ブルース・ブラウン

「本当に必要なのは『ビッグ3』なのか」という疑問への一つの回答に

ケビン・デュラント、カイリー・アービング、そしてジェームズ・ハーデンという反則レベルの『ビッグ3』を擁したネッツは、ケガに泣く形でバックスとのGAME7で散りました。レギュラーシーズンで3人が同時にプレーしたのは8試合で200分程度と話題性に対して実稼働は極めて短く、バックスとのシリーズでも第1戦開始早々にハーデンがケガをし、第4戦ではアービングがケガをし、3人が揃ったのは1分足らずでした。

こんな状況でも東カンファレンス2位でプレーオフに進み、バックス相手に最後はオーバータイムまでもつれ込む接戦を展開しただけに、ネッツの持つポテンシャルは十分に証明されました。スティーブ・ナッシュがヘッドコーチ1年目であったことを含め、健康さえ保つことができれば来シーズンへの期待も膨らみます。

しかし、満身創痍でも健闘したからこそ「本当に必要なのは『ビッグ3』なのか」という疑問も沸いてきます。第5戦で復帰したもののドライブに行けず、3ポイントシュートも決まらないハーデンはゲームメーク能力のみで戦いましたが、デュラントの得点力さえあれば、それでも十分に戦うことができました。ハーデンが本調子ならばネッツが勝っていた可能性も高く、またアービングがケガをするまではネッツの優勢は揺るぎないものでした。

そう考えると、「スーパースターは2人いれば十分」な気もします。一方でネッツを支えたのは、得意の3ポイントシュートだけでなく、攻守に走り回ったジョー・ハリスや、3&Dの役割に徹しヤニス・アデトクンポを個人で止めたブレイク・グリフィン、マルチポジションで様々な役割をこなすジェフ・グリーンといった質の高いロールプレイヤーでした。

その中でも特にブルース・ブラウンの存在感は時にエースたちをも上回りました。

ピストンズ時代はポイントガードを務めていたにもかかわらず、ネッツでは実質的にセンターのポジションをこなし、ポイントセンターのようにインサイドでのプレー構築に何度も顔を出したブラウンは、的確なスクリーンでデュラントに楽なシュートを打たせ、サイドを変えながらのハンドオフプレーでバックスに狙いを絞らせず、スペースに飛び込む上手さで得点も重ねました。

193cmながら、自分よりも20cmも大きいブルック・ロペスのブロックにひるむことなくショートレンジのシュートを決め続け、反応の速さでオフェンスリバウンドに絡んだブラウンがいなければ、ネッツのオフェンスは単調な個人技の繰り返しに終始し、エースが外したら全く得点が伸びなかったはずです。特にスクリーンの上手さは際立っており、得点を奪うために焦ってディフェンダーをしっかりと止められないビッグマンも多い中で、スクリーンのスキルの大切さを改めて認識させてくれました。

ブラウンにとって『本職』とも言えるディフェンスでは、第6戦で38得点、フィールドゴール成功率69%と驚異的な活躍をしたクリス・ミドルトンを止めにいき、結果的に23得点は奪われたものの、ブラウンがマークしている時はほとんど決めさせず、シリーズ通してのマッチアップではフィールドゴール成功率を32%まで落としました。それこそバックスはスクリーンのスキルが足りず、ブラウンを剥がせませんでした。第6戦では5分しか起用されなかったブラウンが、『GAME7』ではオーバータイム含めて52分も起用されており、ネッツのキーマンに指名された形です。もしもネッツのビッグ3が揃っていたら、ブラウンにはプレータイムが与えられず、ディフェンスで違いを作ることはできなかったはずです。

勝ち抜き戦のように1on1を5回行うならビッグ3は超強力ですが、試合の中でシュートを打つのは1人だけ。ビッグ3を並べるよりもブラウンを加えた方が、エースたちは楽にシュートを打つことができ、ディフェンスでも相手エースを追い込めます。ひょっとするとネッツはビッグ3が揃わなかったからこそ、レギュラーシーズンで好成績を残し、プレーオフでもあと一歩までたどり着けたのかもしれません。

GAME7でデュラントはオーバータイムまで一度もベンチに座ることなく53分もプレーしました。第4クォーターの同点シュートも含めて最後まで正確に決め続けたことは脅威でしかありませんが、疲労の色を隠せなくても、なんとかエースの仕事を続けられたのは、本人のメンタリティの強さだけでなく、ブラウンのような選手が細かく助けてくれていたからです。目立たないながらも気の利いたブラウンのプレーは、デュラントというスペシャルなエースをさらに効果的にしていました。

そのブラウンもこのオフにはフリーエージェントとなります。ネッツは他にもグリフィンを始め、サラリーの安い良質なロールプレイヤーを揃えていたことが、タフなスケジュールのシーズンを戦い抜けた要因でした。それでも多くの選手がフリーエージェントとなる今オフには、再びロスター構築から始めなければいけません。

優勝のためにブラウンのような優れたロールプレイヤーを揃え、層の厚いロスターを作りたくても、ビッグ3にサラリー総額の70%近くを支払っている現状では簡単ではありません。一見すると輝かしいスター選手を揃えても、そんな簡単に勝たせてもらえないのがNBAのルールです。ビッグ3のケガも考えてエースクラスを補強するべきか、ブラウンのような質の高いロールプレーヤーを集めることに集中すべきか、エースがケガをする怖さとブラウンの有用性が示されたプレーオフを経て、ネッツが来シーズンに向けてどんな動きをするのかも注目されます。