ホームの熱狂とアウェーの難しさ、ワールドカップ予選が日本のバスケを変える

2017/11/29
日本代表
430

文=小永吉陽子 写真=小永吉陽子、野口岳彦

超過酷なアウェーへの移動、到着翌日の大一番

『日本バスケ史上、もっとも過酷な1年がスタート』――と銘打った今回のワールドカップ予選。Bリーグを戦っている最中に強化合宿を繰り返しながらのホーム&アウェーでの戦いは確かに過酷だった。フィリピン戦の激闘の後にオーストラリアへ。オーストラリアの一番南にある海沿いの街、アデレードへの移動は、最短フライトの便数が限られるために、取材するメディアも、応援するファンも、皆が日本代表と同じ行程となった。同じ行程で取材した者としてレポートしたい。

Bリーグは週末土日のみの試合なので、スケジュールは比較的ゆったりしており、また2日間で同一カードを戦うために移動が少ないリーグだ。そうした環境に慣れた選手たちが、4日間で2試合、しかもオーストラリアという、南半球への移動を行わなければならなかった。地理的にはアメリカ大陸も南北に長いフライトを要するが、アジアの場合は2次予選になれば、さらに時差が生じて気候も環境も文化も全く異なる中東や東南アジア、旧ロシア圏のカザフスタンなどへ出向かなければならない。

アジアは様々な民族で成り立つ大陸であり、それだけバスケスタイルも多様で、これまでも国際大会のたびにアジャストするのが大変であると感じていたが、ワールドカップ予選は短期間での移動を伴うだけに、あらためてタフな予選であることを実感させられた。

フィリピンとの激闘をした翌日、選手団は夜便でアデレードへと向かった。アデレードへは成田から約11時間かかるメルボルンを経由し、入国手続きをすませた後に、国内線で1時間半の移動となるため、ヨーロッパへ行くのと変わらない時間を要する。アデレードに到着したのは午前11時。南半球とあって季節は初夏。冬に向かう日本とは違い、爽やかな気候で過ごしやすかったが、選手の身体は言うことをきかないようだった。

選手団の飛行機移動はエコノミークラス。大男集団が気圧を受けながら縮こまっての移動を強いられ、「身体がむくんでいる」、「眠れなかった」など様々な声が聞こえてきた。中でも「未知との遭遇なので、対応して頑張るしかありません」という篠山竜青の一言は印象に残った。海外遠征や国際大会でも長距離移動はよくあることだから、選手たちの口から感想は出ても、文句は一切ない。ただ、通常の国際大会と違うのは、到着した翌日に試合があることだ。

通常の国際大会ならば、2~3日前に現地入りし、時差調整とコンディションを整えてから試合に臨む。もしくは、昨年のセルビアで開催された世界最終予選のように、数日前に現地入りして調整試合を行ってから本番を迎える。だがワールドカップ予選は中2日の日程であるため、どんなに最短で移動をしても、南半球へは前日入りになってしまう。せめてもの救いは時差がないこと。アデレードと日本は1時間半の時差があったが、これは許容範囲だった。

これは日本だけの問題ではない。ホーム&アウェーの条件は皆同じ。日本が戦うオーストラリアも初戦を戦った台湾からの帰国は、日本と同じ試合前日の朝だった。ワールドカップ予選を戦うには、現地入りしてすぐに試合に挑む調整法を見つけなければならない。これが戦術以前に問題視された日本の課題だった。

「今回の移動は本当にハードだと感じました」

アデレードに着いた時は、『未知との遭遇』に不安な表情を見せていた選手たちだったが、翌日の試合時間に合わせた練習が始まる午後7時には、元気な姿で集合していた。今回、田中大貴とともにキャプテンに任命された古川孝敏は「各自が自分にあった調整法を見つけようとトライしていました。睡眠不足のため寝る選手もいましたが、自分は外に出て光を浴び、現地の雰囲気を感じながら歩いて身体を動かし、お風呂に入って汗を出しました」と語っていたように、身体は徐々に動くようになっていた。

フリオ・ラマスヘッドコーチも「確かに大変な移動だった。しかし条件は皆同じ。この試練は選手を成長させるものなので、ポジティブに受け止める」と言い、タフさを要求されるこの状況を成長できる要因として受け止めていた。

