文=小永吉陽子 写真=野口岳彦

悔しい思いのリオ五輪を経て、Wリーグ開幕戦から爆発

JX-ENEOSの宮澤夕貴が『化けそう』な予感を漂わせている。開幕の富士通戦で12本中6本の3ポイントシュートを決め、22得点6リバウンド、3ブロック3アシスト2スティールの大活躍を見せ、以後の試合でも3ポイントを主体にポイントゲッターになっている。また宮澤に対抗して、開幕ゲームで目立ったのは富士通の長岡萌映子。インサイドを中心に攻めて17得点。こちらも、本来の点取り屋の姿を取り戻そうと奮闘中だ。

宮澤夕貴と長岡萌映子――。

今年23歳になる182cmの同級生。高校時代から注目を集め、自他ともにライバルと認め合う2人は、大型化を図る日本代表の3番(フォワード)として、この夏の五輪メンバーに名を連ねた。しかし、このポジションが一番手薄で、一番強化しなければならないことが、リオの舞台で明白となった。2人はずっともがいていた。期待に応える3番のプレーができないことに。

リオ五輪でのチームの華やかな活躍とは裏腹に、宮澤と長岡の出番は限られ、悔しい思いをしていた。内海知秀ヘッドコーチ(以下HC)の目はシビアだ。2人に対して「スピードある展開の中で3ポイントが打てず、ディフェンスで外の選手につけない」ことを課題として突き付けていた。

しかし、ただ悔しい思いをしに地球の裏側まで出向いたわけではない。オリンピックという大舞台は悔しさを味わいながらも、「自分の持ち味は何か」というテーマを気づかせてくれた場所でもあった。それぞれがもがいた結果、自分なりのフォワード像が見えてきたのだ。

消極的な自分を打ち破るための、トレーニングの日々

3ポイントを打ちまくるWリーグ開幕戦での変貌ぶりには驚きを隠せなかった。ましてやこの夏、ベンチを温めていたリオでの戦いを見ていたせいか、攻めまくる姿は新鮮だった。

その兆しはリオ五輪前の強化合宿から少しずつ見え始めていた。練習ゲームでは3ポイントを打つシーンが多くなっていたのだ。しかし内海HCからの求めるレベルには届かず、「今までの消極的な自分の壁を壊そうとチャレンジしているところです」と、練習後に黙々とシュートを打ち込む姿があった。

結果的に、その懸命な取り組みがリオで花開くことはなかった。だが、Wリーグの開幕戦で3ポイントが入った理由を聞くと、「一番は精神的に成長したからだと思います。去年までダメだったので、今シーズンは自分を変えたいという気持ちがすごく強かった。ダメな自分を乗り越えられる自信はあります」と言えるようになっていた。

そうは言っても、気持ちだけで試練を乗り越えられるわけではない。宮澤が日本代表の活動中に徹底的にやっていたのは、ウエイトトレーニングと走り込み。試合に出られない分、他の選手よりフィジカル強化に多くの時間を割いていたのだ。これは五輪期間中も欠かさなかった。

体つきを見れば、ウエイトで上半身が鍛えられたことは一目瞭然で、シュートを打つ際に体がぶれなくなっていることが分かる。宮澤が考える理想の3番像は「3ポイントが入る大型シューター」。とにかく、3ポイントにこだわった開幕戦だったのだ。

「今まで自分は3ポイントがないことで試合に出られなかった。3ポイントでいえば、栗原さん(三佳)が試合に出るし、自分とモエコを比べれば、モエコのほうが力強いので、先に出られないことは仕方ないと思っていました。でもそんな消極的な自分が嫌で、ずっとトレーニングをしてきました。これからも3ポイントを主体に、ドライブでもフィニッシュができる選手を目指して、次の代表ではしっかりと3番でプレーしたい」

迷いを取り払ったアメリカ戦での3ポイントシュート

代表選考の当落線上にいた選手が、短期間でここまで成長できたことに驚いているが、もし宮澤から迷いが消える決定打があったとすれば、それはリオ五輪のアメリカ戦で決めた1本の3ポイントではないだろうか。

6分34秒という短い出場時間の中で、コートに出てすぐに決めた3ポイント(2本中1本成功)。このときのシュートリリースには一切の迷いがなく、リングに向かう姿勢が今までと違って見えた。本人も「あの3ポイントは今までで一番うれしかったかもしれません。練習してきたことが実ったような気がして、自信になりました」と笑顔を見せる。

大舞台で得た感触を今度はWリーグで発揮する番だ。大事な試合でいかに自分の力を出していけるかが、宮澤夕貴を本物の3番にする。