赤川塁

赤川塁は白鴎大を半年で中退し、海外で自分の可能性を試す準備を始めた。彼がイタリア3部のトーディと契約を結び、ウンブリア州の山岳都市トーディへと向かったのは昨年9月。しかし、新型コロナウイルスの影響でシーズンは開幕せず、異国の地でひたすらワークアウトに励む日々が続いた。ようやくシーズンが開幕したのは4月末で、短縮日程となりレギュレーション変更で2部昇格の道もなくなったが、屈強なイタリア人選手を相手にした公式戦で、21歳の彼は大いに発奮してプレーしている。

「イタリアは戦術を重視するバスケ、どの選手も頭の回転がすごく早い」

──遅れに遅れたシーズンがようやく開幕しました。ここまで3試合を終えて、手応えはいかがですか?

初戦はホームの慣れている環境だったのでやりやすく、僕のチームは3部では強い方なので余裕を持てたし、最初からどんどん積極的に行こうと決めていた通りにやれました。デビュー戦は13得点でしたが、個人的にはまだまだもっとやれた感覚でした。日本人と比べて身体が強くて手足が長いので、日本では取られなかったボールの位置でもカットされたり、シュートをブロックされます。また当たりが強い分、ファウルがなかなか取られません。そこの基準は3試合やってもいまいち理解できていなくて、日本との違いという意味では一番苦労しています。

技術面では、1対1で突破する能力は日本人の方が上だと思います。イタリアでは1対1より戦術の中でズレを作ってシンプルに攻めることが多くて、突破力のある選手そのものが少ないと感じます。そこは上手いかどうかではなくスタイルの違いで、僕がこっちにいる時には強みだと思っています。

2試合目の前に相手チームが僕のInstagramをフォローしてきて、何かなと思ったらアタックに対しての守りを対策されていて驚いたのですが、今のところ3試合ほぼ同じ抜き方で得点が取れているので、大きい選手に対してアタックする分には結構やりやすいと感じています。逆に自分より10cmぐらい小さい選手とのマッチアップの方がやりづらいですね。

──イタリア人選手の特徴みたいなものは見えてきましたか?

僕は3部のレベルでしかやっていないので、上に行けば変わってくるかもしれませんが、戦術を重視するバスケをやっているのでどの選手も頭の回転がすごく早いです。一つの戦術を遂行するのはもちろん、それが上手くいかなかったら次のどうするのか、2つ3つ先のことまで予想してプレーしています。日本でもガードだったら考えると思うんですけど、全員がそこまで共通の意識を持ってプレーしているのは、3部であってもイタリアのすごいところだと思います。当然、僕も考えてプレーしないとチームの戦術を遂行できなくなってしまうので勉強になります。

──試合の映像を見ましたが、ガンガン仕掛ける姿が印象的でした。チーム戦術でも「行け」という感じなんですか?

ボールを持った時は攻めていいんですけど、チームの流れを見ずにやってしまうとすぐに下げられます。状況を見た上で、行くべき時は攻めろ、という感じですね。僕に求められているのはどんどん点を取ること、引き付けて外にさばくことで、試合の最初から積極的にプレーすることを求められています。第2クォーターになるとベンチに戻り、流れが悪くなった時にまた出ていく感じです。

赤川塁

コロナの影響で開幕が遅れるも「日本に帰ろうとは一切思いませんでした」

──今は生活のリズムもつかめたと思いますが、イタリアに行った当初は言葉も通じない異国での暮らしが大変だったのでは?

最初は生活のリズムが分かりませんでした。言葉は自分からどんどん行かないとしゃべれないとアメリカに行った時に感じていたので、練習前に家で勉強している時にスマホのロック画面とホーム画面にその日に話す内容を表示させておいて、それをチームメートに話して、分からないことを聞いたり発音を直してもらったりしました。それをメモして次の日までには暗記して、画面は違う言葉にして練習に行く、というのを繰り返しました。上達のスピードが早いか遅いかは分かりませんが、だんだんコミュニケーションが取れるようになりました。ロック画面は普通のイタリア語のフレーズ、ホーム画面はバスケの言葉、という感じでしたね。

──到着してチーム練習に参加し始めて間もなく、開幕が延期になりました。焦りとか不安があったのでは?

