2019-20シーズン、川崎ブレイブサンダースに加入した大塚裕土は、持ち前のシュート力に加えディフェンスでも奮闘し、貴重なベンチメンバーとして選手層に厚みをもたらした。優勝に向けて手応えを感じる中、シーズンは思わぬ形で終わってしまったが、オフになると早々に川崎との契約延長を発表。リーグ屈指の選手層を誇る川崎にあっても、特に大塚が主戦場とする2番ポジションは熾烈な競争となっている。その中で何が残留に至ったか、その思いを聞いた。。
新加入の川崎で「信頼関係を作ることができた」
──ようやく体育館を使っての練習が開始されました。思うように身体を動かすこともなかなかできない中で、焦りみたいなものはありましたか。
国から自粛要請が出て、他のチームも同じ条件でした。そういったところであまり焦るような気持ちはなかったです。ただ、シーズンが途中で終わってしまったことへのモヤモヤした気持ちがなかなか消化しきれなかったところはありました。
──実際、身体を本格的に動かしてみて、やはりブランクの大きさは感じましたか。
そうですね。シーズン中に2日、3日オフがあると、それでさえ感覚は失っていくものです。それが2カ月くらい全く体育館に入れない状況なのは大きいです。でも逆にあきらめがついたというか、少しずつ戻していければいいかなという気持ちになりました。これから少しずつ準備していきたいと思います。
──活動再開とはいえ、いまだ予定通り開幕できるかなど先行きは不透明です。
シーズンがどうなるのか、不安はあります。でも、川崎はクラブとして本当に選手ファーストの姿勢で、給与の面、家族のことなどすべてサポートしてくれています。その部分で不安がないのは一番大きいです。だから、まだ10月に開幕できるかどうか分からないですが、自分としては準備できる時にしっかりやって、ストレスなく新しいシーズンに向かっていけます。
──この自粛期間中、バスケに限らず感じたことはありましたか。
世の中では会社が潰れるとかリストラされたとか、給与が削減されたといった情報がありますが、自分たちはこういう状況になっても普通に生活できています。そこはクラブに感謝しなければいけないです。僕らがこうやって生活できているのは、応援してくれているスポンサーさんとか、毎回たくさん会場に来られているファンのサポートの積み重ねがあるからですよね。だからこそ、こういったニュースを見るたびに、感謝しないといけないとあらためて思いました。
──では、川崎に移籍して迎えた2019-20シーズンはどんなシーズンでしたか?
チームは良い状態で戦えていました。自分のパフォーマンスに関しても、チームを盛り上げる場面を作ることはできました。数字についてはちょっと物足りなかった部分はありますが、新しいチームでコーチの求めることを理解しようと取り組んだ姿勢は伝わっていたとミーティングで言われました。そこの信頼関係は、それなりに作ることができたと思います。
「プロとして突出したものがあれば使ってもらえる」
──プロ選手としてのキャリアを考えると、スタッツを残すことは大事な要素です。川崎は決してスタッツを残しやすいとは言えない状況ですが、残留を早々に選択したのは何が決め手でしたか。
やっぱり、優勝することが一番大事です。僕はそのために川崎へ移籍してきました。優勝しないとここに移籍して来た目的を果たすことができないので、それが残留の理由です。
優勝が最優先で、プロとしてはその上で数字も残したいと思っています。また、上位チームで数字を残すことができれば個人としての価値も上がります。2018-19シーズンまでの富山にいた時に比べ、プレータイムはだいぶ減りましたが、数字に残らないところでの質は上げることができました。川崎で2年目のプレーとなることで、よりチームにフィットできるはずです。他の選手にも自分のプレーをより理解してもらえるし、もっと伸びしろがあると考えています。そういう面でも残留するメリットはあると思います。
主力メンバーに変更がないことにもすごく安心しました。皆さんも思うように、もともとメンバーが頻繁に入れ替わるクラブではなくて、それは選手も同じ気持ちなので不安はありませんでした。
──新シーズンに向けてですが、まずは2019-20シーズンの反省を受け、何を改善していきたいと考えていますか。
例えばフィジカルやシュート確率がいきなり大きく上がることはないと思います。頭を使って、コーチがやりたいバスケを理解し、それをいかに表現できるかが最も大事です。特に佐藤(賢次)ヘッドコーチはそういうところに重きを置いています。その一方で自分はシューターであり、3ポイントシュートの成功率を40%台にしっかり乗せたい、フリースローと合わせて成功率のランキングに入ることを目標にしているのですが、それが達成できなかったことはもう少し見つめ直さなければいけないです。
もう一つには、ピック&ロールから動き続けるのがメインのオフェンスとしてあります。その中で、純粋なシューターのプレーを続けていくことで、シュート本数が減ってしまう部分がありました。そこはもう少し、コーチのスタイルに合わせて自分もハンドラーとして生きるなどチームにフィットしていかないといけない。そのためのアイデアはもう持っています。
──激しい競争を勝ち残るために、特に重視したいのはどういった部分ですか。
シュートに関しては入っても、入らなくても迷いを見せてはいけない。少し距離が遠くても入ると感じたら思い切って打つのは大事にしていきたいです。そういった部分を積み重ねていくことで、自分を出すことで何かしてくれるんじゃないか、とコーチに思ってもらえれば、プレータイムをつかむきっかけになっていくと考えています。
