ジェイレン・サッグス

「僕たちはハードワークし続ける」

再建チームがプレーオフ進出を果たすまでの道のりは極めて険しい。上り坂の勾配は進めば進むほどキツくなり、基本的には勝つことより負けが多いのでストレスも溜まる。右肩上がりの成長が続くことはなく、最善の例でも『三歩進んで二歩下がる』を繰り返しながら成長していく。悪い例だと坂道を転げ落ちて再スタート、最悪の例ではそれを繰り返すことになる。

マジックは2020-21シーズンのトレードデッドラインにニコラ・ブーチェビッチ、アーロン・ゴードン、エバン・フォーニエ、アル・ファルーク・アミヌの主力4選手を放出して再建へと舵を切った。その後の2年間は22勝、34勝と勝てなかったが、再建3年目の今シーズンに47勝を挙げてプレーオフに進出。ジャマール・モズリーがディフェンスとハードワークをチームに植え付け、ロースコアの展開に持ち込んで2年目のパオロ・バンケロが終盤の勝負強さを発揮して接戦を競り勝つスタイルは見応え十分だ。

2021年のNBAドラフトで指名したジェイレン・サッグスとフランツ・バグナー、2022年のパオロ・バンケロと、振るわなかった年の上位指名権を有効活用し、彼らがチームの主軸に収まった。彼らはまだ何年もこのチームで活躍できるし、サラリーキャップにも余裕がある。3年目でプレーオフ・チームへと躍進したことは、マジックの明るい未来を予見させる。

そのプレーオフではキャバリアーズとの『GAME7』を落としてファーストラウンド敗退。第4シードのキャブズと第5シードのマジックに目立った力の差はなく、あと少しの上積みがあれば勝つこともできた。それが分かっていたからこそ、敗退が決まった直後のサッグスは人目をはばからず涙を流した。

エースはバンケロで、それに次ぐ得点源はバグナー。サッグスの役割はディフェンスで先頭に立ち、エナジーを発揮する背中を仲間に見せることだが、オフェンスでも彼は平均12.6得点を記録しているチームのサードオプションで、しかし『GAME7』ではフィールドゴール13本中成功わずか2本と大ブレーキ。「もっとやれたはず」と思うからこその涙だった。

しかし、思うような結果が出なくてもマジックの未来が明るいのは間違いない。それが分かっているからこそ、翌日にシーズン最後の取材に応じたサッグスはプレッシャーから解放された朗らかな表情を見せた。「この1年のことを誇りに思う。小さな瞬間の積み重ねが驚くべき成長に繋がった。練習への準備、練習への取り組み、試合にどう入って、試合で何を学ぶか。これまでは個人として良いプレーをすることを意識していたけど、今シーズンは個人よりもチームが優先されるようになった。チーム全員に起きたその変化が僕は大好きで、今シーズンは意義のあるバスケができたと思うし、だから本当に楽しかった。そして、これは僕らの今後のキャリアに繋がっていくんだろうと思う」

「しばらくはゆっくり休むよ。家族との時間を過ごして心を落ち着かせ、シーズン中には会えない人たちに会いたい。シーズン中はそんな時間がほとんど取れないけど、家族や友人と一緒にいて、バスケ選手じゃない自分を楽しむことも大切だからね。でも、それからは来シーズンの準備を始める。今シーズンは僕のキャリアで最も充実したものになったけど、それは去年のオフのトレーニングが今までで一番充実していたからだ。自分のいろんな面を成長させる夏にしたい」

シーズン終了のその瞬間から、マジックには来シーズンのさらなる飛躍を期待する声が上がり始めた。『勝てるチーム』になった今も、サラリーキャップには余裕がある。若いチームに経験を補うことのできるシューターが補強ポイントになっており、クレイ・トンプソンやトレイ・ヤングといったビッグネームが浮上している。

ただ、それはサッグスの考えることではない。彼が考えるのは、勝つ喜びを知ったからこそ今まで以上に勝利に貪欲であろうとすることだ。そして、補強がどうなるにせよ今のコアメンバーで今後も長く戦い続けたいと願っている。

サッグスはこう語った。「僕らは勝利の欲求に駆り立てられ、一緒にプレーする喜びを感じている。それをできる限り長く保ちたい。だからこそ今回の負けは悔しかったけど、それは次にスタートする時のエネルギーになる。今後も上手くいくと約束されたわけじゃない。それを確実にするために、僕たちはハードワークし続けるんだ」