日本バスケの育成環境を変える『リーグ戦の導入』、トーナメント文化からの脱却が日本バスケを強くする

日本バスケの育成環境を変える『リーグ戦の導入』、トーナメント文化からの脱却が日本バスケを強くする

2020/07/21

バスケットボール

「選手の成長する土台を作ることが評価されるように」

1988年に始まった中学生の都道府県選抜チームが集まるジュニアオールスターは、昨年3月に行われた第32回大会を持ってその歴史に幕を閉じ、U15選手権へと形を変える。さらに国体は少年男子、少年女子ともに高校生からU16の大会となった。ウインターカップは昨年大会から規模を拡大し、男女とも出場校が50から60へと増加した。また学校部活を離れれば男子ではBリーグの各チームがU15、U18チームの整備を進めており、クラブチームの活動も全国各地で活発になっている。

これらの変化のきっかけは、2014年から2015年にかけて行われたFIBAからの制裁だ。FIBAから是正を求められたのは男子トップリーグの一本化だけではなく、代表強化(すなわち若年層の強化育成)、ガバナンス強化もあった。これまでも関係者なら誰もが認識していた育成の課題は、言わば『外圧』をきっかけに改革されることとなり、こうした大会方式の変更として形になっている。

日本バスケの育成を取り巻く環境は、静かに変わりつつある。だが、真の変化はこの先に訪れる。日本バスケットボール協会(JBA)はトップ選手を育成するために、またそれ以外の選手も「バスケットを好きなまま続けられる」普及のために、リーグ戦構想を進めている。

本稿では高校生年代であるU18を例に挙げる。現在は全国のチームが夏のインターハイと冬のウインターカップを目指し、各都道府県での予選を勝ち抜いて日本一を目指す。しかし、実際のところ高校男子で約3500のチームがある中で年代別代表選手を擁するレベルの『強化層』は10チームほどしかない。それに続くのはブロック大会出場レベルの上位150チームである『準強化層』で、残りはすべて『普及層』となる。

『普及層』のチームがインターハイ予選やウインターカップ予選を勝ち抜くことはない。その半数は5月か6月に行われるインターハイ予選の初戦で敗れ、その時点で3年生は引退する。その後、下級生主体となったチームは秋に行われるウインターカップ予選まで公式戦がなく、そこでまた半数は1回戦で敗退して、来年春のインターハイ予選まで公式戦がない。トーナメント大会が主体である限り公式戦の数は増えず、また実力差も大きいため50点差、100点差のゲームもしばしば見られる。

この状況を変えるため、JBAは各チームの競技レベルに応じた三層構造のリーグ戦を全国に普及させることを検討している。すべてのチームが『日本一』を目指すインターハイとウインターカップは据え置きとし、レベルに応じた試合機会を提供する。競技レベルにかかわらず実力の近い相手との真剣勝負の回数を増やし、負けても試合を経験しながら成長できる。これは勝利至上主義からの脱却を可能にするし、将来的に複数チームの登録が可能になれば補欠文化も解消できる。

今回、かつて愛知学泉大バスケ部の監督を務め、現在はJBA基盤強化グループの育成普及担当を務める山本明に話を聞いた。負けたら終わりのトーナメントしか大会がないことが、勝利至上主義の悪しき文化を生み出したが、それはリーグ戦の導入で変わると彼は信じている。「勝つことだけが素晴らしいという考えではなく、選手の成長する土台を作ることが評価されるようになります。バスケ界が大きく変わる中で、先生たちの指導への考え方も変わりつつあります」

田中力

部活チームとBユース、クラブが垣根なく活動する時代に

都道府県、ブロック、トップというリーグ構造を作ることは、世界に通用する選手の輩出にも繋がる。トーナメント大会2つを軸とした今の仕組みは『強化層』のチームにも理想とは言えない。都道府県大会でレベルの高い試合ができるのはせいぜいベスト4以上。それ以外ははるか格下のチームとの対戦ばかり。インターハイやウインターカップは負けたら終わりで、質の高い試合を多数こなすことはできない。昨年のウインターカップで優勝した福岡第一と桜花学園にしても、同等の力を持ったチームとのスリリングな勝負は数試合しかなかったはずだ。