また、チームには自分と同じスタイルの選手はいない。辻(直人)もシューターですけど、今は割とボールハンドラーに近いスタイルになってきています。すべてを平均的にこなすのを目指すのは自分らしくない。プロとして突出したものがあれば使ってもらえると考えていて、ここまでやってこれたのもそういう部分だと思います。だからこそ自分のスタイルをしっかり貫いていき、その上でコーチのやりたいことにアジャストしていきたいです。
──残留の決め手である『優勝への思い』について聞かせてください。bjリーグでもファイナルで2度敗れ、今年の天皇杯も決勝敗退と、あと一歩でタイトルを逃し続けていますよね。優勝を狙うことは同じでも、その心境に変化はありますか。
天皇杯は準々決勝のA東京戦、準決勝の宇都宮戦と、あまり数字は残せていなかったですが、チームに貢献している手応えは少なからずありました。決勝のSR渋谷戦でもその感じでいければ間違いなくチームに貢献できると思っていましたが、自分の納得いくプレーができずに負けてしまいました。やっぱりこういった大舞台で、まだまだ自分のパフォーマンスを発揮できないと痛感し、だからこそチャンピオンシップではしっかり力を出せるようにと後半戦はメンタルを整えながら戦っていたんです。
bjの時は、決勝の前に「もう優勝したでしょ」くらいの変な自信を持っていました。そういう失敗を繰り返して今に至るので、新しいシーズンではこれまでの教訓をしっかり生かしていきます。それができれば優勝を達成できると思っています。
「明日からまた頑張ろうと思ってもらえる活力を与えたい」
──年齢的にベテランの域に入ってきたことで、優勝への思いに変化は生まれてきましたか。
毎年、優勝したくて仕方ありません。その中で、昨シーズンはチームメートと優勝旅行の話もしていて、そういうイメージを持てたのも久しぶりでした。優勝への焦りはあります。自分の競技人生があとどのくらい続くか分からないですけど、20代よりは間違いなく短いですよね。そして、毎年優勝のチャンスが巡って来るわけじゃなく、それがいつ来るか分からない中でも、しっかり準備をしてチャンスを得ることができないと優勝はなかなかできないので、そういう面を含めて焦りはあります。
──川崎ではキャプテンの篠山選手が中心となり、ニック・ファジーカス選手と辻選手が支える形が確立されていました。逆に言うと、他の選手たちがなかなか発言をしない状況があったと聞きます。そんなチームに加わったベテランとして、何か意識していましたか。
そういうスタイルになっていたところはあると思います。そこで、何でもかんでも発言することはなかったですが、要所要所で試合中、練習中としゃべることは心掛けていました。日本人選手で最年長ですけど、自分の意見を、というよりは若手の意見を拾い上げて伝えたりとか、間を取り持つような形でいいかなと思って実行していました。
そんな中で、僕や熊谷(尚也)が入ることでオフコートのコミュニケーションが増えて、少しずつ変わってきているみたいです。これは自分が移籍して来たので、チームメートを知るためコミュニケーションを積極的に取りたかったこともありますが、このチームに必要だとみんなが感じていたこともでありました。その結果、チームメート同士で食事に行く回数が増えたり、みんなで話す時間が増えたと言ってくれる選手も多かったので、良い影響を与えられたのではないかと思います。
──川崎の話題から外れますが、先日、滋賀が公式Twitterでコロナ禍による経営悪化について西村社長がメッセージを投稿し、それに大塚選手は賛同するコメントを出しました。かつてプロ入り当初、宮崎でチームの倒産を経験しています。どういう思いがありましたか。
地域密着を謳ってbjリーグが誕生し、いろんな地方にチームが生まれました。今後5年、10年先のことを考えた時、ポシティブな部分を発信していくのは重要ですが、苦しいところも発信しながらブースターと、スポンサーとみんなで一丸になってクラブを作っていくことが非常に大事なことではないか。プロスポーツチームに限らず、いろいろな企業も同じですけど、良くない部分を隠したがるところはありますよね。ただ、隠したところで、そこからしっかりした計画がなければ上手くいくことはないと思います。
滋賀の件については、僕がブースターだったらと想像した時、こうやって真摯に情報を伝えてくれるクラブが地元にあったら、多くの選手が出ていったとしても自分にできることは何だろう、と考えて応援したくなりました。滋賀の西村社長とはお会いしたことがあるのですが、筋の通った方という印象です。あの発表にはその人柄が出ていて、選手の立場、バスケットボールファンの一人として見てもすごく良いことだったと思います。
──それでは最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
開幕してもリモートゲームでの実施で、ファンの皆さんが会場に来れない可能性があります。そういう状況になってもテレビや携帯電話を通してでも、何かを伝えられるようなパフォーマンスをしたいです。見ている人が何かを得て、明日からまた頑張ろうと思ってもらえる活力を与えられるのがスポーツの力であり、そういう表現を個人的にもしたいと思っています。
そしてBリーグにたくさんチームがある中で、「川崎が一番そういうものを感じられるよね」と思ってもらえるようなチームにしていきたい。それをクラブの財産として継承していくための一員として頑張っていきます。皆さんも体調に気を付けつつ、たくさんの応援をしてもらいたいです。
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