いつ開幕するのか分からなくて戸惑いましたが、日本に帰ろうとは一切思いませんでした。準備する時間が増えたので、開幕した時にはそれだけ良いパフォーマンスができるとポジティブにとらえていたので、ネガティブな感情は一切なかったです。僕が意識していたのはBリーグや大学でプレーしている年齢の近い選手で、僕がネガティブになっても差が開くだけだから、休んでいる暇も下を向く暇もないと思いました。

最初は週3のウェイトとプールトレーニング、週3はチーム練習をしていたんですけど、ロックダウンして3カ月ぐらいは体育館もトレーニングジムにも行けなくなりました。その間は家でトレーニングしたり公園でドリブルするぐらいしかできなくて、コートに立てないのは正直しんどかったです。でも、もともと僕はポジティブ思考なので、できることをやり続けようと思っていました。

──トーディはどんなところですか?

すごく田舎です。『進撃の巨人』みたいに山の上に城壁があって、その中が街になっています。僕の住んでいるところが街で一番高いところなので、屋上はものすごく見晴らしが良いんです。朝は早起きして、すぐ屋上に行って瞑想とストレッチで一日が始まります。朝と昼は自炊して、勉強をしてからチーム練習が始まる3時間ぐらい前に体育館に行って、走り込みや自分の課題をやっています。練習が終わると21時か22時で、チームの会長の家で晩御飯を食べて一日が終わる感じです。

赤川塁

「スタッツとプレー動画が次のキャリアを作る材料になります」

──イタリア3部はどんなレギュレーションで、そこで個人的にはどんな結果を残したいと思っていますか?

本来は昇格を目指して戦うのですが、今シーズンは参加を辞退したチームも多くて短縮日程になっているので全部で9試合しかなく、昇格もありません。でも僕は高校や大学時代の動画があるわけではないので、この9試合で積極的に得点を狙ってチームを勝たせる働きをしたいと思っています。そのスタッツとプレー動画が次のキャリアを作る材料になります。僕の目標の一つはBリーグでプレーすることで、日本の大学に行っていない選手にとってはスタッツと動画が大事になります。日本でプレーできるのが一番ですが、この9試合での活躍次第ではイタリアのトップリーグかヨーロッパの別の国から声が掛かる可能性もゼロではないので、そうなったら一生に一度できるかどうかの経験になります。

イタリアのトップリーグはかなり難しいチャレンジです。まず僕が外国人枠になるので、NBAでプレーしていた選手たちを差し置いてその枠に入るのはかなり厳しいです。それでも渡邊雄太選手のようにディフェンスだったりハッスルするプレーが評価されるのはイタリアも同じだし、日本人選手の特長が世界でも知られるようになっているので、自分も真似してどんどんアピールして、可能性を高めていきたいです。

──イタリアっぽい生活は楽しんでいますか? カフェでエスプレッソを飲んだり外食を楽しんだり、イタリア人の彼女とか……。

全くないですね。イタリア人はご飯を食べ終わったら必ずエスプレッソなんですけど、僕はコーヒーがあまり好きじゃないのでプロテインです(笑)。コロナのせいもあって外食はほとんどしていなくて、量り売りのピザを買って来て家で食べるぐらい。最初はチームメートが遊びに誘ってくれたりしていたんですけど、ロックアウトしてしまったので、交流もほとんどないんですよね。彼女もいないですし、バスケしかやってないです。こっちに来てから一回も遊びに行っていないです。

僕はここを通過点という目線で見ていて、慣れない環境でどれだけストイックにバスケに打ち込めるかだと思っています。だからイタリアに来る時に私服も持ってきてないんですよ。ジャージだけ。イタリアで遊ぼうとは一切考えずに来たので。

──高校から大学へと強豪校に進む、プロを目指す一般的な道から外れて海外での可能性を追いかけていますが、同じような挑戦をしたいと考えている選手もたくさんいると思います。そんな選手たちにアドバイスできることはありますか?

SNSでそういう質問をもらうことがよくあります。僕自身がそう感じたんですけど、大学の強豪チームで4年間やっても、Bリーグに入れる選手は1人か2人いるかいないか。僕の年齢は今が大学4年生の代なんですけど、全員が試合に出ているわけではないですよね。試合に出れないまま大学にいたら、スタッツも動画もない状態でBリーグを目指すことになりますけど、それはかなり厳しい。僕はそこで早く見切りをつけてヨーロッパに来ました。3部リーグでもキャリアになります。実際、同じ年齢のライバルや尊敬する選手より一歩先にプロの世界を経験できています。

僕の知っている選手でも、すごく才能はあるのに様々な事情で試合に出ることができない、それでモチベーションを保つのが難しくなり、才能があって上手くてもキャリアがないまま終わってしまうケースが少なくありません。スタッツもキャリアもないままトライアウトに賭けるよりも、勇気を出して海外に踏み出して良かったと思っています。