京都ハンナリーズの新指揮官に就任した伊佐勉は、地元沖縄に琉球ゴールキングスが誕生した2007年からプロバスケットボールの世界に飛び込み、現場に関わり続けて19年目というリーグ屈指のキャリアを持っている。サラリーマンから転身し、最前線で戦い続ける百戦錬磨のコーチとなった歩みについて聞いた。
「責任を取るのはヘッドコーチである自分」
──前編でもお話しいただきましたが、現在Bリーグでは実績のある外国人コーチが増えていて、相対的に日本人コーチの人数が減っています。この点について伊佐コーチは思うことはありますか。
おっしゃる通り日本人のヘッドコーチが少なくなりましたし、B1の日本人ヘッドコーチとしては僕が最年長になったと思います。いろいろと状況は変わってきましたが、その中で頑張らないといけないですね。若いコーチは皆さんよくバスケットを勉強しています。若手に負けないようにしたいですし、若手から学べることもたくさんある。自分にとっても若手の存在は刺激になっています。ただ、そういう気持ちになっている時点で自分が年上であることも感じます(笑)。
外国人・日本人問わず、新しいコーチとの交流は自分に間違いなく影響を与えています。彼らといろいろな話をする中で、良いものは取り入れようとしてきたので、自分のやりたいスタイルもキングスにいた時から少し変化しています。また、良いものを取り入れるということはイコール彼らに練習を任せること。福井ブローウィンズでもアシスタントにメインの指導をやってもらうことがありました。京都でもアシスタント陣の今までの経験を聞いて、良いなと思ったら練習を任せたり、発言をしやすい環境にしていきたいです。その上で、結果に対して責任を取るのはヘッドコーチである自分という考えです。
──伊佐コーチは専修大卒業後に地元沖縄に戻り、10年以上にわたってクラブチームの選手、コーチとしてバスケットボールに携わっていました。沖縄を離れて今シーズンで9年目となりますが、ここまで沖縄を長く離れてコーチを続けることを当初は想像していましたか。
サンロッカーズ渋谷、福井、今回の京都さんと、自分に仕事を与えてくれる方がいて本当にありがたいです。大学卒業後はずっとJA(農協協同組合)に務めていて、bjリーグ3年目、キングスがこれに参入するタイミングでプロバスケの世界に飛び込みました。どれだけプロリーグが続くのか本当にわからない中、バスケットだけで生活していくのは大きなチャレンジでした。今、ここまで日本のプロバスケが大きくなることは正直、想像していなかったです。
キングスに10年在籍し、キングスしか知らない中で、キングスとの契約が満了になった当時は「コーチをしたい」というより、「他のチームで仕事をしてみたい」という思いが強かったです。ただ、沖縄で「プロバスケの仕事」はキングスしかないので、県外に行くしかないなと。最初は2〜3年くらい他のチームを見て、その後沖縄に帰って何をしようかという感じでしたが、おかげさまで今シーズンで9年目になります。SR渋谷に加入する時、奥さんに「2年くらい沖縄を離れてやりたい」という話をしたら「あなた、5年は帰ってこないよ」と言われました。当時は「そんなつもりはないよ」と言いましたけど、奥さんの見立てが正しかったですね(笑)。
「とにかくチームで戦う意識を浸透させていきたい」
──サラリーマンとして長らく働いてきたことが、自身のコーチとしての在り方に影響をおよぼしている部分はあると思いますか?
今のコーチ界は学生時代からバスケの世界にいて、そのままコーチになったという人たちが大半ですが、社会人を経験していることは自分にとって大きな強みだと思います。ファンの方との接し方、お客さんあっての自分たちという考えは、サラリーマンを経験したことで大きなモノになっている。JAの研修で1分間や3分間の短いスピーチをする機会があって、当時は「これはうざいな」と思っていましたが、今では練習後などに短いスピーチをすることに役立っています。その他にもサラリーマン時代の経験が生きていることは少なからずあります。
──社会人時代も含めていろいろな経験を経た伊佐コーチは、京都というチームにどんなカルチャーを植え付けたいと考えていますか。
オファーをもらった段階で松島鴻太社長にもお話ししたことですが、琉球でbjリーグ優勝、SR渋谷で天皇杯優勝を経験して、選手とコーチ陣だけがまとまっていても優勝することはできないと感じました。フロントスタッフと現場、もっと大きく言うとファンやパートナーさんも含めて1つにならないと優勝できないと思います。だからこそチームは、フロントが企画してくれた地域貢献、ファンと触れ合うイベントなどもしっかりとやらないといけない。試合に勝つのが我々の仕事ですが、フロントスタッフとの協力体制がしっかりしていないと競技面でも強くなっていかない。お互いに歩み寄っていける関係にしていきたいです。
──長いシーズンの間には当然のようにアップダウンがあると思います。苦しい時に我慢するため、チームにとって一番大切にしたい拠りどころは何になるでしょうか。
何回も言うように、僕たちは全員で守って全員でボールシェアして攻めるバスケットをしていて、練習中から常に「チームでやる」ことを大切にしています。だから、「味方がコートで倒れていたらまわりがすぐに駆け寄って起きる助けをしてほしい」という話をしています。そういったことが自然とできるようになれば、チームとして崩れにくくなる。とにかくチームで戦う意識を浸透させていきたいです。
──最後にファンへのメッセージをお願いします。
チームとして今までにないスタイルを見せられると思っています。観客の皆さんを興奮させるアップテンポなバスケットを展開していきます。皆さんにはチームと一緒に戦ってもらいたいですし、チームに期待してもらいたい。そして、皆さんがいつもプレーを楽しみに試合会場に来てもらえるチームを目指しています。よろしくお願いします。