文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「第3クォーターに良い展開ができたらまた違った」

昨日行われたワールドカップ1次予選のチャイニーズ・タイペイ戦、辻直人はゲームハイの26得点を記録し、この試合で誰よりも強烈なインパクトを残した。第1クォーター終盤に投入された辻は、試合前に本人がイメージしていたように「最初のシュートを決めて勢いに乗る」ことこそなかったが、第2クォーター開始直後に最初の3ポイントシュートを決めると波に乗った。

スクリーンを巧みに使って一瞬のフリーを作りだすと、躊躇なく3ポイントシュートを放っていく。決めれば決めるほどその精度は研ぎ澄まされ、序盤の劣勢を覆す原動力となり、チームを上昇気流に乗せた。

しかし、結果は69-70での敗戦。残り2秒で辻がこの試合8本目となる3ポイントシュートをねじ込んで最後まで可能性を残したが、そこまでだった。辻は敗因をこう語る。「本当に勝たないといけない試合。第3クォーターに良い展開ができたらまた違ったと思うんですけど。あとは勝負どころの第4クォーターで自分たちのバスケットがあまりできなかった」

「ズルズルとルーズボールもリバウンドも取られてしまって、相手のシュートを見てしまってボックスアウトが遅れたりだとか。自分たちでも分かっていて練習でも徹底していたのですが、どうしても試合になると40分間やらなければいけないのに、ちょっとしたタイミングで一瞬見てしまう。それが第3クォーターには多かったのかなと思います」

「これが代表最後のチャンス」という決意で

自身の活躍について辻は「出だしで良い展開にならなかったので、僕が入って追い付いて、逆転まで行けたのは自分としては上出来です」と活躍を振り返る。これだけの数字を出せた理由については「ピック&ロールに対する相手のビッグマンのディフェンスがあまり良くなかったので、そこでうまく攻めることができました」と語る。

昨年11月のWindow1で招集されなかった辻には、今回の試合に並々ならぬ決意で臨んでいた。「今回選んでもらえて、僕個人としてはこれが代表最後のチャンスだと思って、絶対にモノにしてやろうと挑みました。それがシュートにつながったので、その部分では良かったと思います」

「でも、終盤ですよね」と辻は続ける。どんな形でもいいから勝ちたかった、というのが偽らざる本音だろう。だが皮肉にも結果はその逆。辻自身は最高のパフォーマンスを見せたが、チームは敗れた。これで1次予選開幕から3連敗だ。

試合後のロッカールームの雰囲気については「誰も一言も話していませんでした」と明かす。「みんなこの結果を受け止めています。フィリピン戦がすぐにあるので、ここでもう一度気を引き締めて次のフィリピン戦に向けて準備をしようとコーチが話をしました」

敗れてもなお、辻の大爆発によりダメージは抑える

辻はMVPに輝いた2年前のNBLファイナル以来とも言える出色の出来。また比江島慎はいつも通りドライブでの打開から14得点と結果を残し、宇都直輝も自分らしいプレーを貫くことで爪痕を残した。ただ、それ以外の選手がオフェンス面ではついてこなかった。辻と比江島で40得点。アイラ・ブラウンが12得点、宇都が4得点。他の8選手で13得点しか挙げられなかった。

「オフェンスについてはそれぞれの持ち味を出せなかったのかなと思います」と辻はチームの課題に触れた。「シュート確率もあまり良くないし。相手は違うけど普段のプレーができていなかった。いつも通りのプレーをすればもっとやれる、その力をみんな持っていて、日本代表だからいつもと違うプレーをする必要はないと思います」

「本当に負けられない試合だったので責任感もプレッシャーもあります。そこで戦うのは厳しいんですけど、そういう気持ちを持ちつつも自分のプレーをもっと出さないといけないと思います。フィリピン戦まで3日あるので、精神面を切り替えることが必要だと思います」

1次予選通過を考える上で、チャイニーズ・タイペイは最大のライバル。その相手にホームで敗れたことで、日本代表は窮地に立たされた。だが、不幸中の幸いなのは、辻の得点能力が爆発した結果、敗れはしたが1点差で済んだこと。残り3試合はすべてが厳しいが、その状況で勝ちをもぎ取ることで、ここでダメージを最小限に食い止めたことに意味が出てくる。あきらめたらそこで試合終了──。残る3試合をいかに戦うかが、日本代表の将来を左右する。