ヤニス・アデトクンボ

「僕はまだ満足していない。満足に近づいてさえいないよ」

NBA王者バックスが新シーズンに向けて始動した。ヤニス・アデトクンボは背後に置かれた優勝トロフィーに、もはや関心を示していない。「ラリー・オブライエン・トロフィーを抱いて眠りたかったんだけど、それほど長くトロフィーを独占させてはもらえなかった。トロフィーを持ってベッドに寝転んだぐらいだ。それからSNSで動画を見たと思うんだけど、トロフィーを持ってファーストフード店に行った。その後はパレードがあるからと取り上げられたんだ。でも、ギリシャに戻る時には優勝トロフィーとファイナルMVPのトロフィーを持って行った。友達に見せて写真を取ったり、パルテノン神殿やアクロポリスに持って行ったり。トロフィーがあったおかげで、故郷の子供たちに『君にもやれるんだ』というメッセージを伝えることができたと思う」

「すごく楽しかった。だけど、トロフィーはもう必要ない。もう終わったことだ」と彼は言う。

「今年のオフは短かったけど、自分を成長させるための取り組みは続けてきた。少ししか時間がなくてもスキルアップに努め、ケガした箇所のケアをした。僕はバスケが大好きだから、それに時間を費やすのは苦にならないよ。結局、僕はバスケットボールをしているから今の立場にいるわけだからね」

「僕の望みはもっと成長すること。トロフィーに興味はないし、MVPなどの個人タイトルも気にしない。ただ今よりもっと成長したいんだ。そうすれば、より多くのものが手に入れられる。それが僕のキャリアのすべてだ。僕らはチャンピオンになったけど、この肩にかかる重さは変わらない」

アデトクンボは今も自身の成長だけに集中し、王座を守るためではなくまた新たなタイトルを取りに行く『挑戦者』のマインドを持ち続けている。「僕はチームのリーダーとして、そういう雰囲気を作り上げていく」と彼は言う。

「良い習慣を身に着け、全員で一緒に競争して準備を進める。素晴らしいシーズンを過ごしたけど、満足はしていない。新しいシーズンに向けて自分たちの力を発揮するんだ。言ってしまえば、僕たちがまた優勝するとは誰も思っていないんだろう? だからこそ僕たちは一歩ずつ成長し続けなければならない」

彼の成長意欲のベースとなっているのは幼少期に見ていた両親の姿だ。アデトクンボは言う。「両親は僕らを養うために毎日休まず働いていた。楽しいことも悲しいこともあっただろうし、疲れていた日もあっただろうけど、常に働き続けた。それを見てきた僕が、どうして努力するのを止めてしまうのか? これが僕の考え方だ。できればこれからは子供たちが僕を見て、同じように育ってもらいたい。何があっても道を切り開き、克服する。誰かにアドバイスされたんじゃなく、これは僕がこの目で見てきたことなんだ」

会見を通してアデトクンボは上機嫌で、久々に会う顔見知りの記者それぞれと挨拶を交わしながら質問に一つずつ答えていったが、まだまだ成功に飢えていることは見て取れた。「僕はまだ満足していない。満足に近づいてさえいないよ」という彼は、今シーズンも『挑戦者』としてNBA優勝を目指す。