ヒートはタックス回避のための戦力スリム化が必要
『ESPN』のシャムス・チャラニア記者は、「ヒートは適切な条件が提示されればジミー・バトラーのトレード交渉に応じる」と報じた。今年夏の時点で、これは想定されていた。バトラーの契約最終年はプレーヤーオプションで、これを破棄すれば今シーズン終了後にフリーエージェントとなる。ヒートが本当に彼を不可欠な選手と見なしているのであれば、すでに新しい契約に合意していただろう。
しかし、ヒートのパット・ライリー球団社長はその逆を行こうとしている。「毎試合必ずコートに立ってプレーする選手でない限り、それだけの投資は厳しい。その話は2025年になったら始めよう」と、あえてバトラーのプライドを傷付けるような発言をした。
バトラーは多くを語ることなくプレーに打ち込んでいるが、ここまで22試合のうち5試合を欠場している。常に120%の力でプレーするバトラーが、キャリア14年を経て五体満足でいられるはずはないのだが、それを承知でライリーは彼の『緩み』を許さない姿勢を打ち出している。バトラーはここ数年のヒートを支える中心選手だが、年齢を重ねることで常に全力で戦う『ヒート・カルチャー』を体現できなくなるのなら、もう必要ない。これがライリーのメッセージだ。
バトラーの契約最終年の年俸は5200万ドル(約78億円)。その可能性は低いがバトラーがプレーヤーオプションを破棄せずに残留すれば、来シーズンのヒートはタックスライン超過が避けられない。そうなれば4年で3度目のタックス超過で、高額のリピータータックスを科される。これはヒートがバトラーを評価しているかどうかの問題ではなく、タックス回避のための戦力スリム化が必要で、そのための『生贄』としてバトラーが捧げられる、という話だ。
この状況はバトラーも理解しており、トレードとなれば受け入れるだろう。ただし、行き先は優勝を狙えるチームだ。再建チームで残りのキャリアを過ごすことに意味は見いだせないし、そもそも彼自身の勝利への強い意欲は再建チームには馴染まず、『勝負強さを発揮するエース』ではなく『トラブルメーカー』になりかねない。
移籍先として噂になっているのはウォリアーズ、マーベリックス、ロケッツだが、今のサラリーキャップのルールに制限が多いために、トレードを成立させるのは簡単ではない。そもそもヒートを納得させる条件(おそらくは1巡目指名権)と、来年オフにフリーエージェントとなるバトラーに新契約を提示するキャップスペースは必須となる。ウォリアーズもマブスも、この条件をクリアするのは相当に苦労するはずだ。
最も可能性が高いのはロケッツだろう。フレッド・バンブリートかディロン・ブルックスを軸に、若手を加えれば条件を満たすことができる。ジェイレン・グリーンとアルペラン・シェングンという若きエース候補が順調に成長しているチームにバトラーが加われば、優勝候補とは言わずともそれに続く立ち位置までジャンプアップできるはずだ。そしてバトラーはヒューストン出身でもある。
チャラニア記者がこのタイミングでバトラーの状況を報じたのは、12月15日に今夏に契約したフリーエージェントの選手たちのトレードが解禁になるからだ。そして、12月19日から22日にかけて行われるGリーグのウインター・ショーケースには、各チームの関係者が集結して、様々な『協議』が行われる。ここからしばらくはヒートとバトラーの周辺は騒がしくなるだろう。
現地12月10日、バトラーはメディア対応を行わなかった。ヒートを率いるエリック・スポールストラに質問が集中したが、彼は涼しい顔でこう語っている。「この3年間ずっとトレードの噂が出続けていた選手が今もここにいて、東カンファレンスのプレーヤー・オブ・ザ・ウィークになったばかりだよね」
これは、ヒートが2022年オフに4年1億2000万ドル(約180億円)の大型契約を結んだタイラー・ヒーローを指している。周囲に何と言われようがヒートはヒーローの才能を信じ、彼は年々成長して、仮にバトラーが退団した場合にもオフェンスを引っ張っていける選手となった。移籍市場がどう動くかは読めないが、『ヒートのやり方』は一貫している。