取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

福岡第一の井手口孝監督は、以前はU-17日本代表のヘッドコーチとして八村塁など世代を代表する選手を指導しており、今も福岡県バスケットボール協会の役員を務める。それだけに、ただ福岡第一のことだけを考えるのではなく、広い視野で高校バスケットボールを考えている。問題視しているのは、どこも同じスタイルのバスケばかりで成長がないこと。自らが率いる福岡第一でブレイクスルーを狙うのはもちろん、新たな『オリジナル』の登場を待ち望んでいる。

[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー

「圧倒的に注目されるようなチームがありません」

──ウインターカップの組み合わせを見ると、どこが山場になるでしょうか?

最初から全部が強い相手ですよ。福島南か正智深谷の勝者とまずやって、それで東海大諏訪か土浦日大。その後は中部第一が来ますかね。それで準決勝で大濠です。全部強いですよ。スカウティングも少しはやっていますが、まあ分からないですね。まずはウチが強くないですから。

それに今回はどこが勝ってもおかしくない大会だと思います。ウチも含めて、圧倒的に注目されるようなチームがありません。これはちょっと男子バスケのレベルの問題ですね。インターハイも去年はウチが勝って、今年は大濠。決して高いレベルだとは思っていません。

──日本のバスケを底上げするためには、どの部分を修正すべきだと考えますか?

僕が言うのも何だけど、外国人選手がいて良いチームと悪いチームがある。ダメなチームというのは、そこへの頼り方、戦わせ方の問題です。指導の方法が良くないチームもあります。逆に留学生のいないチームの工夫にしても、もうちょっとあるべきじゃないかと思います。

──外国人留学生が高校バスケに出現して20年ぐらい。彼らの存在が日本のバスケの底上げになるような意義やメリットについてはどう考えますか?

僕らが最初だから15年ぐらいですね。最終的に外国人同士がマッチアップしたら今のBリーグと一緒で、日本人の底上げにはなりません。高校を見ると、今は少なくとも留学生選手がいてもビックリはしなくなりました。昔はゴール下に留学生プレーヤーがドンといるだけでシュートを打つ手元が狂っていましたが、今は平気です。留学生の弱いところを探して突くこともできるようになって、逆に攻略の糸口になるような場合もあります。

「置かれている立場はいろいろですから」

──なるほど、今はもう留学生プレーヤーの有無が決定的な差ではないということですね。

ただ、当時からそうだったし、今も若干ありますが、排除していこうという動きがありますよね。僕もうまくやれれば良かったのですが、留学生がいないチームは、いるチームにマイナスイメージをつけたがります。例えば留学生の話じゃないにしても、県内の選手だけでやっているチームは、県外から選手を集めてくる高校に対して「県外の選手じゃないか」と指摘するわけです。これは高校野球でも同じですが、県内の選手だけで勝ったらすごく褒め称えられる。でも、地元と言っても全員特待生じゃねえか、なんて思いますよ(笑)。

僕も本当は県立高校を見てうらやましいところはいっぱいありますが、置かれている立場はいろいろですから。まあそれは余談として、そうやって違うバスケットのスタイルがあったら、それをやっつけるために新しいスタイルを作り出して磨いていくのが、あるべき姿だと思います。県立は県立のスタイルで、ウチみたいな私学は私学のスタイルで。この15年のうちにそういう流れになっていくかと思ったら、逆になくなってしまったと感じています。

──留学生プレーヤーは全国的に増えましたが、彼らの活用の仕方というか、指導者としての接し方はどうあるべきだと思いますか?

留学生と言えども高校生で、学ぶために日本に来ているんだから、ちゃんと教育した教育を受けさせてあげるべきです。日本という国の教育は素晴らしいわけですよ。世界でもトップだと僕は思っています。それを彼らが学んでくれるのは非常に良いことです。

バスケでそのまま大学に行って、プロになって帰化する選手もいるかもしれませんが、そこまでの実力があってナショナルチームに入るところまで行ける選手は限られます。日本人も含めて、その年に生まれた子で最終的にナショナルチームに定着するのは1人くらいです。それで10年かけて、20歳から30歳ぐらいまでの選手が集まって日本代表になる。だから、留学生プレーヤーがそこだけを目標にすると話がおかしくなります。そうじゃなくて、卒業後に日本の企業で働けるとか、また自分の国と日本の橋渡し役になっていくとか。そこでバスケットというスポーツがきっかけになるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

「もっと良いものを出していく努力をしたい」

──ウインターカップに話を戻しましょう。開幕が間近に迫っていますが、今はどういうところにフォーカスして練習していますか?

新しいメンバー構成にしてポジションが変わった子もいるので、そこの調整をしています。先月に中村和雄さんに来ていただいて、「誰がどのポジションをやるのが一番良いのか」を見直しました。3番の選手が「4番をやれ」と言われると嫌がったりするものですが、中村さんは「お前は4番が向いているよ」と納得させてくれます。そこを選手がちゃんと理解してくれれば。

中村さんはパッと見てチームの良いところや悪いところを言い当てます。ディフェンスもオフェンスも、「こんな守り方はどうだ」、「こういうオフェンスの仕方がある」と、その発想は実に面白いです。僕らもそういう新しい発想をもっと出さなければと思います。

チームのプレーには流行りがあって、NBAで成功すると世の中みんなそうなっていく。今はピック&ロールです。それは一つの流行りとしてみんな取り入れるんですが、そのままそれをやるんじゃなく、自分たちがもっと良いものを作り出していく努力をしたい。大学はそのまま取り入れる傾向が強くて、みんな同じバスケットになっています。高校はもう少し、選手が毎年入れ替わる中でそれぞれのオリジナルを出していければと思います。

──昨年の優勝校なので、他のチームからの警戒も厳しいのでは?

そんなことはないですよ。プレッシャーは全くありません。ウチとしてはもう、ウインターカップに出られるだけでも(笑)。

──そういった意味ではインターハイで優勝してくれた大濠に感謝ですか?

感謝とは言わないけど(笑)。こないだの県大会に勝たなきゃウインターカップに出られないとなれば、またちょっと違ったとは思っています。

──では、いよいよ本番ではどんなプレーを見せたいですか?

アグレッシブにやりたいです。去年はコートで暴れて「よう動くね、この子らは」とよく言われました。「よう鍛えとっちゃろうね」と。その点では去年と同じようにやりたいですね。