女子バスケットボール日本代表は東京オリンピックで銀メダル獲得を成し遂げた。この快挙はチーム全員の貢献によってなし得たものだが、ヘッドコーチを務めたトム・ホーバスの卓越したリーダーシップと采配が根幹にあったことは間違いない。日本のバスケ界に燦然と輝く偉業を打ち立てた指揮官に、オリンピックの激闘、そこに到るまでの道のりをあらためて振り返ってもらった。
「徐々に自分たちの成し遂げたことの達成感を味わっています」
──オリンピックが終わって、少し時間が経過した今、あらためて大会の感想を聞かせてください。
ファイナル進出を果たしたことは幸せでしたが、そこで敗れてしまったことには少し傷つきました。私たちは2つの目標を持ってオリンピックに臨みました。一つは金メダルの獲得であと一歩及びませんでしたが、もう一つは日本のスタイルを女子バスケットボールにおける新たなスタンダードとすることで、それは達成できたと思います。私たちは高いレベルでプレーし、それを多くの人々が楽しんで見てくれました。選手たちのメダル獲得はうれしく、感動的でした。
4年間、オリンピックの金メダルを追い続けてきました。その挑戦が終わってしまったことで、少し変な感じです。ハッピーですが、それと同時に少し心に穴が空いたようです。今はゆっくり、徐々に自分たちの成し遂げたことの達成感を味わっています。銀メダルを手にするため本当にハードな練習をしました。多くの代償を支払ったことで成功をつかみ取ることができて、とても素晴らしい旅路でした。
──オリンピックで一番印象的だったのはどの場面でしたか。
最も気持ちがたかぶったのは準々決勝ベルギー戦の勝利です。ここで勝てばあと2試合戦えますが、負けたら終了となる大きな別れ目でした。大会においてベスト8は常にタフな試合となるものです。最後、相手のラストショットが外れて1点差で勝てたのは最高の瞬間でした。
──終了間際、逆転の3ポイントシュートを決めた林咲希選手は、試合全体を通してシュートタッチは決して良くなかったと思います。それでも彼女を信頼してコートに立たせ続けた判断が勝利を呼び込みました。
林はチームベストのシューターです。また、第4クォーターで投入した5人がとても良いプレーをしていたので、このメンバーを変えたくなかった。それに林はチャンスがくれば、決めてくれると思っていました。残り4分の段階で、林から三好(南穂)に変えたほうが良いかとも思いましたが、「いやそれは違う、ここで変えずに行く」と決めました。
「故障などいろいろな問題が起こるのもバスケットボールの一部」
──振り返ればオリンピック前、特に2020年になってから渡嘉敷来夢選手のケガなど、多くの想定外の事態に直面しました。
渡嘉敷選手、本橋(菜子)選手がオリンピック前に故障で離脱したのは大きかったです。渡嘉敷選手はハードワークをしてくれましたが、残念ながら出場できませんでした。本橋選手は復帰できましたが、100%ではなかったです。2人のケガによって、攻守でシステムを変更する必要が生まれました。ディフェンスではトラップ、フルコートプレスなどよりアグレッシブになりました。これがオリンピックでとても機能しました。
林選手、宮澤(夕貴)選手はオリンピック前にひどく調子が悪かったので、彼女たちをメンバーに入れるのはタフな決断でした。しかし、メダルを取るには林選手のシューティング、宮澤選手のシュートとリバウンドが鍵になることは分かっていました。だから彼女たちにチャンスを与え、ありがたいことに2人ともオリンピックで活躍してくれました。
──コーチはどんな苦境にあっても自分たちのスタイル、選手たちへの揺るぎない信頼を常に口にしていました。言葉にするのは簡単ですが、実際にそれを貫くのは難しいものです。最後までブレずに信じ続けられたのはなぜでしょう。
世界中で最もハードに練習してきた自負があり、選手の実力、チームのシステムを心から信じていたからです。だから、誰か故障してもその穴を埋めることができる。もし複数の選手の調子が悪くてもチーム一体となって乗り越えられると思っていました。1人の選手に頼るのではなく、みんなのパワーを結集できる強い集団がチームのあるべき姿です。故障などいろいろな問題が起こるのもバスケットボールの一部です。しかし、メンバー全員が自分たちのやってきたことを信じることで、困難を乗り越えられる。これこそ私たちがやってきたことです。
──メダリストとなったことで、選手たちは多くのメディアに出演しています。選手たちの出演するテレビ番組では、コーチについていろいろなエピソードトークが出ています。どんな気持ちで見ていますか。
選手たちはああいった話をこれまで一度も私の前でしなかったのですが、とても面白いですね。テレビ番組に選手たちが出ている姿を見るのは好きです。多くの人々が今、彼女たちがどれだけハードな練習をして、素晴らしい結果を残したかを知っています。日本の女子バスケットボールの人気がどんどん増しているのは良いことです。これからより多くの人にWリーグの試合を見てほしいし、選手たちが子供たちにとってのロールモデルとなり、バスケットボールをプレーする人数が増えてほしいと思います。