いよいよ東京オリンピックが開幕する。3人制バスケットボール『3×3』は7月24日に開幕し、5日間の日程で行われる。スピードと機動力で勝負する日本においてキーマンとなるのは、オールラウンダーの馬瓜ステファニーだ。サイズの不利を埋め、自分たちのペースで試合を進めるには、攻守にエナジーを出していく馬瓜のプレーが欠かせない。OQT(世界最終予選)でMVPに輝いた馬瓜は「あれはオマケ」と笑い飛ばしながらも、ここまで培ったチームの強さには揺るぎない自信を持っている。
「私の攻撃がさりげなくボディーブローのように効けば楽しい」
──OQTはとにかくオリンピック出場を勝ち取らなければいけない大会で、日本代表はその目標を果たしました。チームと個人それぞれで、満足度はどれぐらいでしたか?
チームとしては60%ぐらい。悪くなかったのはもちろんですけど、正直あまり良くもなかったと思います。最後の最後で盛り返して逆転して勝てたのはすごく良かったんですけど、逆に言えば自分たちの力を出しきっていたらスペイン戦はもっと違う展開になったと思います。準決勝のフランス戦、あとはウクライナ戦もそうでした。だから「もっとできた」という印象です。ガード陣に得点で頼りすぎないのが課題で、山本も篠崎(澪)さんもスピードはすごくて、海外の選手はついていけないので、自分たちインサイド陣ももっと頑張って相手を疲れさせないといけないと思っていました。
個人は50点です。グループリーグは2点シュートも自分の思っていたところで決められたし、インサイドへのアタックも積極的に行けたと思います。ですが準々決勝以降は体力の部分だったりでチームの足を引っ張ってしまって、もっと得点に絡むべきでした。
──大会MVPになったのに、個人の自己評価が50点というのは低すぎるのでは?
いやあ、あれは最後のシュートを決めたからなのでオマケです(笑)。
──他の強豪チームは小さい選手がいても1人、場合によっては全員がステファニー選手と同じ身長の場合もあります。篠崎選手、山本選手のスピードは大きな武器ですが、高さの不利もあるわけで、そこでリバウンドや身体を張ったり、自分がキーマンで失敗できない、という自覚はありましたか?
その自覚はありました。キーマンかどうかは分からないですけど、2人に対する相手のプレッシャーはすごくて、特に山本には絶対打たせないという気持ちを感じました。こうした状況で自分が外からも中からもアタックして、リバウンドも取ってディフェンスのカバーもして、すごく負担は多いんですけど、自分がそれをやることでガードの2人の負担を減らすことが日本にとってプラスだと思っていました。
自分がコケたら終わりだと思っていたし、でもプレッシャーというよりその部分を楽しんでいました。相手はあの2人しか目に入っていないかもしれないですけど、私の攻撃がさりげなくボディーブローのように効けば楽しいと思いながらやっていました。
──大舞台でもプレッシャーではなく楽しさを感じてプレーできる秘訣は何ですか?
一番はチームメートに対する信頼じゃないですかね。もちろん自分自身が頑張らないといけないんですけど、4人とも自分の仕事が分かっていて、だからこそ「自分がこのリバウンドを取れば、この人が必ず決めてくれる」という信頼感が今回の4人はすごく強かったと思います。それと、私たちは本当によく会話するチームで、自分の仕事が明確でした。あれもこれもと考えるとパニックになりますが、「これは絶対やる」と決めたことをやっていたので、緊張はしてもプレッシャーはなかったです。あとメンタルで言えば私は人にしゃべり続けて落ち着く体質なので、みんなはうるさかったでしょうけど聞いてくれて感謝しています(笑)。
──メンタル的に後手に回ったら不利な中、どの試合もすごく良い入り方ができて、自分たちのペースで試合ができました。
例えばフランスとは2018年に対戦しているんですけど、その時と比べると自信が全然違います。それだけのことをやってきたので、正直ビビりはしなかったですね。そういう意味ではこれまでやってきたことを生かすことができたと思います。
「最後まで戦い抜けばどこが相手でも勝てると思っています」
──Wリーグで優勝して3×3の代表活動に入ることができました。このことは良い勢いになっていますか?
本当に大きいです。私はシックスマンとして出してもらって、チーム全体を見ていたんですけど、個性がバラバラなチームでしたが今年は勝ちに対する貪欲さをすごく出して、勝つことだけを見据えて一つになっていたんですよね。優勝するために必要なメンタルを先輩たちから学ばせてもらったと言うか。
──OQTから帰国した会見で、「1年延期になっていなかったら勝てなかったと思う」と話していたのが印象的でした。東京オリンピックが延期になったこの1年で、ステファニー選手個人としてどのような成長がありましたか?
トヨタ自動車で去年から結構試合に出させてもらえるようになったんですけど、正直まだその器じゃないと思う部分が多くて、ゴール下はポロポロ落とすしディフェンスは抜かれるし、指示を聞いてもコートに入ったら忘れちゃうとかすごく多くて、試合に出てもチームの力になれていないと感じることばかりでした。
特に3ポイントシュートは去年2本ぐらいしか入っていなくて、この2年で大神(雄子)コーチとツーハンドだったのをワンハンドに変えるシュート練習を徹底的にやりました。でも今年も、練習では入っても試合では全然入らなくて、前半戦で決めたのは1本だけです。「自信を持って打て」と言われても、20何本も打って1本しか入らなかったんですよね。それでも大神コーチに「絶対どこかで入るようになる」と言われていて、後半戦のデンソー戦あたりからようやく入り始めて、それが気持ちの面でもすごく自信になりました。信じてやり続けて良かったと思いました。
──いよいよオリンピックです。自分たちで出場権を勝ち取って挑むことになりますが、OQTで小さい選手を2人並べるユニークなスタイルで結果を出したことで、これまで以上に相手に研究され、対策されると思います。どう乗り越えますか?
まず一番大事なのはディフェンスです。自分たちのスピードあるオフェンスを出すには、まず守らなくてはならない。OQTでもミスマッチをすごく狙われたし、相手のゴール下が決まらなくて助かった部分もあったので、オリンピックでも多分やってきますよね。そこをどう守るかの対策はコーチ陣がすごく考えてくれて、私たちもその練習をずっとやってきました。そういった意味で簡単に点を取らせないのが一番。相手がどれだけ対策しても、最終的に走り勝つのが私たちのスタイルなので、そういった部分を忘れずに最後まで戦い抜けばどこが相手でも勝てると思っています。
──オリンピックで初めて3×3を、ステファニー選手を知る人も多いと思います。そんな人たちへメッセージをお願いします。
スピードに乗ったプレーの一つひとつが目を引くパフォーマンスなのが3×3の魅力です。攻守の切り替えが早い中で、いつの間にか点を取っていたり取られていたりサプライズが多いし、試合時間が10分で21点先取でパッと終わっちゃうんですけど、その中にバスケットの魅力がいっぱい詰め込まれたスポーツです。OQTでも「細かいルールを知らなくても身を乗り出して見てしまう」みたいなコメントがすごく多かったので、そういうところを見ながら私たちと一緒に試合を楽しんでもらいたいです。