文・写真=小永吉陽子

3年間で躍進した帝京長岡、強烈な印象を残したタヒロウ

ダブルオーバータイムの死闘となった準決勝の福岡第一戦。帝京長岡の大黒柱、ディアベイト・タヒロウ(203cm)をファウルアウトで欠いた帝京長岡は無念の敗退となった。翌日、北信越のライバルである北陸学院との3位決定戦では、前日の激闘の疲労を心身ともに引きずってしまい、10点差で敗戦。帝京長岡のウインターカップは4位で終わった。

「5試合をやり抜く力が自分たちにはなく、準決勝で出し切ってしまいました」とキャプテンの神田大輔が肩を落とせば、エースのタヒロウは準決勝のファウルアウトについて「5回目のファウルを取られた時『ああ、どうして……』という気持ちになりました。僕がいないとリバウンドが大変なことになるので……」と、来日3年目で不自由なく話せるようになった日本語を絞り出して悔しさをあらわにした。

それでも、メダルにはあと一歩届かなかったが、3年前に激戦の新潟を勝ち抜いて全国に現れた『伏兵』は大躍進を遂げて全国ベスト4に名乗りを上げる歴史を作った。その中心にいたのが、「ヤンチャながら努力はチーム一」(柴田勲コーチ)だとチームメートからの信頼の厚い、マリからやって来た留学生、タヒロウだ。

インサイドにそびえるタヒロウにボールが渡れば、ダブルチームやトリプルチームで囲まれるのが当たり前。それでも「対策されるのはバスケでは当然のことで楽しい」と言っては、ボディバランスの強さと状況判断に優れたポジションニングの巧さでゴールを量産。仲間を鼓舞するリーダーシップもあり、歴代の留学生の中でも一目置かれるゴールハンターとして君臨した。

そんな、大黒柱ばかりに頼ってはいけないと奮闘したのがアウトサイドの選手たち。「周りからタヒロウありきのチームと言われるのが悔しかったので、アウトサイドの僕らが得点する展開を作り、コミュニケーションを図ってここまでやってきました」と神田が証言する通り、年々、ディフェンスと外角シュート力をつけ、日本一を狙える位置までたどり着いた。タヒロウを中心に3年分の選手たちが築いた財産は、後輩たちに託されたのだ。

次なる舞台はNCAA、「大学で八村を倒したい!」と意気込む

すでに大学側から発表されているように、タヒロウの進学先はNCAAディビジョン1のポートランド大に決まった。数ある勧誘の中からポートランド大を選んだ理由を本人は「ビジネスの勉強とバスケの両立ができるから」と明かす。

今年に入ってタヒロウは最愛の父を亡くしている。これまで将来の夢を聞かれると「NBAでプレーしたい」と語っていたが、今は家族のことを最優先に考えており、「大学で勉強をして、母国のマリで会社を経営しているお母さんの力になりたい」という思いが強い。

そうした事情から、将来は選手として続けるかは現時点では分からないそうだが、確実に言えることは、大学では選手としてチャレンジを続けるということ。本人に今後の目標を聞くと、「異国の親友」、「ベストフレンド」とお互いを認め合う相棒、キャプテンの神田がエースの思いを代弁してくれた。

「アメリカで八村塁を倒すって、そればっかり言ってますよ」

実はこの話は準々決勝後に聞いたもので、この時は「高校で日本一になってアメリカに行く」という言葉も添えられていた。

「八村は高校で日本一になってアメリカに行った。向こうで八村を超えるためには、日本でチャンピオンにならないと超えられないので、今はこいつと一緒に日本一になることが目標です」と神田が言えば、「大輔の言う通り」とタヒロウは相棒の肩を抱く。「やっぱり、八村選手のことは意識している?」と聞くと、またも神田が熱弁をふるう。「だって2年連続で明成に負けてるんですよ。そりゃあ倒さなきゃいけないでしょう。そうだよなっ」。すると今度はタヒロウ自身が日本語できっぱりと決意を語ってくれた。「アメリカの大学で八村を倒したい。対戦するのが本当に楽しみです」

帝京長岡は後輩に託し、八村との対決に『決着』をつける

タヒロウと八村は1学年違うとはいえ、これまでの対決は八村および明成の完勝だった。1年次のウインターカップ準々決勝では、初対決に意識しあってどちらもファウルがかさんだが、ファウルトラブルの八村をカバーした明成のディフェンスの前に大敗。

2年次のインターハイ準決勝では帝京長岡の外角シュートが入ったことで第3クォーターまで大接戦を演じたが、個人のマッチアップでは八村が29点10リバウンド、タヒロウは16点11リバウンドで八村に軍配が上がっている。どこのチームもタヒロウのマークには手を焼くが、八村はほぼ一人で守ったばかりか、タヒロウを外角に誘き出しては、ドライブやジャンプシュート、ポストアップと多彩な駆け引きで上回った。

親友である神田の言葉はもっともである。帝京長岡の日本一は後輩に託せても、八村との対決はアメリカでプレーする自身が決着をつけなければならないのだ。

「帝京長岡では勝利のためにインサイドを任されたけど、本当に自分がやりたいのはフォワードのプレー。高校で練習をたくさんして強い身体を作ることができたので、これからはもっとフィジカルとアウトサイドを鍛えて成長したい」

中学時代に過ごしたスペインで英語を覚えたというタヒロウの語学力と学業面については心配するところがなく、1年次からユニフォームを着ることが期待される。ポートランド大と八村がプレーするゴンザガ大は同じウエストコースト・カンファレンスで対戦もある。

自身もベナン人の父を持つ八村は「アフリカから来た留学生はファミリー」だと言い、高校時代はタヒロウとの対戦を楽しみにしていた。舞台は日本の高校からNCAAへ──。日本で注目を集めた八村塁vsタヒロウの対決第2ラウンドが今から楽しみであると同時に、フォワードへの脱皮を目指すタヒロウの成長を心待ちにしたい。