古川孝敏は栃木ブレックスのBリーグ優勝に貢献し、ファイナルMVPを獲得。琉球ゴールデンキングスでは西地区優勝に貢献している。『Bリーグの主役』の一人である古川が昨夏に秋田ノーザンハピネッツへの移籍を決めた当初は、本人も「周りから『なぜ秋田?』と言われます」と語っていた。それから1年、秋田で彼が何を目標としてバスケに取り組み、どんな手応えを得ているのか、あらためて語ってもらった。

「もっと良くなるチームだと感じたシーズン」

──古川選手はリリースで3年契約ということを公表していますが、秋田での1年目はどんなシーズンでしたか?

「このチームでやりたい」、「このチームならできる」という強い思いで秋田に来たのですが、個人的にはケガが多くてチームに申し訳ない気持ちがすごくあります。その中でもチームとしては徐々に良くなって来た部分があって、特にシーズンが終わる直前ではあったけど、何となく自分たちでもつかみかけているものがありました。チームとしてはまだまだですけど、「これだ」というきっかけになる部分が見えてきていたので、このチームはもっと良くなると感じたシーズンでした。

──「チームとしてはまだまだ」という言葉が出ましたが、チームとして一番足りていないと感じた部分は何でしょう?

まだまだ粗削りな部分が多いことです。秋田の武器は『激しいディフェンス』とヘッドコーチも含めて全員が口にしています。もちろん、そのマインドはチーム全員が分かっていますが、ただやっているだけというか。言ってしまえば賢くなかったなと。若い選手が多いので経験不足という点もあるかもしれません。

勢いがあれば勝てるけど、勢いがないと全然ダメで、結局は自滅する試合が多くて。やりたい意図や目的が文字として頭に入っていても、それを遂行しきれない。ディフェンスが武器と言ってハイインテンシティでやっているけど、ただ激しいだけで身体を使えていなかったり、1試合を通して我慢して勝ちきることはほとんどなかったと思います。技術的な部分ではない、ベーシックな部分での試合に対する準備やお互いの考えや意識の共有がなかなかできていなかった感じですね。

数字で言うと、ディフェンスリバウンドはB1で最下位に近いですし、スティールは多いけど逆にファウルを与える数も多い。スティールはある意味ギャンブルな部分でもありますよね。言い換えると固いディフェンスができていないということでもあります。 これはあくまでも僕の感覚でしかないのですが、そこのさじ加減を上手くやっていけたらなと感じました。

──なるほど。そういうところを全部ひっくるめて『粗削り』ということですね。

そうそう。ネガティブなことを言いましたけど、逆にそこができればもっと戦えるチームなんです。やっぱりメンタリティの部分も多少はあるのかなと思いますね。強いチームはどんな試合でも自分たちのバスケットを遂行し続けて最後に勝ちきるのですが、その力が秋田にはまだありません。

「過去よりちょっと勝てればそれで良しという話ではない」

──実際にその足りない部分を古川選手はすでに気が付いているわけじゃないですか。秋田は若い選手が多いですが、どういうアプローチをしてチームを引っ張っていましたか?

常に感じたことは伝えたいと思っていたし、試合中も練習中も常にコミュニケーションを取る意識を持っていました。こうした方が良いのかなと思うことがある中で、『チームとして自分たちはどうすれば良いのか』という部分を明確にしていくことが大事だと思っています。チームとしてやるべきこと、個人個人に対して感じたことを伝えた中で、それぞれが上手くできる方法が何なのか、というのをお互いに探していけるようなコミュニケーションを取っていました。

別に僕の考えが必ず正しいわけでもないので、「これも良いと思うけど、どう思う?」とか。そうやって秋田としてベストなものを作り上げていくために、自分の思いを伝えている感じですね。このチームならできるし、勝てると思っているので、そのために自分ができることは最大限やっていきたいです。

──昨シーズンは19勝22敗で、チームとしてはB1での最高勝率を記録しました。手応えはどうですか?