だが、選手の身体は正直だ。オーストラリア戦では後半32分過ぎには足が止まった。ガス欠になり、エネルギーが沸いてこないのだ。相手のフィジカルコンタクトの強さに体力が消耗してしまったこともあれば、知らず知らずに溜まっていた疲労のせいもあるだろう。

そして、行きも過酷だったが、帰りはもっとハードだった。試合が終わり、記者会見をすませてホテルに戻ると午後11時。そこから軽食を取り、荷物を整理し、朝6時のフライトのために一睡もしないまま午前3時過ぎにはホテルを出発するスケジュールだったのだ。この行程をともに経験した東野技術委員長は言う。

「今回の移動は本当にハードだと感じました。特にアジアは他の地域より移動距離が長い。それなのに、全世界が同じ基準で、中2日で試合を開催するのはどうなのだろうか。実際にホーム&アウェーを経験したことで、日本代表の強化スケジュールが本当にこれでいいのか、Bリーグと議論しなければなりませんし、感じた意見はBリーグにもFIBAにも出すつもりです」

張本天傑「僕たち代表選手からもっとタフになる」

もっとも過酷な1年――との謳い文句は、リーグ戦中の強化合宿の実施や、ホーム&アウェーで戦うことに加え、その裏で行われる長距離移動やコンディション調整の難しさにもフォーカスされる。そして物理的な問題だけでなく、そんなハードスケジュールにおいても、絶対に勝たなくてはならない試合を制し、『ワールドカップ出場』という結果を求められることそのものが『過酷』なのである。

全世界で同じ条件、同じ大会フォーマットなのだから、移動のハードさについては受け止めるしかない。選手たちの意見としては、張本天傑が言っていたように「NBAや中国、オーストラリアなど、国土の広い国はこうやって移動してリーグを戦っているんですよね。僕たち代表選手からもっとタフになることを伝えなくてはなりません」と、体験したからこその決意も出てきている。

ただ、今回は便数の関係もあったが、スポーツ選手にとって最も大切な睡眠が不足した状態で戦わなければならないのは、負傷を引き起こす原因となるだけに、その点は問題視しなければならない。11月のファーストウインドウで、いちばん過酷な移動と試合を経験した日本がFIBAへ意見をすることは、とても重要なことである。

過酷な戦いに勝つために『もっと競争』を!

最後に今回のワールドカップ予選を行って、前進したことについて述べたい。

これまでもアジア選手権、アジア競技大会、それ以下のいくつかの大会が日本で開催された。一番大きなものでは2006年に世界選手権もあった。しかし、宣伝不足でいつどこで行われているのか広まらず、一部の熱狂的ファン以外は応援する文化もなく、負けた直後こそは議論されても何の改善もなく、代表強化の継承はなかった。

しかし今回のワールドカップ予選はBリーグが開幕し、選手やチームへの愛着、認知が高まってきた中で迎えたことで、『自分たちの代表』という意識で応援する文化につながったのではないだろうか。11月24日、駒沢体育館でのファンの声援はこれまでの国際大会とは違い、『負けたら崖っぷち』のために熱狂する人が多く見受けられた。今後、ホームで試合を重ねていけば、国際大会の面白さは浸透し、バスケの楽しみ方は増えていくだろう。

また選手にとっても「自分たちのホームは自分たちで守る」(田中)という意識が芽生え、当たり前のことだが、これまで以上に勝負に対して貪欲な姿勢になっている。実際にホームで戦争のような戦いを目の当たりにすることで、日本選手に不足している技術が何なのか、そのためにどのような強化が必要なのかの議論も生まれる。

そのためにも『Bリーグでの戦いからもっと競争しなければいけない』との共通意識が出てくるだろう。遅まきながら、本当に遅まきながらではあるが、日本がどうすれば強くなれるのかの『目』が、ホームでの戦いから見えてきたのだ。ここからは、バスケットボールに携わる皆で、失ったこれまでの時間を取り戻さなければならない。

次の試合はリーグの疲労が溜まってくる2月22日と25日。ホームで迎えるチャイニーズ・タイペイ戦とアウェーでのフィリピン戦だ。それこそ絶対に負けられない中で、心身両面でのホーム&アウェーでの適応力が求められる。