トップ選手の育成という点ではアンダーカテゴリーの代表活動が挙げられるが、現実問題として国際大会に向けて2泊3日の合宿を年に数回行うだけでもスケジュールのやり繰りは難しい。また代表という仕組みでは早熟型の選手が選考に有利となっている。U18日本代表を例に挙げれば16歳時点での能力が高い、実績のある選手が招集されやすく、16歳、17歳で身長が伸び、実力を増した選手を途中からピックアップしても単発の合宿参加に留まり、チームの主力に据えづらいケースは多々ある。それならばトップリーグという競技環境を整備し、日頃から質の高い競争を提供する方が効果はあるはずだ。

そのトップリーグは学校部活だけでなく、Bユースもクラブチームにも参加資格が与えられるべきだ。ご存じの通り学校部活は岐路に立っており、教員の働き方改革を求める声は無視できない。部活動が学校教員の残業で成り立っている現状を変えても成り立つ仕組みが必要だ。今後はより活動が活発になるであろうBユースやクラブチームを組み込むことで、トップリーグはU18の大会として最も重要度の高いものとなる。

現在はまだ複数のスケジュールが検討されている段階だが、トップリーグが8チームで構成され、シーズンを9月から12月上旬までの3カ月とすれば、高校3年生をメインとしたU18の選手たちがその年代における最高レベルの試合を数多く経験でき、質の高い競争環境が出来上がる。これに合わせて代表チームでの国際大会を経験させたり、特別指定選手としてBリーグへ、またアメリカへ挑戦しやすくする仕組みを組み合わせることで、世界に通用する選手を輩出できる可能性は上がっていくはずだ。

バスケットボール

「お前とバスケやるの息苦しいよ」と言わせない競技環境

この理想が実現すれば競技性はこれまで以上に高まり、トップ選手を『世界で戦える選手』へと引き上げるとともに、大会としても今まで以上に注目されることになる。またトップ以外の選手もバスケットボールをそれぞれのレベルに応じて楽しみながらプレーしてもらうことができる。中学や高校を卒業したタイミングでバスケから離れてしまう選手を減らし、バスケットボールを生涯楽しめる、愛されるスポーツにすることもJBAの重要な任務だ。

世界で通用する選手を育てるとともに、今いるプレーヤーがバスケを嫌いにならないようにする。競技レベルの向上ばかりを追い求めるのでは「お前とバスケやるの息苦しいよ」と言われてしまう。『SLAM DUNK』で全国制覇を目指す赤木剛憲キャプテンが『普通の高校生』である同級生の部員に言われた言葉だ。これは漫画の中だけの出来事ではないし、どちらかが間違っているわけでもない。それぞれにバスケを続けられる道があるべきだ。

JBAは年代に応じた育成基準を設定している。U12はプレーヤーの裾野を広げるための「楽しさの強調」、U15は勝敗よりスキルアップを目指す「個の育成」、高校生年代のU18になって初めて「強化、普及への特化」として勝利にこだわるようになる。そんな育成の先に『世界で戦える選手』の輩出がある。

U18年代でリーグ構想を先取りして実施しているのが群馬県バスケットボール協会だ。男子が64、女子が55の登録チーム数を抱える群馬県は、昨年にU18リーグ戦を導入した。11月9日から12月29日までの5日間でリーグ戦を開催。群馬県を東西の2地区に分け、1部から4部までのカテゴリーに各6チームを割り振って、各チームが5試合の公式戦を行った。リーグ編成に際しては参加チームが希望リーグを申告し、必要に応じて過去2年間の実績から調整を入れた。

試合数が増えたため試合運営が大変だったり、審判の確保が難しかったりと課題は多かったが、参加したチームからは概ねポジティブな感想が得られたとのこと。公式戦を数多く経験でき、実力に乏しくても勝つことの喜びを味わえたチームが増えた。どの選手も楽しさを感じるとともにモチベーションも高まったはずだ。

八村塁は学校部活の中から誕生して、NCAAで飛躍してNBAでプレーするに至った。山本も含めたJBA技術委員会は、八村を続くタレントをどんどん輩出できるような仕組みを作ろうと検討を重ねている。改革は一朝一夕にできるものではないが、着実に進んでいる。その行き着く先にどんな未来が待っているのか、楽しみでならない。

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