京都ハンナリーズの新たな指揮官、小川伸也「魔法の練習もないし、魔法のフォーメーションもない」

京都ハンナリーズの新たな指揮官、小川伸也「魔法の練習もないし、魔法のフォーメーションもない」

2020/09/03
小川伸也

京都ハンナリーズは今夏、チーム再編へと舵を切った。9シーズンに渡りチームを率いた浜口炎に代わりヘッドコーチを務めるのは、37歳の小川伸也。育成型クラブの滋賀レイクスターズを成功に導いたショーン・デニスのアシスタントだったコーチだ。滋賀県出身で、現役時代は滋賀のポイントガード。滋賀のイメージが強いが、洛南高校出身で京都には思い入れが強い。「僕には洛南高校に育ててもらった恩があります。洛南に直接というわけではありませんが、京都で良いチームを作って結果を出せば、それが恩返しになると思っています」と小川は言う。ショーン・デニスに鍛えられた彼は、一つひとつ積み上げることの大切さを理解している。実績あるベテランと伸び盛りの若手を擁する京都は、彼の下で大きく変わろうとしている。

「若いから、を言い訳に使いたくない」

──滋賀で現役を引退したのが2015年です。 求められた仕事をこなしていくうちに、バスケットボールのコーチ業のおもしろさややりがいを感じるようになったのですか?

天職だとは思いませんね。今でさえ自分がコーチに向いているのかどうか(笑)。他の人より教えるのが上手いと思ったこともないですし、自分がああしたい、こうしたいと人を引っ張っていくタイプでもないので。正直、この仕事を面白いと思ったこともありません。この仕事は結果が出せない時が一番苦しいです。選手が信じてやってくれている中で結果が出ないと、すごく責任を感じます。そこでどう修正していくかがコーチの面白さでもありますが、苦しさでもあります。

それこそスクールで小さな子供を教えて、バスケットボールの魅力を感じてもらう仕事は楽しいですよ。でもプロでやる以上は結果を出すことが仕事だし、楽しさよりも責任感をまず感じます。どうやったらチームが良くなるか常に試行錯誤していくのがコーチの仕事なので、やっぱり不安との戦いになります。

──それでも37歳の若さでB1のチームでヘッドコーチになりました。

年齢的には確かに若いですけど、僕より年下でコーチをやっている人もいますからね。これで他のコーチがみんな50歳を超えていたら「若いなあ」と思うかもしれないですけど、自分だけが突出した存在だとは思わないです。それにヘッドコーチという仕事をする上で年齢は全く関係ないし、少なくとも言い訳にはなりませんよね。1年目のヘッドコーチだろうが20年目のヘッドコーチだろうが同じ舞台に立つわけですから。そこで「若いから」を言い訳に使いたくないという思いは僕の中にあります。

──ベテラン勢とはほぼ年齢が変わりませんよね。接し方はどうしていますか?

意識していないですね。内海(慎吾)や(石谷)聡が年が近いからといって友達のように接してくるわけではないので。そこは選手がしっかり尊重してくれています。

小川伸也

「攻めるよりもまずしっかり守って流れを作るチームに」

──では、ヘッドコーチをする上で大事にする考え方はありますか?

滋賀の西村(大介)社長とアメリカに行く機会があって、西村さんがアメフトのコーチ留学をしていた時に出会った言葉として教えてもらったのが『プレー・ライク・ア・チャンピオン』です。チャンピオンのように今日プレーしよう、日々の心構えからそうしよう、ということです。毎日の練習も「この練習で優勝できますか?」、試合に向けた準備も「この準備でチャンピオンになれますか?」と考えたいです。

チャンピオンのA東京、千葉とかSR渋谷と戦うことができるか。このテーマを僕はすごく大事にしていて、選手たちにも話しています。それが大前提となるチームルールですね。練習でも開始15分前に準備ができていることを求めています。「15分前に体育館に来てパパッと準備して練習を始めるのが正しいですか」、「それでチャンピオンチームと戦えますか」、と。ただ、最低限の枠組みは決めますけど、あとは選手たちに委ねます。ここからは君たちがどういうチームになりたいのか、どういう選手になりたいのか。自分たちで決めなさい、と。変にブレていたら指摘しますが、このチームは炎さんがしっかり指導されていたのでマインドは素晴らしいです。そこに口出しする必要を感じたことはないですね。

──規律とチームワークを重視する浜口コーチが9年間率いたチームです。『炎イズム』は今も残っていると感じますか?

もちろんです。京都の選手はものすごくしっかり挨拶できますよ。これは炎さんが築き上げたものなんだと思います。整理整頓もすごくできます。選手が自ら荷物を一つにまとめて、マネージャーも気を利かせていろいろやってくれます。当たり前のことなんですけど、人に見られているところでは頑張るけど、それ以外は適当なチームもあるので、このチームに来て最初に感動したのはそのことですね。子供を指導する時、挨拶をしっかりしなさい、整理整頓をしなさいと言うじゃないですか。それは大人になる上で大事な基礎だし、バスケ選手になっても大事になることだからです。そういう行動はコミュニケーションに繋がり、チームワークになります。

──新体制となった京都はどんなバスケをするのでしょうか。ジュリアン・マブンガ選手が移籍したので、これまでとは大きく変わることになりますよね。まず『小川ヘッドコーチのバスケ』はどんなスタイルになりますか?

