取材=丸山素行 構成=鈴木栄一 写真=野口岳彦

優位を保つ展開も「一瞬も気が抜けませんでした」

アルバルク東京がチャンピオンとなって終わった2017-18シーズン。最大の功労者としてチャンピオンシップMVPを受賞したのは田中大貴だった。セミファイナルのシーホース三河戦では、第1戦で相手エースの比江島慎を12得点に抑えると、続く第2戦では26得点をマーク。敵地での2連勝でファイナルに進む原動力となった。そして今日のファイナルでも15得点5アシストと攻守に躍動。満場一致でのMVPと評すべきパフォーマンスだった。

「やっぱりディフェンスをみんなで頑張って千葉さんに得意なファストブレイクを出させず、焦られたことが勝利の要因だと思います。千葉さんにやりたいオフェンスをさせたり、ボールを動かされるとキツいですが、準備したことを徹底してそれを防げたのが良かったです」

実際、この試合で千葉に許したファストブレイクポイントは4点のみ。そして、ジャワッド・ウィリアムズのハーフコートショットによるブーザービーターというビッグプレーで43-33とリードを広げてのハーフタイムでは、次のように考えていた。

「10点リードした時点で、向こうのシュートはあまり入っていませんでした。このまま試合が進めば焦ってくると思っていたので、そうなれば自分たちはハーフコートオフェンスを組み立てて、うまく点数をつなげればじわじわ開くんじゃないかという考えはありました。ただ、ああいうオフェンス能力が高いチームですので、一瞬も気が抜けませんでした」

「基本的なことを毎日、同じように繰り返してきた成果」

実際、第3クォーター序盤に連続得点でリードを14点に広げるも追い上げを食らい、残り約4分には5点差まで追い上げられる。振り返れば一番の正念場だったが、そこからすぐに突き放し、結果的に12点リードで第4クォーターを迎えたことで、A東京は大きく勝利を引き寄せた。

この5点差となった状況を田中はこう振り返る。「あの場面は、一気に流れが向こうに行ってもおかしくなかったところですが、ずっと練習で鍛えられたことで我慢できるようになりました。自分も嫌な流れだと思いましたけど、うまくカムバックして点差を広げることができました」

この『鍛えられた』は、まさに今シーズンのA東京を象徴する言葉だ。レギュラーシーズン中でも2部練習を積極的に行うリーグ随一の練習量は、劣勢になった時でも慌てない、ここ一番の場面でこそ心身ともに揺るがない強さをチームに植え付けた。

「本当に基本的なことをずっと毎日、同じように繰り返してきた成果が出た感じです。代表選手が抜けたり、ケガ人が出てうまく揃わない時期もありました。ただ、限られたメンバーでもしっかり練習をしているのを、自分が代表活動している時でも見ていました」

「試合前は何をしてもこの試合のことがよぎりました」

2桁リードで迎えた第4クォーター、時間が経過して優勝目前になってもプレーは雑にならず、千葉に付け入る隙を与えなかった。そんな強さについて田中はこう語る。「ヘッドコーチやジャワッド(ウィリアムズ)から『スコアボードを見るな』と。目の前のポゼッションを全力でやって、試合が終わってからスコアボードを見ようと言ってくれて、それですごく安心しました。みんなが目の前のことに集中してやれたと思っています。審判にも全然文句は言ってなかったし、どんなことが起ころうと気持ちを次に切り替えて一生懸命戦いました」

最後に田中は優勝の感想について、喜びとともに重圧から解放された点を強調する。「普段あまり感情を出さないので、皆さんがどう思われているのか分からないですが、正直、試合前は何をしてもこの試合のことがよぎりました。食事をしていて気持ち悪いこともありました。でも試合が始まってしまえば、いつも通りに試合に入れました。試合までの時間が一番苦しかったです。正直ホッとしていますし、これから優勝の実感がどんどん湧いてくると思います」

トヨタを母体とする『ビッグクラブ』でありながら、2011-12シーズン以来タイトルから遠ざかっていた。そのアルバルク東京の『顔』として、プレッシャーがなかったはずはない。それでもBリーグ優勝という目標を果たした今、ようやく勝利の余韻に浸りながら、心置きなく勝利の美酒に酔うことができているはずだ。