文=神高尚 写真=Getty Images

目立たないポジションが持つ『隠れた強さ』

ファイナルでキャブスをスイープし、圧倒的な戦力をみせたウォリアーズ。4人のオールスター選手がいる中で唯一の弱点と言われるポジションがセンターです。その一方で、ザザ・パチューリア、ジャベール・マギー、デイビッド・ウエスト、ケボン・ルーニー、ジョーダン・ベル、さらにはスモールラインナップで起用されるドレイモンド・グリーンも含めれば6人と、最も層が厚いポジションでもあります。

主役の多いチームの中で目立たないポジションではありますが、試合中のセンターの使い分けが生み出すウォリアーズの隠れた強さに触れてみます。

シーズン前半のスターターはパチューリアでした。その特徴は身体を張ってスクリーナーとなってフリーの選手を作り出すことと、パスの中継点として繋ぎ役になることです。またディフェンス面でもフィジカルな戦いを強いて、相手のキープレイヤーをゴール下から排除することです。

オフボールムーブの中でスクリーナーのパチューリアが作り出すスペースは、シューターの多いスターターを生かしました。しかし、本人のプレーに荒さが目立ったことだけでなく、シーズン中に主力が順番にケガしたことから、特徴が生きにくくなり出番が減っていきました。

センター3人の使い分けでオフェンスパターンが変化

次にスターターになったのはマギーです。ビックマンでありながら高い身体能力を持ち、高さと速さを併せ持ったセンターですが、細かいポジショニングや判断力に欠けています。マギーの高さは大きな武器であり、周囲もロブパスを活用してフィニッシュさせていきます。センター陣の中でゴール下のフィニッシャーとして最も有能な選手です。

特にカリーとのピック&ロールの相性が良く、ディフェンスからするとカリーの3ポイントシュートを警戒しなければならない中で、どうしても前へとプレッシャーをかけざるを得ず、裏のスペースに速さも高さもあるマギーが飛びこむと止めることが難しくなります。ディフェンスからするとマギーの存在は、常に裏のスペースを警戒する必要が出てくるため、ウォリアーズはコートを広く使えるようになります。

第2クォーターになるとウエストが登場します。かつてのオールスター選手であるテクニカルなベテランはミドルシュートを得意とし、ポストから素晴らしいパスを通すプレーメーカーでもあります。

マギーにより裏のスペースを警戒させられていたビックマンは、今度はウエストのミドルシュートによって外まで引き出されてしまいます。するとパスの上手さを生かしてガード陣のカットプレーをアシストします。このプレーと相性が良いのがオフボールムーブの達人であるクレイ・トンプソンです。起点となるボールの位置がウエストのインサイドポストなので、ディフェンスからするとボールとトンプソンの両方を視界に入れるのが難しくなります。

センター3人の使い分けでオフェンスパターンが変化するため、ディフェンスはその都度警戒すべきプレーが変化します。弱点と思われたポジションがシステムの違いをもたらすのです。

最も信頼を勝ち取ったのは献身的なルーニー

しかし、プレーオフで最も長い時間プレーしたセンターはルーニーでした。特徴には欠けるもののオールラウンドな能力で信頼された選手です。マギーほど高さはないもののスキルで上回り、ウエストほどスキルはないものの高さと運動能力で上回ります。そして何より余計なプレーは省き、自分の役割であるスクリーンとリバウンドを黙々とこなし、ポジショニングミスやターンオーバーも少ない献身的な選手です。

また目立たない武器としてディフェンス面でアウトサイドまで守れることが挙げられます。ウォリアーズがスクリーンを多用してスイッチを促すように、相手もまたスピードのミスマッチを誘導してきます。そんな時にどんな相手でも守れるのがルーニーの特徴でもあります。特別な能力を持たないけれど、チーム戦術を理解し自分の役割を徹底するオールラウンドで安定した存在がルーニーでした。スターターではなくても、ヘッドコーチのスティーブ・カーは困った時にルーニーを起用してきました。

そんなルーニーのオールラウンドさにスピードを付け足したのがベルです。センターとしてはサイズがないものの、それを補うだけの運動能力を備え、ガード相手でもアウトサイドまでプレッシャーをかけるディフェンス能力があります。ミスマッチ誘導が主流になっているNBAでは重要な能力です。運動量にも優れ、様々な場面に顔を出してきます。その一方でルーキーでもあり、ポジショニングミスやイージーミスは目立ちました。ルーニーを上回る武器はあるものの、安定感を欠きます。

ベル以外はフリーエージェント、新たな編成にも注目

パチューリア、マギー、ウエストでオフェンスに変化をもたらし、万能なルーニーとベルでディフェンス面に主軸を移していくセンター陣の使い分け。相手の出方によって違いを作ることができるのは、ウォリアーズが持つ細かな強さです。他のポジションに豪華なメンバーを揃えるからこそ、センターでの柔軟な起用法は目立ちました。

そんなセンターたちは、ベル以外がこの夏にフリーエージェントになります。誰を残し、新たに誰を加えるのか。ドワイト・ハワードなんて噂もありますが、チームとしての強さを求めるウォリアーズなので、単なる個人能力ではなく、チームとして戦略的な有効性を見極めて判断するはず。そんな思惑と動きにも注目したいシーズンオフです。