「勝っていたら個人でこんなに点は取らない」
11月12日、千葉ジェッツはアルバルク東京の40分間続くハードワークの前に攻め手を見いだせず、67-77で敗れた。だが、この試合で最も輝いたのはA東京の選手ではなく、千葉の司令塔、富樫勇樹だった。この試合に限っては司令塔ではなくスコアラーと呼ぶべきだろう。11本の3ポイントシュートを含む42得点と、驚異的なスコアを叩き出したのだ。
『42』という数字について、富樫は試合後もピンと来ていない様子だった。これまでの最多得点を問われてこう答える。「分からないですけど、小学校や中学校のスタッツを取っていない試合を含めてもないと思います。30点オーバーだってほぼ人生でないぐらいなので。人生でこんなにシュートが入る試合はないと思います」
得点力が魅力のポイントガード。それが富樫なのだが、20点を取ることはあっても30点は稀(3週間前の大阪エヴェッサ戦で31得点を記録している)。日本人選手の42得点は常識では考えられない数字だ。1試合における3ポイントシュート成功数11は、これまでの8を大幅に塗り替える新記録。最多得点もダバンテ・ガードナーが今シーズンに記録した47得点に迫った。
ただ、富樫は浮かない表情のまま。この試合をどう受け止めたらいいか、終了直後にはまだ整理がついていない様子だった。「チームが勝っていたら良かったんですけど、勝っていたら個人でこんなに点数は取っていません。こういう試合に勝つにはチーム全員の力が必要で、他の選手を乗せることができませんでした」
「自分たちのリズムでパスが回らなかった」
その前日の第1戦、千葉は攻守ともにシーズン最高とも言うべき出色の出来で、95-59とA東京に大勝している。だが、あまりに圧倒した結果、A東京の選手たちに尋常ならざるリベンジの意欲を与えてしまった。「簡単なパスだったりをアグレッシブにディナイしてきた結果、全く自分たちのリズムでパスが回らず、自分たちのオフェンスをさせてもらえなかった試合でした」と富樫は敗因を語る。
「いろんなコールをしても相手のプレッシャーに押し出されて自分たちのやりたいところにボールが持っていけない。何とか少しずつでもピック&ロールで点差を縮められたらと思いました」と富樫は言う。ピック&ロールで富樫がフリーになり、瞬時にシュートを放つ。これが高確率で決まった結果の42得点。ただ前提として、それ以外に攻め手がない状況に追い込まれていた。
「代表でルカ(パヴィチェヴィッチ)とやっていたので守り方は分かっていました。ピック&ロールに対してセンターとボールマン、そこの2対2で解決しろというディフェンスの指示だと思います。他の3人はオーバーヘルプするなと。それは常に代表で言っていたことです。実際、ピック&ロールをかければ自分がビッグマンのどちらかが空くのは分かっていました。今日はシュートタッチが良く、そこで点を取れたのは良かったですけど、チームとしてのオフェンスが全く機能しなかったのはやはり課題です」
「チームが良くない時に自分が何とかする選手に」
とはいえ、チームメートの不甲斐なさを非難するつもりは全くない。オフェンスが機能しなかったのは『自分も含めてのチーム』であり、ディフェンスについては「オフェンスでボールが回らずフラストレーションが溜まっている中、集中力を切らさずにディフェンスできたのはすごく良かったところです」と評価している。これは大野篤史ヘッドコーチも同意見。悔しい負けではあったが、選手たちの奮闘についてはしっかりと称えていた。
チームの生命線であるエナジーあるディフェンスは実行できていた。だから負けたとはいえ、必要以上にネガティブにはならない。富樫も同じで、これだけの点を取れた感触を忘れないように頭の中で反芻しているようだった。「自分の点数については分かっていませんでした。あまり今まで、特に今シーズンは3ポイントシュートが全く入っていなくて、昨日今日と入ったんですけど(前節まで成功率28%)。狙っていたというより1点でも多く、追い付くために必死でした」
「チームが良くない時に少しでも自分が何とかする、最悪『個の力』でもつなぐ選手になりたいと思っているので、負けたけど良い経験です」と、会見の最後になってようやく、今日のパフォーマンスを自分の中で消化できたようだ。
シュートタッチは水物。入る日もあれば入らない日もある。だが、いくらシュートタッチが良くても40得点オーバーを記録する選手は限られている。富樫はこの試合で、その仲間入りを果たした。
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