「ともに素晴らしい人生を歩むため絶え間なく努力してくれてありがとう」
現地5月15日、2020年のバスケットボール殿堂入り式典が行われた。レイカーズで数々の栄光を残したコービー・ブライアントも、晴れて殿堂入りを果たした。
プレゼンターを務めたのはコービーがあこがれ続けたマイケル・ジョーダンであり、。そして2020年1月のヘリコプター墜落事故によりこの世を去ったコービーの代わりに壇上に立ったのは、妻のバネッサ・ブライアントだった。
ジョーダンとともに壇上に上がったバネッサ夫人は、約12分のスピーチで、夫コービーが歩んできた道のりを語った。
「私は以前、夫を公の場で称えることを避けてきました。世界中のファンから称賛された彼を、誰かが現実の世界に引き戻さなければいけないと思っていたからです。その私が今、こんな名誉ある舞台で彼の功績を称えようとしているのですから、きっと彼は天国で笑っていることでしょう。彼が腕を組んで『なあ、すごいことだと思わないか?』とほほ笑む姿が目に浮かびます」
「できることなら夫にこの場にいてもらいたかった。この素晴らしい賞を受け取ってもらいたかった。彼とジジ(事故で亡くなった次女のジアンナ)はこの場所にいるべき存在です。ジジにも、父親が殿堂入りを果たす姿を見てもらいたかった」
「夫は、賞についてあまり話す方ではありませんでした。ですが殿堂入りに関しては、亡くなる1週間前に私の母と義父を式典に招待しようと話していました」
「もし夫がこの場にいたら、きっと、影響を与えてくれた人たち、彼を殿堂入りに導いてくれた多くの方達、家族、友人、メンター、レイカーズ、対戦相手、ミューズ(ギリシャ神話で文芸を司る女神)に感謝を述べたでしょう」
「私は今日のためにスピーチの原稿を用意してきませんでした。夫は、どのスピーチも即興でやっていたからです。彼は知的で、雄弁で、人前で話すことも含め、多才な人でした」
「殿堂入りを果たしたすべてのアスリートは、その技術を磨くために生活の一部を犠牲にしてきました。自分を突き動かし、相当な決意と鍛錬を自らに課しています。彼らの成功を軽んずることなど、誰にもできません。コービーのスタッツがすべてを物語っています。彼は規格外の選手でした。ただ、バスケットボールで近道を選ぶことなく、すべてを注いだのです」
「コービーは、ケガに次ぐケガとの戦いでした。いくつか例を挙げるとすれば、食中毒と風邪の症状を抱えていた時には、ハーフタイムに点滴治療を受けていました。鼻が折れていても、指が脱臼しても元の位置に戻して試合終了までプレーし続けました。指が回復せず、利き手ではない左でシーズン残り試合をこなしたこともありました。そして、アキレス腱が切れた後もフリースローを決めて、自ら歩いてコートを降りました」
「アキレス腱を切った後、コートを降りた時の彼の表情は忘れられません。深刻なケガなのは分かっていました。観客は彼に声援を送り、私は娘たちに『ダディなら大丈夫』と伝えました。ですが、通路に戻った彼は、ウィンクもキスもできない状態で、不安そうな表情でした。あの時のケガは重いものでしたが、そこからの復帰はさらに困難なものでした」
「周りの方々は知らないでしょうが、夫がケガと痛みを抱えながらプレーし続けた理由があります。彼は、父親と大好きな選手のプレーを大興奮して見ていたことを覚えている、アリーナの席に座って試合を見る幸運に恵まれたと語っていました。コービーは、ファンをがっかりさせたくなかったのです。ファンのためなら、彼はどの試合でもフル出場したいと思っていました。それほどまでに、ファンを愛していたのです」
「コービーは数々の功績を残してきました。NBA優勝5回、ニューヨークタイムズのベストセラー著者賞5回、オールスター選出18回、リーグMVP、NBAファイナルMVP2回、2度のオリンピック金メダル獲得、そしてプロアスリートとして初めてオスカーを受賞。まだまだ続けられますが、彼にとって最大の功績は、娘にとって最高の父親だったことです」
「本来なら、影響を与えてくださった方々に感謝の気持ちを伝える場なのでしょうが、私はコービーのリストを持っていません。ですから、夫への感謝の気持ちを言葉にしたいと思います。彼は成すべきことをやり遂げました。記録を更新し、周囲の人たちを突き動かす原動力でした。素晴らしいアスリート、先見の明のある実業家、ストーリーテラーとなるために努力を惜しまなかった彼に感謝しています。そして、何よりも素晴らしい家庭人になるために努力してくれた彼に感謝しています」
「コービー、最高の夫、そして父親になってくれてありがとう。過ちから学んでくれてありがとう。常により良い自分になることを目指してくれてありがとう。私たちを見捨てないでくれてありがとう。これまで一生懸命に努力してくれてありがとう。私たちを食べさせるため、ともに素晴らしい人生を歩むため絶え間なく努力してくれてありがとう。朝の4時からトレーニングして、家に戻って私におはようのキスをしてくれてありがとう。子供たちを学校に送って、練習に出かけて、子供たちを迎えに行ける時は迎えに行ってくれてありがとう」
「一度たりとも誕生日を忘れないでくれてありがとう。ダンスのリサイタル、学校の催し物、娘たちの試合もスケジュールが許す限り見に来てくれてありがとう。何よりも先に私たち家族に愛情を注いでくれてありがとう。私たちの人生に喜びを与えてくれて、世界中の人たちに喜びを与えてくれてありがとう。昨日より今日の自分を良くするために影響を与えてくれてありがとう。自分より他者を優先することを教えてくれてありがとう。私心なく、黄金のような心で愛してくれてありがとう」
「一度も私に『No』と言わず、大半は私のやりたいようにさせてくれてありがとう。辛抱強くいてくれて、そして寛大でいてくれてありがとう。あなたを現実世界に引き戻す役割を担わせてくれてありがとう。私の厳しい言葉を受け止めてくれてありがとう。同じような言葉をかけてくれてありがとう」
「ミニーである私にとってのミッキーでいてくれて、アリーにとってのノアでいてくれてありがとう。生涯を通じて私に沢山の愛情を注いでくれてありがとう。私も、いつだってあなたを選んできたわ」
そしてバネッサ夫人は、スピーチの最後を最愛の夫であるコービーへのメッセージで締めくくった。
「おめでとう、ベイビー。これまでの努力が実ったのよ。夫は以前、私にこんなことを言いました。もし誰かに賭けるのなら、自分に賭けろ、と」
「あなたは自分自身に賭けた。そして多くのことを手にした。やり遂げたのよ。バスケットボール殿堂入りを果たしたのよ。あなたは真の王者。MVPだけではなく、史上最高の選手。本当に誇りに思う。これからもずっと、コービー・ビーン・ブライアントのことを愛し続けます」