ロイス・オニール

ゴベアを経由せず、オニールが『インサイドのプレーメーカー』に

45試合を経過しても首位を走るジャズのオフェンスは、誤解を恐れずに言えば『退屈』に感じるようになってきました。あまりにも論理的で、あまりにも美しく完成された戦術であるが故に、毎試合同じ選手起用とプレーで淡々と勝利を積み上げており、そこにはジェットコースター的な手に汗握る面白さがありません。戦術が日々進化していくNBAでは、猛威を振るった戦術でもあっという間に対策されるものですが、変化をつけずとも首位をキープできていることは脅威です。

エースのドノバン・ミッチェル、ポイントガードのマイク・コンリー、そしてシックスマンのジョーダン・クラークソンとガード陣には個人で突破できる選手が揃っており、ほとんどのオフェンスがガード中心に組み立てられています。そこにボーヤン・ボグダノビッチやジョー・イングルスといったシュート力の高い選手が絡み、3ポイントシュートアテンプトがリーグで最も多いのが特徴です。

3ポイントシュートでディフェンスを広げた後は、ガード陣がドライブで切り裂くとともに、ルディ・ゴベアとデリック・フェイバーズがゴール下で合わせて押し込んでいくのがジャズの強みで、この合わせ方も見事にシステム化されています。全員がアンセルフィッシュなプレーに徹し、しかもパスを出す選手が3ポイントシュートかゴール下か、どちらにパスを出すかをディフェンスの状況を見て適切に判断していくため、分かっていても止められない論理性を持っています。

これらのオフェンスシステムはミッチェルが加入した4年前から積み上げられてきたもの。『連携が深まった』ことは成功の一つの要因ではあります。ただ、オフに目立った補強をしていないにもかかわらず、今シーズンになって大成功しているのは、これまでになかった新たな要素を付け加えたことにあり、この変化が論理的なジャズオフェンスをさらに止めにくくしています。

キーマンになっているのは全試合でパワーフォワードのスターターとして出場しているロイス・オニールです。ディフェンスが主たる仕事のオニールは、3ポイントシュート成功率こそ41%と高いものの、7.4得点、2.5アシストとオフェンスでの貢献度が低く見えます。しかし、ミッチェルに次いで長いプレータイムが表すように、ジャズにとっては欠かせない戦力として機能しています。

実はジャズで最も多くのパスを出しているのがオニールで、チームで唯一、1試合平均50本以上のパスを出しています。これだけのパスを出しながら2.5アシストというのは驚異的な少なさで、特殊中の特殊な役割を担っていることになります。一方でゴベアのパスは昨シーズンの平均47.4本から23.0本と半減し、これは30分以上プレーする選手としてはリーグで5番目に少ない本数です。ゴベアの場合はディフェンスリバウンドに強く、そこからパスを出す機会が多いことを考えると、驚異的に少ない本数です。

ジャズは今シーズンになって『ゴベアを経由しない』ハーフコートオフェンスに変更しており、これまでジャズにいなかった『インサイドのプレーメーカー役』をオニールに任せました。多くのパスを出すオニールですが、ボールタッチ1回あたりのボール保持時間はリーグで最も短く、パスを受けた瞬間には次にパスを出す先を決めているかのようなスピードで次のプレーに移っていきます。このオニールによる『繋ぎのパス』がオフェンスに連続性をもたらし、同じプレーの繰り返しでも相手ディフェンスが対応できない形を作り出しています。

今のNBAではニコラ・ヨキッチやバム・アデバヨのような『ポイントセンター』は欠かせない存在になりつつあります。3ポイントシュートが多いからこそ、インサイドで上手くパスを出してプレーメークする選手の重要性が増してきました。しかし、ハイレベルで実行できる判断力とスキルを持つセンターは限られており、重要だと分かっていてもロスターに加えるのは簡単ではありません。特にジャズはディフェンスの中心としてゴベアは必要不可欠な選手であるため、どうしてもアウトサイド中心のオフェンスにせざる得なかったのを、オニールをインサイドのプレーメーカーにすることで解決してきました。

このオニールの活用法はインサイドのプレーメーカーに困っている他のチームにも広がっていく可能性を持っており、新たな流行を生み出すかもしれません。プレーオフになってオニールを徹底マークされた時に、ジャズが解決方法を見いだせるのかも重要で、そこで簡単に機能しなくなるのであれば流行はしないでしょう。また相手チームからの警戒が薄いオニールだからこそパスを受けやすい事情もあるため、ディフェンスを特徴にする選手が向いている役割であることは、シュート力の低い選手が生き残るヒントにもなり得ます。オニールとジャズがプレーオフでも成功するかどうかは、チーム戦術としても個人の活用法としても新たな流れを生み出す可能性を持っています。