京都を代表してウインターカップに出場する東山は、独特なスタイルを持ったチームだ。プロも含めてほとんどの指導者が「まずはディフェンス、そこから走る展開へ」と言うのとは対照的に、ハーフコートのオフェンスを突き詰め、100点取られても101点取るバスケを目指す。留学生の強力なインサイドを擁しながら、そこに依存しないチーム作りも野心を感じさせる。岡田侑大というスター選手を軸にステップアップを果たした東山は、彼が卒業した後も強豪であり続けている。大澤徹也監督は、6回目のウインターカップに自信を持って乗り込む。
「留学生だけに絞って点を取らないチーム」
──新チームになってからここまでの1年を振り返ってください。
去年のチームはしっかり完成度を高められたチームだと自分では思っていたのですが、福岡第一に完敗しました(54-83)。コテンパンにやられた悔しさから始まったチームなので、その悔しさを持って1年間努力してきたのが出てきたと思います。ウチの特徴であるハーフコートに磨きをかけたのと、夏以降は速攻のスピードにこだわってきました。ウインターカップ予選決勝の洛南戦でトランジションで点差を開くことができたのは、その成果だと思います。
今のスタートの5人の完成度は非常に高いと思います。留学生だけに絞って点を取らないチームになっています。武器があるのは良いことですが、結局は対応されます。対応された時に次をどうするのか。これの繰り返しですよね。その中で今の5人は、3ポイントシュートが打てる選手、ドライブで中に切っていける選手、リバウンドが取れて走れる選手、パスがさばける選手、留学生。その中でもフロアバランスと状況判断を意識して練習しています。
──留学生プレーヤーを擁しながら、そこに依存しないバスケットを意識しているのは、選手たちが大学生、プロになった時にも通用するようにと考えているからですか?
高校で選手を預かっている以上は、次のステージでも頑張ってほしいので、バスケットIQを高めることは大事です。ただ、高校3年間で覚えるべきことを教えているだけとも言えます。大学に行って、またその先に日の丸を背負って、と私が考えているかどうかは難しいところで、選手たちの将来のためと言えばカッコ良いですが、高校で勝つための一つの考え方でもあるので。
ウチはバスケットに特化しているわけではありません。そういった意味では咄嗟の状況に対応する能力、状況判断はバスケットでも普段の生活でも一緒です。結局は文武両道でやらなければいけないことがあり、結果を出さなきゃいけないですから。
──ちなみに、選手たちの普段の生活はどんなものですか? 寮生がほとんどですか?
今は県外が多く、寮の子たちが主力には多くなっています。部員は40人いて、そのうち18人が寮です。ただ、昔みたいに何時から何時までとスケジュールを詰めたりはしません。今の子たちに合うよう、最低限のルールを作ってみんなでやっていきなさい、という寮です。ただ、他の高校がどうなのかは分かりませんが、頭髪検査があったり、そういう規律はあります。勉強もちゃんとやる学校です。
「力がある子にチャンスがあるなら、プロに行かせたい」
──Bリーグができた今、高校生でもプロ志望の選手は増えているはずです。東山は岡田侑大を輩出した学校でもありますが、選手たちの進路をアドバイスする立場としてどう考えていますか?
比べるのがおかしいかもしれませんが、八村塁選手がああやってNBAで活躍している状況がありますよね。どの選手も「より高いレベルでバスケットがやりたい」と考えるものです。大学がダメなわけではありませんが、大学よりもBリーグに行きたいという思いはあって当然です。でも、そういう子がどんどん出て行けばそれもまたセカンドキャリアをどうするんだ、という問題も出てくるはずで、そこはいろんな人間がアドバイスしていかなければいけない。
私の本心では、一般的には大学に行ってBリーグに進むべきだと思っています。大学の4年間で教養を身に着けるのも大事ですから。その子がすぐBリーグに行って活躍できるのか、プロでやっていく思いを持ち続けられるのか。高校生の選手と3年間一緒に生活する中で、指導者がそれを見極め、良いアドバイスをしなければいけないと考えています。それでも、それだけの力がある子にすぐBリーグに行くチャンスが与えられるなら、私は行かせてあげたいと思います。
──東山にいた頃から、岡田選手はBリーグでやれると見ていましたか?
