文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

苦しい時に自分をさらに追い込む『自己犠牲』の精神

JX-ENEOSサンフラワーズは危なげない戦いぶりでWリーグ10連覇を果たした。吉田亜沙美、大崎佑圭、渡嘉敷来夢と各ポジションにリーグ最強のタレントを擁し、宮澤夕貴も新世代のエースへと成長。ベンチから出るセカンドユニットも、さらには普段はプレータイムのほとんどない若手まで日頃からレベルの高い練習を重ねて、トップレベルで戦う準備ができており隙がない。

戦力、経験ともにライバルを圧倒しており、今シーズンも労せずして優勝を勝ち取ったようにも見える。だが、それは結果の話。勝って当たり前、そんな常勝チームがあっけなく空中分解する姿を、バスケに限らず多くのスポーツで見てきた。下馬評の高さはプレッシャーになる。実績のあるスター選手を多数抱えることが不仲を生み、チームを分解させた例はいくらでもある。最大の懸念は、勝利に飽いてしまうことだ。

「勝ちたい」、「優勝したい」と口で言うのは簡単だ。しかし、苦しい時に自分をさらに追い込み、その自己犠牲の精神を保ち続けるのは簡単ではない。

JX-ENEOSはどの選手も「勝ちたい」と口にし、そして実際に自分をどこまでも追い込んで勝利を求める。勝ち続けてなお意欲が損なわれない理由はどこにあるのだろうか? 今シーズンからヘッドコーチに再任した佐藤清美にこの問いを投げ掛けると、「その点で苦労したことはありません」という答えが返ってきた。「男子は結構そういうことがあります。ただ、私は女子のチームを見て10年になりますが、とにかく毎年みんな2冠を目指してやっています」

「勝ちたいと思う子がこのチームに残っています」

例えば渡嘉敷は日本代表だけでなくシアトルストームの一員として、世界最高のリーグを経験している。Wリーグに戻って来て、時に手を抜いても負けることはないだろう。だが佐藤は「そういうところは全然ありません」と、試合だけでなく練習での渡嘉敷について緩みはないと語る。「今も、もっとうまくなりたい、もっと早く走りたい、もっとシュートを入れたい、という思いでやっている子なので」

常勝チームにおいて選手たちのメンタルをどうケアしているのかが知りたかったが、佐藤ヘッドコーチによれば「そのあたりはマネージャーがフォローしてくれます。女子のチームなので、私たちが入っていけないところもあります」とのこと。

「みんなゲームになればすごく勝ち気ですが、そこから離れて私生活に戻るとすごく和気藹々としているところですかね。それは寮で一緒に生活しているからかもしれませんが、私が心配することは何もありません。吉田は後輩の面倒見がすごく良いですし、渡嘉敷もいろいろどこかに連れて行っているみたいです」

「一つ言えるのは、勝ちたいと思う子たちがやっぱりこのチームに残っています」

「勝たないといけないと思うのは本当にしんどい」

勝ちに飽くことはないのか。この質問を吉田亜沙美にもぶつけてみた。「やっぱり負けることは嫌なので。それだけでみんな戦っています」というのが吉田の答えだ。

「隙を見せれば足元をすくわれると肌で感じます。ウチの弱い部分を挙げるとすれば、やはり気持ちが緩んだ時なので。それが分かっているからこそ、強い気持ちを持って毎試合に挑むことができています。『ここまで来たら最後は気持ちだ』って、しつこいほど言ってきました。それがみんなに伝わって、それぞれ自立してそういう考えを持てたんじゃないかと思います。強さの秘訣があるとすれば、そこがブレずにやってこれたことだと思います」

ファイナルのデンソーアイリス戦にしても、『最後は気持ち』の精神をチーム一丸で発揮したことで勝利を呼び込んだ。「みんな身体はボロボロだったし、それは相手も同じだと思います。ですが、ボロボロで疲れた時にいかに気力を出してプレーできるかが勝負の分かれ道です。そういう部分でJX-ENEOSは気持ちの部分で40分間全力でやれたと思います」

次は11連覇に向けて。「でもとりあえずは……」と吉田は苦笑いを浮かべた。「長いシーズン、みんな身体を犠牲にして気持ちもしんどかったと思います。それをやっと解放できるので、今は本当にただただ身体を休めたい。勝ちたい、勝たないといけないと思うのは本当にしんどいので、そこはみんな1回気持ちをリセットして休ませてあげてから。充電をちゃんとしてから、また気持ちを作っていければと思います」