文=小永吉陽子 写真=野口岳彦、FIBA.com

有利な『ホーム』でつかみきれなかった1点差の敗北

ワールドカップ1次予選のWindow2が終わった。日本代表は2月22日にホームでチャイニーズ・タイペイに69-70、25日にアウェーでフィリピンに84-89と2連敗を喫し、これで4連敗。点差では競っていても、ゲームの進め方やフィニッシュ力に差があり、最大の課題であるリバウンドについてはボックスアウトを怠り、取りに行っていないのだから取れるわけなどなかった。悪しき習慣とは、なかなか改善されないものだと痛感させられる結果となった。

特に、勝負を懸けたチャイニーズ・タイペイ戦での内容は悪かった。日本は富樫勇樹や馬場雄大の負傷欠場があったが、相手にはそれ以上の負傷者がいた。Window1から出て続けている選手はたったの5人。大黒柱のクインシー・デイビス(背番号50)やエース格の周儀翔(背番号6)を除けば、日本のほうが経験値もあれば、ホームという地の利もあった。そんな有利な状態にもかかわらず、1点差で敗れたことは痛手としか言いようがない。

大黒柱であるデイビスを12得点に抑えるディフェンスはある程度成功したが、後半になってデイビスが周りを生かすことによって生まれた波状攻撃を抑えられなかった。周儀翔の豪快なドライブを止められず、また胡瓏貿(背番号10)や周伯勲(背番号20)に跳び込みリバウンドを取られ、黄聴翰(背番号11)には3ポイントシュートを決められるなど、運動量についていけなくなる。これら若手にやられたことは大誤算だ。

特に、それぞれ15得点、2人で14リバウンドを記録した24歳の陳盈駿と胡瓏貿は厄介な存在だった。2人は今シーズンから中国プロリーグCBAでプレーする伸び盛りの選手で、中でも陳盈駿は昨夏、チャイニーズ・タイペイで開催したユニバーシアードでブレイクし、次世代を担う司令塔として注目を集めていた。

若手に振り回されたチャイニーズ・タイペイ戦

しかし、試合後の日本の選手たちからは「このメンバーで来ると分かったのは数日前で、特徴がつかみきれなかった」という声も聞こえた。相手のほうが早くに候補選手が絞られていたにもかかわらずだ。

対してチャイニーズ・タイペイは、元群馬クレインサンダーズの指揮官であり、昨夏のユニバーシアードではチャイニーズ・タイペイのヘッドコーチとして機動力あるチームを作り上げたチャーリー・パーカーがアシスタントコーチに就任し「日本選手のことは理解している」とコメントしていた。正直なところ、試合前には選手のキャリアが浅いことを懸念する声が飛んでいたほどだが、デイビスが囮になって若手を生かす引き出しの多さを見せたこと、辻直人の8本の3ポイントシュート以外は日本にチームオフェンスをさせなかったことを考えれば、ポイントを絞ったスカウティングが成功したのだと受け止めざるを得ない。

近年、チャイニーズ・タイペイは世代交代に苦労してきたが、このWindow2ではいよいよ核となる選手たちが成長してきたと言える。加えて最終決戦となるWindow3では、昨年6月の東アジア選手権で優勝に貢献した蔡文誠、シューターの呂政儒、さらにはCBAでフィジカルの強さを発揮している曾文鼎といったベテラン陣、何よりエースに成長した劉錚ら、今回は負傷で参戦できなかった主力が加わることが予想される。

試合後、「次はもっとベストメンバーで挑んでベストを尽くしたい」と語った周俊三ヘッドコーチの言葉は、次戦に懸ける意気込みを示していた。だからこそ、ホームでつかめなかった1点差の敗北は重くのしかかる。

『ライジングスター』ラベナの勢いを止められず

メンバー構成に頭を悩ませていたのはフィリピンも同様だった。11月の戦いで抑えられなかった『カストロ』こと、エースで司令塔のジェイソン・ウィリアム(背番号7)は足首の負傷により、2月22日のアウェーでのオーストラリア戦にはロスターには入らなかった。しかしオーストラリアには帯同していたことから、3日後にホームで行われる日本戦に向けて調整していたことがうかがえた。

予測通り、カストロは日本戦には復帰してスタートに名を連ねたが、立ち上がりがあまりにも悪かった。日本はアーリーオフェンスを展開して20-4とこれ以上ないゲームの入りでリードを奪う。しかしフィリピンの強さはここからだった。カストロと交代したのは『ライジングスター』と称される24歳のキーファー・ラベナ(背番号1)。コートに出てきていきなり3ポイントシュートにドライブイン、渾身のルーズボールで流れをガラリと変えた。終盤の勝負どころではカストロのパフォーマンスに脱帽するしかなかったが、ゲームを押し進めたのは13得点、5アシスト、2スティールのスタッツをマークしたラベナであり、日本戦の殊勲選手だと言っていい。

ヘッドコーチのビンセント・レイエスは「今回、我々はメルボルンから8時間以上をかけた移動の後だったので、苦労することは分かっていた(日本からフィリピンへの飛行は約5時間)。だからこそ序盤にやられても慌てなかった。そしてオーストラリアで準備したセカンドユニットが救ってくれた」と勝因を語った。前述したラベナ以外にも、ジェス・ロサリオ(背番号14)が14得点、カルビン・アブエバ(背番号8)が8得点と、ベンチメンバーで89点のうち50得点をもぎ取ったことを、ヘッドコーチは手放しで称賛した。

フィリピンは自国リーグを中断させず予選を乗り切った

フィリピンはオーストラリア戦をステップとして日本戦に懸けていた。その背景にあるのは「ホームのファンを失望させたくなかった」とレイエスが語る、2万人が収容できるモール・オブ・アジアアリーナを満員にできる、国技ともいえるバスケ熱と歴史である。

またフィリピンは現在プロリーグの最中で、中断はしていない。日本戦の前日もリーグ戦が行われており、テレビ中継では盛り上がるシーンが映し出されていたほど。11月の戦いでもヘッドコーチは「2月はリーグ中なので、選手招集や練習が大変になる」とコメントしていたことを考えれば、選手層の厚さを作ることがWindow2での命題であり、若手とベンチメンバーの活躍によってその課題を乗り切ったのだ。

シーズン中に行われるワールドカップ予選はどこも手探り状態だ。どんな状況でも選ばれし12名こそがベストメンバーとばかりに策を講じるのが代表戦であり、相手国の状況を探りながら対応し、国を挙げて一丸体制で挑む。日本はその総力戦でも敗れたのだ。

Window2が終了し、グルーブBは4連勝のオーストラリアと3勝1敗のフィリピンの3位以上が確定し、2次予選の進出が決定した。日本に残されたのは6月末から始まるWindow3でオーストラリアとチャイニーズ・タイペイに2連勝するか、もしくは6月29日にチャイニーズ・タイペイがフィリピンに敗れることを前提として、アウェーに乗り込む7月2日の最終決戦でチャイニーズ・タイペイに2点差以上で勝利するしか、2次ラウンドに進出する方法はなくなった。