まだまだですね。数字はそうかもしれないけど、過去よりちょっと勝てればそれで良しという話ではないので。過去と比較して勝ち星が増えたこと自体は良いことですが、まだまだやらなければいけないことが多いので、満足せずやっていきます。新シーズンはロスターもあまり変わらないですし、自分たちが積み重ねてきた部分や良くなってきているところがゼロにならないように、さらに上積みしていきたいです。

──では、個人的なことを聞かせてください。今まではアイシンや栃木、琉球など優勝争いが当たり前のチームにいました。秋田はまずチャンピオンシップ進出を目指すチームであり、古川選手個人としては日本代表からも離れています。そこへの焦りやもどかしさはありますか?

あまりないですかね。代表でやりたい気持ちはもちろんずっとありますよ。正直、今は少し遠のいている立ち位置は自分でも認識しています。ただ、これから新しいことを身に着けるという歳でもないので、今持っているモノの深みだったり、正確さを身に着けていくことが大事だと思っています。代表にしろチームにしろ、やるべきことは変わらないです。もちろん、もっと上手くなるために細かいスキル練習などはやっていきますよ。でも特別なことをするというよりは、自分の力をチームで常に100%出し続けることが大事ですね。

勝率だけ見ると、強豪チームに比べてまだ未熟な部分はありますが、僕自身、勝つためだけにこのチームを選んだわけではありません。もちろん結果がすべての世界なので勝つことは大前提にありますが、そのために僕からこのチームに伝えるべきことがたくさんあります。 勝つことがすべてと思うなら勝てるチームに身を置いていたかもしれませんね。

──勝利に対するその考え方は昔からですか? それとも年齢を重ねて変わった部分でしょうか?

もちろん所属しているチームで勝ちたいという気持ちはしっかりあります。すごく極端な話ではありますけど今までは、自分が上手くなりたいという気持ちが第一にあって、それが代表にも繋がると思っていました。

ただ、今は上手くなりたいという気持ちもある中で、自分が今まで積み重ねてきたものを伝えていく立場になったと思っています。それが昨夏に秋田を選んだ理由でもあって、このチームで自分の経験や感じたことを伝えながらやっていく方が絶対に楽しいだろうなって。

「誰に何を言われようが関係ない、強い意志を持ってやっていく」

──実際に今までよりも勝率だけでいうと劣っていますが、楽しさややり甲斐という部分では上回っていますか?

しんどいですけどね(笑)。やらなければいけないことが多い中でヘッドコーチとも話しながらやっているけど、全部ひっくるめて簡単ではないし、何連敗もしてつらい時期もありましたから。それでもやり甲斐があるし、楽しくやれていると思います。

──それでは、秋田で2年目となる新シーズンの目標を教えてください。

チャンピオンシップ出場とかではなく、優勝を目標にしています。もし僕たちがチャンピオンシップ出場というモチベーションでやっていたら、優勝を目指している相手と戦えないですよね。東地区というのも僕には関係ありません。僕たちはどんな相手や状況でも自分たちのバスケットを100%出すことが重要で、だからこそ優勝を目指す。そのためにはハードワークが必要だし、誰に何を言われようが関係ないので、強い意志を持ってやってきたいです。

──最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします

今シーズンはこれまでみたいに、会場で一緒にできないかもしれません。それでも僕たちは間違いなく気持ちはいつも一緒ですし、皆さんのためにプレーしたいという強い気持ちがあります。今まで通りとはいかないかもしれませんが、僕たちは変わらず一緒に戦っていますし、こんな状況ではありますが皆さんも一緒に戦ってほしいです。僕たちもプレーを通して元気を与えていけるようにするので、一緒に頑張って戦って行けたらと思います。

──ありがとうございます。秋田にとって古川選手がいることは大きいと感じた取材になりました。

足りない部分だの勝てていないだのいろいろ言いましたけど、僕はこのチームが嫌いなわけじゃないですからね(笑)。 逆にとらえると良くなる部分が多い分、これからがすごく楽しみなチームです。秋田がもっと良くなっていくためにできることを最大限にやっていきたいし、まずは僕がちゃんと若者に栄養講習をしていきます。