2023年に満了を迎えるカイリーの契約延長も厄介な問題に
ネッツのカイリー・アービングは新型コロナウイルスのワクチン接種について「プライバシーの問題」としてコメントを拒否しているが、彼を取り巻く状況からして未接種なのは間違いない。NBAの各チームは自治体のルールに従わなければならず、アメリカの中でも人口の多い大都市は基準が厳しい傾向にある。ネッツが本拠地を置くニューヨーク、そしてロサンゼルスとサンフランシスコでは、公共のアリーナでワクチン未接種の選手が活動することを認めていない。
ネッツの練習施設は公共ではなくプライベートな場所とされ、チーム練習には参加できるようになった。しかし、現状でアービングはバークレイズ・センターでの試合に出られない。このままだとホームゲーム41試合にすべてを欠場する他、ニックス、ウォリアーズ、レイカーズ、クリッパーズとの敵地での試合出場も認められない。
10月10日の練習後の会見でヘッドコーチのスティーブ・ナッシュは、「彼がホームゲームに出場できないことは認識している。何がベストな方法かはまだ分からないが、解決策を見いださなきゃいけない」と語り、カイリーが欠場する前提で開幕に向けた準備を進めていることを認めた。
チームはカイリーの意思を尊重しており、ケビン・デュラントはこう語る。「彼にはこのチームの一員としてプレーしてもらいたいけど、僕らにはコントロールできないことも多い。彼が自分で解決しなきゃいけないこともある。だからと言って彼を認めないわけじゃない。カイリーは特別な選手だから欠場を埋めるのは難しいだろうけど、みんながステップアップして、できる限りその役割を埋めたいと思っている」。ブレイク・グリフィンも「この先に何がどうなろうと、僕たちはカイリーをサポートしていく」と語っている。
カイリーが不在でも、ポイントガードはジェームズ・ハーデンが務められるし、スパーズから加わったパティ・ミルズを先発に起用することも考えられる。もともとゲームメークは多くの選手でシェアしており、当面はカイリーが敵地での試合だけの出場となっても選手起用の妙で乗り切ることはできそうだ。ただ、プレーオフ、そしてチームの目標であるNBA優勝を考えると状況は厳しい。相手よりも自分たち、『ビッグ3』を軸にチーム全体がどれだけコンディションを高く保って戦えるかが優勝のカギとなる中で、カイリーの出場にこれだけ制限があることは命取りになりかねない。
長いレギュラーシーズンを戦ううちにパンデミックが収束に向かって自治体が基準を緩和することも考えられるが、不確実性が高すぎる。各個人がカイリーの選択を尊重するのは良いとしても、組織としては非常に頭の痛い問題だ。
ネッツとしては、カイリーの契約問題も厄介なものとなっている。カイリーの契約は残り2年で、来シーズンはプレーヤーオプションとなっている。今夏にデュラントの契約延長を決めた際、ショーン・マークスGMはカイリーとの契約延長について「交渉を進めており、問題はないだろう」と楽観的なコメントをしていたが、当時と今ではまるで状況が異なる。4年1億8700万ドル(約200億円)の契約延長をオファーすると見られていたが、ネッツにとって今のカイリーはリスクが高すぎる。
さらに厄介なのは、今のネッツがデュラントとカイリーの友情からスタートした組織になっていることだ。カイリーは昨シーズンに無断でチームを離れたことで発言権をやや失った感があるものの、デュラントは『チームの顔』であると同時に、球団の様々な選択に関与する立場にある。球団がカイリーを冷遇することで、デュラントが不満を募らせれば、チームが空中分解する可能性もある。ネッツにとって最善のシナリオは、ニューヨーク州の基準が早期に緩和されることだ。現状のルールでは、他チームのワクチン未選手の選手は『非居住者』という扱いでプレーが可能となる。指揮官ナッシュは「半日ごとで新しい何かが起こっているのだから、条例が変わる可能性もある。誰も経験したことがない状況だけど、その都度の状況を理解して対応しなければいけない」と語る。
ネッツは優勝候補の筆頭として開幕を迎える。それでも、試合に集中できない問題を抱えてのスタートには一抹の不安が残る。