富樫勇樹

東京オリンピックは3戦全敗、控えに回った富樫はインパクトを残せず

富樫勇樹がトム・ホーバス新体制となった最初の日本代表候補に招集された。Bリーグでの活躍を見れば当然のようにも思えるが、身長167cmと一際小さいサイズはバスケをする上でしばしば問題になる。サイズを重視するフリオ・ラマス前ヘッドコーチの下でも、唯一の例外として代表の主力であり続けた富樫だが、東京オリンピックで先発ポイントガードとして使われたのは『本職』ではないが193cmのサイズがある田中大貴だった。富樫は攻撃にアクセントを加えるシックスマンとしての起用でプレータイムは平均18.8分、得点も6.3と伸びなかった。

もともと富樫は自国開催のオリンピックを強く意識し、それでキャリアを積み上げてきた。海外志向の強かった彼が日本に戻り、Bリーグを主戦場にしたのも、「オリンピックでプレーするには、日本で一番のガードになればいい」という目標を立て、それを実現するためだ。彼の中で基準は様々あるが、「ポイントガードとして自分が千葉ジェッツを勝たせている」という点で、今ではその自信は揺るぎないものになっている。

東京オリンピックでは3戦全敗に終わった。彼自身も良いところを見せられず、インパクトを残せなかった。ただ、男子の日本代表がリオ五輪の予選での敗退以降、Bリーグの時代を迎えて爆発的な成長を遂げたことは間違いなく、その成長を鈍化させることなく2023年のワールドカップ、そして2024年のパリオリンピックへと繋げていくことが日本バスケ界の新たなミッションとなる。それは富樫にも同じことが言える。『海外組』が富樫より年下である一方で、これまで長く日本代表を支えた『国内組』で28歳の富樫はまだ中堅だ。これまで以降に彼がコート内外でチームを引っ張ることが期待される。

5戦全敗に終わった2019年のワールドカップに、富樫はケガで出場していない。この大会が終わった時点で、彼は日本代表について「塁がいるから勝てるわけではない。経験は足りなかったし、他にも対戦して初めて分かることもある。そういうことも含めてだんだん良くなっていくものです」と語っている。実際、それは東京オリンピックを経た今も変わっていない。

富樫勇樹

日本バスケの成長を頭打ちにしないために、富樫にもさらなる成長を

東京オリンピックという大きな節目は過ぎたが、新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期されたことで、ワールドカップとパリオリンピックは『すぐ先』にある感覚だ。日本代表とともに、富樫も気持ちを新たに再スタートを切る必要がある。彼にとって幸いだったのは、新ヘッドコーチのトム・ホーバスがサイズよりもスピードとスキルを重んじることだ。

彼自身、自分のプレースタイルに自信とプライドを持っていると同時に、そのスタイルを好まない指揮官であれば自分に活躍の場がないという危機感は常に持っている。「この身長でやっていく上で、もしかしたら代表はオリンピックが最後かもしれないと気持ちの上では思っていたし、監督次第では落とされてもおかしくないと思いながらやっているので、そこは監督次第です。だからと言って千葉でやるプレースタイルは変わらないので。それを評価してくれるんだったらもちろん頑張ろうと思うし、サイズのことでと言われればそれは理解しています。自分にできることを、まずチームを勝たせることが一番評価に繋がるので、と思ってやっています」

かくしてトム・ホーバスの下でも富樫は代表に選ばれた。ただ、フリオ・ラマスが富樫だけをサイズにこだわらない『特別待遇』で招集していたのに対し、トム・ホーバスは同じくサイズがないことで代表に縁がなかった選手たちを強化合宿に呼んでいる。トライアウトの切磋琢磨の中でチームを作っていくホーバスのスタイルは、女子日本代表と率いていた時と変わらない。

もちろん、富樫には競争を勝ち抜く自信があるはずだ。ただその一方で、東京オリンピック前に行われたアジアカップ予選で日本は中国に敗れており、富樫は先発起用されながら無得点に終わっている。「数字通りだし、数字に表れないところも含めてチームを全く助けられなかった」と振り返った悔しい試合から5カ月。今回の中国との2試合は、富樫にとって日本代表でのリベンジと再スタートの意味合いを持つことになる。