指揮官「経験のある選手がいつもアドバイスをして、彼はそれをよく聞いている」
サンズは『負け犬』から脱却した。その気配があったのは昨シーズンの『バブル』でのレギュラーシーズン終盤戦に記録した8戦全勝だった。それでもこの時は若いチームにありがちな、一時的な勢いに過ぎないとの見方が大勢を占めていた。何度も跳ね返されて、戦い方を学んでいくプレーオフでいきなり結果を出せるとは誰も思っていなかった。
そのサンズが西カンファレンスを制した。前年王者のレイカーズ、MVPプレーヤーを擁するナゲッツ、そしてプレーオフで勝つのに必要な多彩さと粘り強さを備えたクリッパーズと、経験で上回るチームを次々と撃破する戦いぶりは称賛に価する。
誰もがキャリアハイライトと言うべきポストシーズンを迎えているが、クリス・ポールには百戦錬磨の経験があり、デビン・ブッカーもエースとしてチームを引っ張ってきた実績がある。今というこの瞬間、めくるめく日々に目を回しそうになりながらも、地に足のついたパフォーマンスを見せ、誰よりも成長の幅が大きいのが22歳、NBAキャリア3年目のディアンドレ・エイトンだ。
彼のプレーはシンプルだ。大型センターの中では誰よりもスピードとスタミナがあり、いち早く自分のレーンを駆け上がる。良いスクリーンをセットし、リムに飛び込む。オフェンスが上手くいってもそうでなくても、すぐさまディフェンスに戻る。通常であればビッグマンをオフェンスの軸に据えればペースは落ちるものだが、彼ならハイテンポなバスケにも対応でき、そこで得た優位を生かして相手を振り回すことができる。
その脚力はスピードだけでなくジャンプ力にも生かされ、フィフティフィフティのボールをもぎ取る、あるいはティップして相手に渡さない判断は非常に優れている。エイトンの頭上にリバウンドが跳ねれば、相手チームはサンズのポゼッションになることを想定しなければならない。リバウンドを取れたとしても、トランジションの出足は一歩も二歩も遅れることになる。この脚力が生み出すチームへのメリットは、1試合に何度も飛び出すピック&ロールからそのまま豪快に決めるアリウープよりも大きい。
しかしエイトンは、「プレーオフで僕が活躍できるかどうかは疑いの目で見られていたよね」と言う。「僕は結構それを気にして、変えてやろうと思っていた。自分に付いた疑問符を取り去って、みんなが間違っていたと証明したかった」
レイカーズ戦ではアンソニー・デイビスと、ナゲッツ戦ではニコラ・ヨキッチと。NBAを代表するスタープレーヤーを相手にエイトンは堂々のパフォーマンスを見せ、いずれもチームを勝利に導いたのだから、もう彼への疑問符は必要ない。クリッパーズとのシリーズでも、ピック&ロールからの多彩な攻めに対し、身体能力に頼らないクレバーなポジショニングと集中力で良いディフェンスを見せた。相手のピックに対し、ハンドラーに一瞬だけプレッシャーを掛け、味方がズレを埋める時間を作ってビッグマンへのマークに戻る。シンプルなディフェンスだが、その精度は高く、ミスがあっても引きずることなく遂行し続けた。
サンズの指揮官、モンティ・ウィリアムズも同意見で、エイトンについて「他のビッグマンが持っていないディフェンスの才能がある。彼に似たプレーのできる選手で言うと、ラマーカス・オルドリッジかケビン・ガーネットだろう」と語り、こう続けた。「それはチームメートと一緒に磨き上げたものだ。経験のある選手がいつもアドバイスをして、彼はそれをよく聞いている。1年間このシステムを続けた継続性があり、互いのプレーへの理解が深まったことで彼の成長に繋がったんだ」
エイトンに様々なアドバイスを送る『経験ある選手』の代表格がクリス・ポールだ。彼はエイトンについて「特にシーズン序盤には言い争いになったこともあるけど、僕はあいつのことを心から愛している」と言う。「今回のプレーオフで全米のバスケットボールファンが、ディアンドレがどんな選手かを知り、ドラフト1位指名に見合った選手だと理解してくれれば僕も幸せだよ」
36歳のクリス・ポールと22歳のエイトンの間にある強固な信頼関係が、サンズの強さを支える一つのカギになっている。NBAファイナルの舞台では、1年かけて築き上げたバスケットの集大成が見られるはずだ。