取材=栗原正夫 構成=鈴木健一郎 写真=Getty Images

「どんなに良いゲームをしても負けは負けなので」

渡嘉敷来夢は今回のリオ五輪で、日本代表に不可欠な存在であることを改めて証明した。1試合平均17.0得点、6.3リバウンドはいずれもチームトップ。だがそれ以上に目立つのは、初戦から36分、37分、33分、38分、36分、36分というプレータイムの長さだ。世界と戦う上でどうしても高さでは日本は劣る。その弱点を埋めて攻守にチームを支えた渡嘉敷は、文字通りの「欠かせない存在」だったというわけだ。

アメリカとの決戦を終えて、渡嘉敷は試合をこう振り返った。「やっぱり勝負なので、どんなに良いゲームをしても負けは負けなので悔しいです」

準々決勝の相手、アメリカはやはり強かった。日本が仕掛けるハイテンポなパスゲームに応じ、打ち合いの末に100点ゲームで勝利。それでも、完敗の試合を「チームとして『走るバスケット』はできました」と言い切る渡嘉敷の表情は明るかった。

「本当に最後、良い形で自分たちのすべてを出せた、やり切ったと思います。もうちょっと上で当たりたかった、本当は決勝で当たって、もっと良いゲームをしたかったですけどね。でも最後、相手がアメリカで終われたのは良かったです」。これはシアトル・ストームのチームメート2人がいるアメリカが渡嘉敷にとって近しい存在だからだ。「もう、金メダルを取ってもらう気満々なので」と、肩の荷を降ろした渡嘉敷は笑う。

個人的な出来は? との問いに、渡嘉敷はこう答えた。「まずまずじゃないですかね。これが今の自分のレベルだと思います。でも、今の自分にも満足していないし、ここで終わるとも思っていないので。これからもっともっとレベルアップして、アメリカの舞台でも日本の舞台でも、そしてまた世界の舞台でも、自分を出していけるように、そしてもっとみんなにマークされるように頑張ります」

目を引くのはチームトップの得点数だが、それ以上に欠かせないのはディフェンス面での高さと強さだ。

「日本のバスケット界をもっともっと盛り上げたい」

リオでの挑戦は終わった。ベラルーシ戦からアメリカ戦までの6試合、オリンピックという舞台での戦いを渡嘉敷は「すごく楽しかった」と語る。「自分が成長できるというか、バスケット人生の中で一番大きな出来事だと思うので。本当に一言で言うと楽しかったなという気持ちでいっぱいです」

リオ五輪は、従来の日本のバスケットボールファンにとっては渡嘉敷のすごさを再確認させる大会になった。それだけではない、「五輪だから」というきっかけで渡嘉敷を「発見」した人は、日本に、そして世界に何十万人といることだろう。大会前に渡嘉敷が掲げた『渡嘉敷という選手がいるよ、ということを知らしめたい』という目標は十分に果たされたはずだ。

それでも渡嘉敷は冷静だ。「自分自身、出すものは出したと思うんですけど、周りの方がどう評価するかですね。でも、『世界の渡嘉敷だ』と思っていただいたとしても、私は『いや、まだまだだぞ』と言いたいです。自分はもっとできる、これからもそう思ってやっていきたいです」

直近の2大会は出場すらかなわなかった五輪の舞台でベスト8進出。これは誇っていい結果だが、渡嘉敷は「出場したら出場したで、人間は欲が出るじゃないですか」と言う。「2年後の世界選手権、そして4年後のオリンピックでメダルを取って、日本のバスケット界をもっともっと盛り上げたいです」

4年後には東京五輪が控えている。それでも今の渡嘉敷が目標にするには「ちょっとまだ早いです。とりあえずアメリカに帰って試合に出たいので(笑)」とのこと。彼女が見ているのは2020年どころか来週末、中断期間が明けるWNBAだ。「オリンピックが終わって、また26日から試合が始まるので、次に向けてしっかりコンディションを整えてやっていきたい」

繰り返されるケガに苦しんだのはもう過去の話。リオ行きの切符を手にしたアジア選手権と比べても、渡嘉敷のレベルアップは明らかだ。日本では突出した存在になりつつあるが、それでいてAKATSUKI FIVEの『走るバスケット』に違和感なくフィットし、チームメートを生かすとともに自分も生かされている。4年後の東京五輪に向け、渡嘉敷は来週末にリスタートを切る。

オフェンスでもディフェンスでも相手の大型選手と激しい衝突を繰り返す役割をこなしながら、信頼に応えて長時間プレーし続けたタフネスぶりにも称賛を贈りたい。