ファジーカスと八村の加入で「テンポは早くなる」
ニック・ファジーカスと八村塁が加わったことでAKATSUKI FIVEのインサイド陣は様変わりした。2人ともフリオ・ラマスの下でプレーするのは初となるが、センターとパワーフォワードの1番手を務めることになりそうだ。そんな中、日本代表のインサイドを長年支えてきた太田敦也は、どうすれば彼らがもたらすチームのレベルアップを最大化できるかを考えている。
「僕自身に求められるのは中で身体を張ることで、そこは変わらないでしょうけど、塁とかニックの出方で僕の役割はどんどん変わってくると思います。ディフェンスは今まで通りでいいけど、オフェンスで彼らをどれだけ気持ち良くやらせてあげられるかを意識しています」
八村の資質とファジーカスの実力は太田も認めるところ。「塁は身体能力と向こうでやってきた技術があります。ニックは安心してボールを任せられるし、彼自身の得点能力がすごく高いです。チームの得点力が上がったのはもちろん、展開が早くなると感じています。ヘッドコーチのやろうとしているバスケ自体が変わるわけではないのですが、どんどん展開が早くなっていて、そこはすごく良いことだと思います」
その変化とは具体的にどういうことなのか。個人がもたらすであろうチームスタイルの変化を太田はこう説明する。「塁はリバウンドを取ったら自分で持っていけます。3番や4番の選手が自分で持っていけると、一度ガードにボールを預けることがなくなりテンポは上がります。ニックはスピードがあるわけじゃないんですけど、タッチダウンパスのように、リバウンドを取った深い位置からいきなりパスを展開できる。それでバスケの印象は随分変わると思います」
ド派手な2人と比べると、太田は決して派手な選手ではない。「全く違いますね。マジで目立たないとは思います」と太田は笑うが、自分の特徴がチームに何をもたらせるかは理解している。「僕が入ることで流れが良くなる、パスが回る、ボールが止まって1on1で無理に攻めていた状況が変わるという、チームバスケが見られるようになればと思います」
一つひとつにどれだけ身体を張って仕事ができるか
もともと太田はチームの潤滑油としての役割を強く意識してきた。以前は「自分の得点はゼロでもいい、極論すればシュートを1本も打たなくても気にしないです。逆に自分のチームのシューターの得点が伸びなかったり打つ本数が少なく、チームとしてうまく回っていないような時は、試合後にすごく悔しい思いをします」と、スクリーンやスペースメークでシュート機会をお膳立てする下支え役としての自負と責任感を語っていた。
「それはもちろん変わらないです。チームプレーができているな、気持ち良くボールが回っているな、とお客さんが感じてくれた時に、自分は良い仕事ができていると思っているので。オフェンスになったら得点を取る選手に目が行くのは当たり前ですけど、そこで自分も仕事をしていたいです」
一つのリバウンド、一つのスクリーン、その一つひとつにどれだけ身体を張ってしっかり仕事ができるか。「そこから始まるバスケットがあると思っているので、注目は浴びなくていいです」と太田は言う。「一つのスクリーンでズレを作って、そのズレは距離で言えば1メートルもなくて、もしかすると30cmとか40cmぐらいかもしれませんが、そこからオフェンスが生まれて最終的にシューターが気持ち良く打って決めてくれれば。その最初のきっかけを作ろうとしているところを見てほしいですね」
「続けられる環境を与えてもらえるのはうれしいこと」
長いシーズンを終えた後で、コンディション的にはどの選手も万全ではないはず。常にインサイドで身体を削りながら戦うスタイルの太田であればなおさらだ。それでも太田は士気高く今回の国際強化試合を迎えようとしている。「疲れてはいますけど、年齢も年齢なので長く休むと戻ってこれなくなるし、こうやって続けられる環境を与えてもらえるのはうれしいことです。やる気に満ち満ちていますよ」
自分の働きでチームバスケットを機能させ、ファジーカスと八村が加わった代表でその新しい形を作り出すことを太田は楽しみにしている。そんな新しいオフェンスの可能性の一つには、太田が目立つという選択肢もあるはずだ。「そうですね、彼らのところに相手ディフェンスが寄った時に僕がどれだけ点を取れるのか。それができれば2人もまたプレーしやすくなるので、心の準備だけはしておきます(笑)」
主役だけではチームプレーは成り立たない。サポート側に回ることの意義を誰よりも感じる太田だが、機会があれば主役を演じる準備はできている。主軸に新たな戦力を加えるからこそ『チームの潤滑油』の重要性は増すはず。玄人をうならせる太田のプレーはいつも以上に楽しみだし、そう伝えると太田は「そうであってほしいです」と大きな笑顔を見せた。