取材=丸山素行 構成=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

Bリーグと同じ「いつものプレー」と「いつもの勝利」

30分の出場で25得点12リバウンド。川崎ブレイブサンダースでの昨シーズンの平均スタッツが30分出場、25.3得点、10.9リバウンドだから、Bリーグで見慣れたニック・ファジーカスの『通常運転』を我々は千葉ポートアリーナで見たことになる。相手は世界の強豪オーストラリアだったが、ファジーカスにとっては何ら問題はなかった。

代表発表の時点で「アンダードッグの扱いになるだろうが、ホームゲームで満員になるだろうし、みんな日本を応援してくれる」と語り、代表に何をもたらすかを色紙に書いてほしいとリクエストすると、力強い文字で「WIN!!」と書いた。ファジーカスには日本代表の苦戦続きの歴史と無縁でいたためか、必要以上に相手を大きく見ない。NBA選手との対戦にも「日本でも元NBAの肩書きで来て、予想を下回るプレーの選手を見てきた」と意に介さなかった。八村塁も同様で、「勝つチャンスはあるし勝たなければいけない」と考えている。そのメンタルがチームに伝播し、アップセットを実現させた。

フリオ・ラマスとともに記者会見場に現れたファジーカスは「とても興奮しているよ」と話し始めたが、その言葉とは違い表情は淡々としたもの。日本バスケの歴史を変えた感慨はそこにはなく、ただ一つの試合に勝っただけ、まだ次もある、という雰囲気を醸し出していた。

「自分を止められる選手は誰もいない」の気持ち

「個人的にはいつも『自分を止められる選手は誰もいない』という気持ちで試合に臨む。今日の試合もそうだった。自分が得点を取れる場所、リバウンドを取れる場所を見つけ、チームを勝利に貢献できる方法を見つける。それが自分のできること」とファジーカスは語る。

それも試合前に入念な準備を重ねてきたからこそ。ナショナルトレーニングセンターでの強化合宿中は、練習漬けの単調な生活に少々面食らっていたようだが、それが成果につながったことも理解している。「3週間半に渡って激しいトレーニングをして、多くの準備をしてきた。コーチは、相手にどう対応するのか素晴らしいアイデアを持っていた」と、隣にいる指揮官を称える。

「22のオフェンスリバウンドを取られたが、彼らは多くのシュートを外した。ゾーンディフェンスがうまくいったと評価すべきだ。僕たちは出だしがうまく行き、要所でシュートを決められた。時にはミスもあったけど、ほとんどリードしてプレーできた。本当に素晴らしい試合だったし、チームを誇りに思う」

「大事なのは数字じゃなく勝てたことだ」

ファジーカスが言うように、ゾーンディフェンスが効果を発揮し、オーストラリアのフィールドゴールを82本中28本(34.1%)と抑えたことが勝因となった。リバウンドは34-28、特にオフェンスリバウンドで10-22と圧倒されたが、セカンドチャンスを与えても簡単には得点を与えない粘りは40分間を通じて発揮された。ファジーカスの隣に座るフリオ・ラマスも「前回の試合でオーストラリアはリバウンドで我々を27上回った。今回は6で、これが勝利の最も重要なカギとなった」と話す。日本の28リバウンドのうち、12がファジーカスによるもの。オーストラリアのフィジカルに負けず、実直にリバウンドを押さえ続けた。

そしてオフェンスではフィールドゴール19本中10本(52.6%)とBリーグで見せているのと変わらぬ効率の良いプレーを披露。「自分が川崎でやっているような貢献ができた」と、この点ではファジーカスも誇らしげだ。「試合の出だしはあまりシュートが入らなかったけど、3ポイントシュートを連続で決めたことで乗ることができ、試合の中で自分が打つべきシーンをしっかり見つけられたと思う」

「でも──」とファジーカスは言う。「大事なのは数字じゃなく勝てたことだ」

オーストラリアには勝ったが、月曜にアウェーで行われるチャイニーズ・タイペイ戦で勝たない限りは1次予選敗退となる。自信にはなったが、過信や油断は禁物。「WIIN!!」を積み重ねてきたファジーカスは、そのことを肌で感じている。