文=小永吉陽子 写真=野口岳彦、小永吉陽子

クインシー・デイビス対策とリバウンド

ワールドカップ1次予選突破に向け、2月22日に対戦するチャイニーズ・タイペイは絶対に勝たなければならない相手だ。1次予選はグループ内4チーム中、1チームが脱落するシステム。現在2勝しているオーストラリアとフィリピンは、勝敗でも実力でも一歩リードしており、2敗同士の決戦、チャイニーズ・タイペイとの一騎打ちこそが命運を分ける。

忘れもしない昨年6月、長野で開催した東アジア選手権。自国開催で、しかも韓国や中国が若手代表で参戦する中で『優勝』を掲げていた日本は、準決勝でチャイニーズ・タイペイに完敗する屈辱を味わった。73-78のスコアだけ見れば惜敗だが、20点近く開いていた時間が長く、内容では完敗。敗因は第1クォーターからリバウンドを支配されたこと。リバウンドは日本31本、チャイニーズ・タイペイ46本。そのうち、オフェンスリバウンドを20本も取られてしまった。

リバウンドの課題は今回に限ったわけではないが、とりわけチャイニーズ・タイペイにはインサイドが強い帰化選手のクインシー・デイビス(203㎝)がいることから、最重要課題となる。リバウンドの要である竹内譲次にその質問を向けると、質問が終わる前に「チャイニーズ・タイペイ戦は特にリバウンドが重要だとみんなが分かっています」との答えが返ってきた。

ただ、クインシー・デイビス加入後は分が悪いとはいえ、チャイニーズ・タイペイに負けっぱなしというわけではない。昨年8月のアジアカップでは87-49と大勝して、東アジア選手権の借りは返している。しかしその試合ではデイビスや数人のベテラン選手が負傷で欠場していた。やはり今月の決戦こそが、どちらにとっても負けられない試合なのだ。相手は機動力があるチームゆえに、リバウンドから走られ、勢いづかれることだけは避けなければならない。

日本はリバウンドの課題をどう克服しようとしているのか。竹内はこう話す。「一番良いのはリバウンドを取られないことですが、全部を抑えるのは難しいので、たとえ取られても綺麗に取らせないことが大切です。いちばん嫌なのはセカンドリバウンドを取られてタップシュートでやられることなので、それをやられないためには、いかに数字に表れない細かいことをやれるか。コンタクトをし続けて邪魔するような、相手に対して悪あがきをするというか、少しでも相手のプレーがスムーズにいかないように張り合うことです。自分がそれをやらなければならない」

ラマスのバスケを早く理解することが必要

リバウンドの他にも問題点はある。日本は急ピッチでチーム作りを進めているものの、まだフリオ・ラマスヘッドコーチが求めるバスケットボールを完全に体現するには至っていない。簡単に言えば、ボールをたくさん動かして、全員でボールをシェアしてチャンスを作り、ペイントエリアにアタックする回数を増やすバスケを目指している。

だが頭では分かっていても「まだシステム的なことは完全ではないのが正直なところ」と竹内は言い、指揮官自身も「今はプロセスの習得段階で、できるだけ早くチームの質を上げるために強化をしている。だからシーズン中でも危機感を持って練習をしている」と話す。

日本がチーム作りに時間を要することは、これまでの歴任したヘッドコーチたち皆が言うことである。ここで一つの例を挙げたい。

竹内は2015年のアジア選手権(リオ五輪予選)にて、平均11.9本のリバウンドをもぎ取り、大会2位にランクした。チームリバウンドで16チーム中8位と健闘したからこそ、18年ぶりのアジアベスト4にたどりついたのだ。この大会はイランに38点差で惨敗する最悪のスタートだったが、キャプテンの田臥勇太がボールへの執念を見せたことで、チーム全体がやるべきことに目覚め、相手に対してのスカウティングを綿密に遂行することで、試合ごとに修正する力をつけていった大会だった。

リバウンドで健闘できた理由としては、竹内をボックスアウトしやすいポジショニングに配置するチームディフェンスが機能したことも要因だった。また、ガード陣がボックスアウトを徹底することで、竹内をリバウンドに跳び込みやすくするなど、様々なディフェンスを研究しては実行していた。これは、大会前の海外遠征で試しながら作った戦術で、大会の序盤は機能しなかったが、大会を通してやれるようになったのだ。

「小さなことでも若い選手にアドバイスしたい」

この時のヘッドコーチは長谷川健志。就任2年目の勝負をかけた大会で、やはり組織的な形を作るための時間は必要だった。ラマスは昨夏に就任したばかりで、現在はリーグ中ゆえに、まとまった強化時間は取れない。その点についても、「選手間で気づきがあればお互いに言うようにしている。誰もがこの結果を出せていない状況に危機感を持ってやっています」(竹内)というのが現況だ。橋本竜馬や篠山竜青らポイントガード陣もその役割は任されている。

「ラマスさんが求めていることは練習でも突き詰めていかなきゃいけないけど、一人ひとりが試合でやりながら判断力を高めていくことが、早く習得できる方法だと思っています。ラマスさんの考えは分かってきたので、そこは小さなことでも若い選手にアドバイスしたい」

日本代表は、アジアカップ後はボックスアウトの練習に力を入れ、チャイニーズ・タイペイに関しては、相手が仕掛ける3-2ゾーンについて時間を割いて対策を練っているところだ。

2月の決戦も、それ以降も崖っぷちの戦いは続く。練習期間が短いからこそ、代表でのキャリアが一番長い竹内譲次は、インサイドのリーダーとして身体を張りながら、後輩たちに経験を伝えていく。