岡田はそういう雰囲気を持った選手でした。使ってもらえたらやっちゃうんじゃないか、という気はしていました。ただ、それは1年目のことで、2年目の今は対応されるのでもがき苦しんでいます。それでも、そういう経験を早いうちからしていくのは大事ですよね。岡田は21歳でそれを経験できていますから、彼のバスケット人生としては素晴らしいことですよ。
──高校生の選手がBリーグに行きたいと相談に来たとします。岡田選手のレベルじゃないにしても、例えば高校生でこれぐらいできれば、B2なら通用する、みたいな見方はありますか?
フォワードかセンターならアリかもしれません。逆にガードは即戦力でやれないと行く意味がないと思います。当たりに慣れるだけなら大学でも良いし、Bリーグならトップで活躍してこそ行く意味があると思います。B2やB3に高校から行くなら、大学に行くことを勧めます。
──では、渡邊雄太選手や八村塁選手のように海外の大学に行くことはどう思いますか?
すごく良いことだし、その成功例がこれからいくつ出てくるかが日本バスケの強化に直結すると思います。Bリーグも年々レベルが上がっていて、そこで日本人選手が育つのもありますが、八村選手を見ていると、やっぱり全然違うレベルですよね。毎日あのクラスと戦っているわけです。逆に言えばBリーグの目指すところとしては、あのレベルの選手を輩出するよりも、あのレベルの選手が来てくれることじゃないかと思います。
「そっちに行くべきだ、とは言いたくない」
──Bリーグが4年目を迎えてレベルアップを続けて、NBAでも日本人選手が活躍している。その現実は高校バスケにもポジティブな影響を与えていると思いますか?
そう思います。実際に去年のウインターカップでも今年のインターハイでも、高校バスケのレベルも上がっています。私は、見ていて単純に一番面白いのは高校バスケだと思います。早いし、目まぐるしいし、プロであればこれは無理だと判断するボールも、高校生だったら絶対にあきらめません。そういうのは見ていて面白いし、見に来る人の質も上がっている気がします。
そういう意味では高校バスケは今すごく盛り上がっていると感じます。かつての田臥雄太さんの時代も全盛期でしたけど、今も負けていないと思います。観客数も増えていますよね。
──そんな中、京都では東山と洛南の切磋琢磨が両チームのレベルアップに繋がっています。
そう思います。今まで洛南のパスランがずっと強かった。そこにウチが留学生を入れて、ピック&ロールのハーフコートバスケットを入れて。そういった違うスタイルが競い合う様子を、見ている人も面白がってくれます。ミニバスの子で、それまではシュートを打つのが楽しかったけど、米須玲音を見た次の日からパスの練習を始めたという話を聞いて、それが私はすごくうれしくて。そんな観点を持った子にウチのバスケットをもっと見てもらいたいです。
──高校バスケ全体の最近の傾向として感じるところは何かありますか?
チームのスカウティングの技術が上がってきてるのは確かです。私が現役だった頃は、ビデオは見ますけど自分たちでメモを取って終わりでした。今はデータが出るので、選手の頭にも入りやすいですね。5回ドライブしたら右が何回で左か何回か分かるし、映像でも確認できます。それを頭に入れれば対応しやすいのは間違いありません。
でも、そこは私にはまだ葛藤があります。「来週のチームにはこれがあるから、こうやって勝とう」というのはプロだと思うんです。高校生は理屈じゃなくていい。右って分かってても止められない、みたいなプレーを出すのが高校生なんじゃないかと思うんです。勝ち負けも大事ですけど、高校生らしさを私はまだ追い求めたいです。右に行くのは相手は知ってるかもしれないけど、いいじゃん行けよ、って。
上のレベルに進めばそうも言ってられないので、私も自分と葛藤しながらです。その矛盾とどう向き合うかが、高校の指導者の腕の見せどころだと思っています。だから私は状況判断と対応能力を大事にしています。試合のある瞬間に、彼らがどこの引き出しをバッと開けるのか。ただ、それと同時に「いや、そうじゃない。そっちに行くべきだ」とは言いたくないです。「理屈じゃなく行っちゃえよ」と思います。