これだけテクノロジーが発達してSNSでいろいろ出る中で隠し事はもうできないし、特別なことをしようとは思っていません。僕はこれまで素晴らしいコーチたちの指導を受けてきました。それぞれのコーチから教えてもらったことを自分の中で噛み砕いて、自分流に取り入れていきます。マブンガ選手が移籍してしまったのは仕方ない。だから全員でバスケットをするし、攻めるよりもまずしっかり守って流れを作るチームにしたいです。

それが僕のシステムとは言いませんが、チャンピオンチームと点を取り合って勝つのは簡単じゃありません。そういう意味では守り合いに持ち込みたいし、そこではリバウンドとルーズボールがカギになります。ディフェンスではもちろん基本的なルールはありますけど、泥臭く戦えることが第一です。それなくしてシステムでカバーできるとは思っていないので。システムは絶対どこかのタイミングで破られます。最後、エマージェンシーに対応するところで泥臭く戦うことを重視しています。そのディフェンスから良い展開で流れるようなオフェンスをしたいですね。

小川伸也

「プロセスを大事にして一つひとつ積み重ねていく」

──まだ外国籍選手が合流していませんが、今いる選手たちの様子を見ると、そういう展開のバスケはできそうですか?

やってみないと分からないのが正直な感想ですけど、個人個人で武器を持った選手が多いので、その武器は生かしてあげたいと思います。KJ(松井啓十郎)だったら3ポイントシュート、寺嶋(良)ならドライブ、(満田)丈太郎ならトランジションですね。ヘッドコーチとしてこういうバスケをやりたいという枠組みはありますが、その中で個人の良さを出してもらいたいです。

──昨シーズンは勝率が5割を切りました。再スタートのシーズン、目標はどこに置きますか?

やるからにはトップを目指すのが当たり前だと思っています。ただ、チームに対して「絶対優勝するぞ」とか「ベスト4を目指す」とかは一切言っていません。結果が大前提のプロスポーツですけど、僕が選手に言うのは「プロチームとして価値のあるチームになろう」ということです。応援したい、もう一回見てみたいと思われるチームってどんなチームなのかを、自分の中で落とし込んでいった時に、もちろん最初には勝つことが来ます。でもそれ以降を考えた時に、シュートやドリブルがものすごく上手いよりも、泥臭くルーズボールに飛び込んだり、ベンチから仲間を全力で応援したり、チーム一丸で戦う姿を見せることだと思います。そういう姿勢に僕は感動するし、応援したいと思います。逆に試合中にチームメートを非難したり、ネガティブな態度を取る選手を僕は応援したいとは思いません。全力で戦うことで何かを感じ取ってもらえるようなチームを作りたいです。

──勝負はやってみないと分かりませんが、チャンピオンチームと比べると戦力は少なからず見劣りします。その中で結果を出すことに責任を負うわけですから、大変なシーズンになりそうですね。

正直、どのチームにいても大変な仕事だと思います。良い選手がいればいるほど全員の良さをすべて出すのは難しいですよね。京都は現状で言えばKJや永吉(佑也)のような実績のある選手は少ないかもしれないですけど、でも若さはあるし伸びしろもあります。彼らを生かすも殺すも自分次第という思いでやっています。それに、魔法なんてないんですよ。魔法の練習もないし、魔法のフォーメーションもない中で、プロセスを大事にして一つひとつ積み重ねていくことが成功に繋がる道だと僕は信じています。

そこにはお互いをリスペクトする姿勢も必要です。どの仕事もそうだとは思いますが、バスケには『解』がないじゃないですか。それでも正解に近づけていこうと試行錯誤するのが僕らの仕事です。そこではいろんな人がいろんな間違いをするんですけど、それを認めて受け入れないと積み重ねができていきません。

──開幕まであと1カ月、そんなバスケを実現させるために、今は何が大事だと思いますか?

ケガをしないことですね。コロナの影響を感じる状況ではありますが、ディフェンス、リバウンド、ルーズボールを頑張る泥臭いチームを目指す中で、コンディショニングはすごく重要です。疲れた時に足が一歩出る、ルーズボールに飛び込めるとか。それができれば相手に「京都とは戦いにくい」と感じさせることができます。相手に嫌がられるチーム、なおかつ応援してくれる人たちに「試合を見たい」と思ってもらえるチームが僕の意識するところです。

──では最後に、開幕を待つブースターの皆さんへのメッセージをお願いします。

結果を見ておいてください、みたいなカッコいいことは僕には言えないです(笑)。僕がああだこうだ言っても結局プレーするのは君たちなんだから、自分たちで率先してやらないといけない、と選手には言っています。声を出せとかディフェンスしろとか、外からガーガー言われるんじゃなく、コートにいる自分たちが声を出して戦うのが良いチームですから。主役は僕じゃなくて選手たちなので、選手を応援してあげてください。よろしくお願いします。

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