「自分がやらなければという気持ちでコートに立ちました」
ENEOSサンフラワーズは第87回皇后杯を制し、8連覇を達成した。渡嘉敷来夢がベスト8の序盤に負傷退場するなど、かつてない逆境を乗り越えENEOSが『女王』の座を維持できたのは、持ち味の堅守速攻を最後まで貫いたからだ。40分間を通して走るバスケットボールを展開したことで相手は終盤にガス欠となり、ENEOSはイージーシュートを次々と作りだし引き離していった。
この勝ちパターンを続けられたのは、チームの根幹であるディフェンス、リバウンドが崩れなかったからこそ。渡嘉敷が不在の中、このディフェンスを支えたのが宮澤夕貴だ。また、「前の2試合はマークが厳しく、シュート打つチャンスが限られていました」とベスト8、ベスト4では渡嘉敷がいないことで相手の徹底マークを受けてオフェンスでは苦しんだ。
しかし、決勝のトヨタ自動車戦ではそれまでの試合における宮崎早織、中田珠未らの活躍もあり、宮澤への警戒意識が薄まった。さらに「トランジションでみんなが走ってくれたおかげで自分にパスが入りました」との要因もあり、決勝では前半で15得点、中でも第2クォーターだけで10得点を記録。第1クォーターにトヨタ自動車の長距離砲爆発を受けて劣勢を強いられたチームが悪い流れを断ち切ってハーフタイムを迎えられたのは、ここ一番における宮澤の奮闘があってこそだ。
数々のタイトル獲得に寄与していた抜群の勝負強さを今回もしっかり見せた宮澤だが、渡嘉敷離脱の際には百戦錬磨の彼女でもさすがに「自分の中で最悪の展開も考えました」と危機感があった。
だが、これまでENEOSがチームとして培ってきた組織力への信頼が揺らぐことはなかった。「その中でも、自分たちのバスケットをやれば勝てる自信はありました。それはディフェンス、リバウンドから走るバスケットです。どんな相手に対してディフェンス、リバウンドが崩れない。全員でリバウンドをとって走る展開を最後までできたことが勝ちに繋がったと思います」
そして渡嘉敷不在を受け、「メンタル面では渡嘉敷選手がいない分、ちゃんとやらなければいけない」とこれまで以上にリーダーシップを意識した。「苦しい状況になると、いつもは渡嘉敷選手がインサイドで解決していたのが今回はいない。自分がやらなければという気持ちでコートに立っていました」
「一人ひとりが高い意識を持って毎日キツい練習を」
「これまでで一番うれしい優勝」と試合後のコートインタビューで目を潤ませながら語ったように、宮澤にとっても満身創痍のチーム状況で掴んだ優勝は格別のものがある。だが、同時に彼女はすでにWリーグでの12連覇に向けて、気を引き締めてもいる。
残念ながら渡嘉敷が、今シーズンのリーグ戦で復帰することはない。同じく皇后杯を欠場した梅沢カディシャ樹奈も松葉杖と、いつ戦線復帰できるのか不透明だ。だからこそ、宮澤は言う。
「これからリーグ戦は再開します。渡嘉敷選手がいない、主力選手もいない。そこで他のチームがステップアップしていく中、自分たちも成長しないといけないです。もう一回リーグ戦で優勝するためには、ここで油断しないで、どうやってチームとして戦っていくかをまた全員で考える。一人ひとりが高い意識を持って毎日キツい練習を繰り返していかなければいけないです」
この優勝の喜びに少なくとも年内はひたっていてもいいのでは、と外野は素直に思ってしまう。だが、宮澤は、勝ち続けていくためにはシーズン中にわずかな油断も許されないと強調する。そのことを自分が伝承していく責任があると理解している。
「この必要性を自分たち経験のある選手たちが若い子たちに伝えていかないといけない。その役割もあるので、今回うれしいですけど、次に向けて考え直さないといけないとすごく思います」
ENEOSがなぜ長年に渡って『女王』として君臨しているのか。宮澤はプレーと言葉の両方においてその真髄をこれ以上ない形で披露した。そんな今年の皇后杯だった。