで新たな技術や経験を吸収してきた。「ドラゴンボールのサイヤ人みたいだと思うんです」と以前の彼は満面の笑みとともに語っている。「すごい選手の中に入って毎回ボコボコにされるんですけど、必死で頑張れば何とか通用して、気づけばそのレベルになっているんです」。今回のワールドカップでもボコボコにされては立ち上がり、また大きく成長するのだろうか。リムプロテクターとしての才能はすでに開花。日本の将来を背負うビッグマンに注目したい。
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— バスケット・カウント (@basket_count) August 30, 2019