田中大貴

オリンピックイヤーの2020年、バスケットボール男子日本代表が始動した。今年最初の国際大会は2021年のアジアカップに向けた予選。ホームの中国戦は延期となったが、アウェーのチャイニーズタイペイ戦に向けて代表選手たちは再集結。昨年のワールドカップでは5戦全敗を喫し、世界とのレベル差を痛感させられた。手痛い敗戦から何を学び、次のレベルアップへと繋げるのか。『国内組』の日本代表でリーダーシップを取るべき田中大貴に話を聞いた。

「個々のクオリティをもっと求めていきたい」

──まずは昨年のワールドカップを今このタイミングで振り返ると、大会全体としてどんな印象を持っていますか。

始まる前から難しい大会になるだろうと思っていた部分と、親善試合でアルゼンチンとかドイツといった世界でもトップの国を相手に特別何か悪いという感じがなく「戦えている」という印象があり、チェコにもトルコにも良い戦いができると考えていた部分がありました。自分たちの強みを出してしっかり戦えるイメージで入った大会ではありました。

それでも結果としては、後付けになってしまうかもしれませんが、ああいう大会を戦ってきたチームと何十年ぶりかに出たチームの違いが本番になって出てしまいました。だから悪い想定が当たってしまった。相手チームは初戦の入り方をすごく大事にしていて、経験ある選手たちが最初の試合のイニシアチブを取るためにやってきたことに対して、自分たちの出だしが良くありませんでした。向こうの方が上だったと思います。

──そんなワールドカップを経て2020年の代表活動を迎えました。世界と戦う上で同じ轍を踏まないため、代表でプレーする上で何か変えていこうとしている部分はありますか?

戦術云々もあると思いますが、ヘッドコーチの求める戦い方に対応するのは当たり前のことです。例えば自分はルカ(パヴィチェヴィッチ、アルバルク東京ヘッドコーチ)の下でやっているので、代表とチームではプレーも変えています。それよりも試合をしているのは自分たちなので、個々のクオリティをもっと求めていきたい。相手がガツンと来た時に慌てず対応するだとか、上手く流れを持って来るような個々のクオリティですね。

ワールドカップでは(八村)塁やニック(ファジーカス)を使って自分たちのペースをつかみたかったですが、塁のところにプレッシャーを掛けられた時にじゃあ次にどうするか、が上手く行かずオフェンスが停滞してしまった。そこで機転を利かせてチームがもっと上手く回るようにしなきゃいけないんですが、そこでヘッドコーチの指示を頼りにするのではなく、自分たちから「ああした方が良い」、「こうした方が良い」とできるようにならないと、やっぱり苦しくなるかなと。

塁にボールを集めても苦しい1対1になるのであれば、もっとボールを動かした中でオープンを作ってあげるとか。言葉で言うのは簡単なんですけど、ああいう緊迫した状況の中でコミュニケーションを取る、すぐに機転を利かせて流れを変える、というのも選手のクオリティだと思います。その部分で力がなかったことを感じました。

田中大貴

「普段の練習から選手同士でコミュニケーションを」

──その部分について、田中選手には「自分が変わるべき」という意識を持っているわけですね。

やっぱり塁にあれだけマークが寄っているわけなので、自分がもっとアタックして少しでも相手の注意をこちらに持ってこれたら全体としてもっと楽になっただろうし。そこでもっと打開して行く力を個人としてつけなきゃいけないと感じました。あとはコミュニケーションの問題で、代表はやっぱり即席チームなので、普段の練習から選手同士でコミュニケーションを取って、ああしたいこうしたいという話をもっともっとやっていかないとダメだと感じました。

普段の練習でも塁はやれるし、言ってしまえばあまり困ることがなかったんです。だからお互いにオフェンスが上手く行っているように感じていたし、親善試合でも徹底マークされるわけじゃないので「ある程度やれる」という良いイメージが少なからずありました。悪くなった時だけコミュニケーションを取るのでは上手く行かないので、良い時であってももっともっとしゃべることが大事だったんじゃないかと。

──ワールドカップに出ていない選手に、その経験を伝えていくことも大事になってきます。

そうですね。合宿の初日に1時間半ぐらいのミーティングがあって、ワールドカップに出た選手も出ていない選手もいましたけど、みんなそれぞれ思っていることを話す機会がありました。ワールドカップに出ていない選手にも危機感があって、その意識は以前より上がっているし、競争もここからさらに激しくなると思います。

ワールドカップを経験した僕たちは、もっともっと高いレベルに行かなきゃいけないということがモチベーションになっているし、その12人じゃない選手もメンバーに入ろうと思ったら同じぐらい強い気持ちを出すことが必要なので、全体として意識が上がっているというのは感じます。

田中大貴

「彼らが合流した時に良いチームになれるように」

──今回のアジアカップ予選には国内組で臨みます。『八村頼み』じゃないところを見せたい気持ちはありますか?

その気持ちももちろんあります。自分たちだけでも戦えるところは最低限見せないといけないし、考えるレベルが少し違うとも思っています。それは彼らがオリンピックでは合流するわけで、『いなくても勝てる』ではなくて、合流した時にどれだけ良いチームが作れるかだと思っています。

海外組がいるのといないのとでは戦い方は変わってきますけど、あくまでも一緒になって戦った時に何が必要になるかを考えなきゃいけない。そういう意味ではディフェンスがすごく課題だと思うので、その強度は彼らがいようがいまいが出さないといけないと思います。そこを合宿でもみんなが意識しています。そういう意味で、国内組だけでの試合でもしっかりパフォーマンスを出せるように、と思っています。

もちろん、「彼らがいなかったら負けるのか」という見方に対して僕らが何も感じないのは違います。同じ日の丸を着ける選手だと思っているので、自分たちだけでもやれるんだぞ、という気持ちは大事です。それで勝てば次に繋がると思うんですけど、そういうレベルの話じゃないというか。彼らが合流した時に良いチームになれるように、こっちはこっちで頑張っていく。僕はそういう考え方です。

──ではあらためて、そんな代表チームの中で田中選手はどんな形で持ち味を発揮していきたいですか。

言い方は難しいですけど、試合の中で起こっていることに対して、「今ここが良くないぞ」とか「次はこうしたらいい」と察する能力が自分は他の選手よりもあると思っています。もちろん、ディフェンスもオフェンスもできることは根本にあって、ディフェンスでシンプルに相手を止めることだったりローテーションに上手く対応したりだとかは自分の持ち味だと思っています。あとは若手が代表に入って来ていますが、その選手たちと何が違うかと言えばやっぱり経験なので、そこで良いものを出したいとも思っています。そういう意味では自分にとってルカの存在がすごく大きくて、ずっと一緒にやってきて彼のバスケットの考え方、メンタリティが自分のものになっている感覚があります。

日本代表が質の高いバスケットをやるために、そこに自分は貢献できると考えています。ワールドカップを経験している身でもありますし、絶対にオリンピックのコートには立ちたいです。