開幕から1カ月、ディフェンス指標の高いチームが上位に

開幕から1カ月か経過したNBA。各チームが15試合前後を経過した段階ですが、オフに大型移籍やトレードが多発したことで新体制となったチームが多く、勢力図、そして戦術的にもリーグ全体が大きな変革を迎えています。長いシーズンを考えると、まだまだ調整段階で、各チームのヘッドコーチはこれから修正を施してくるでしょうが、少しずつ今シーズンの特徴が出てきました。

トップ10チームが11勝以上を上げる一方で、14チームがまだ6勝と勝率5割には遠い位置にいて苦戦しています。その中にはブレイザーズやスパーズといったプレーオフの常連も混じっており、チーム設計の出遅れがスタートダッシュの失敗に直結しています。またケガ人続出のウォリアーズは最下位に沈んでいます。

このまま行けば東西いずれのカンファレンスでも勝率5割を超えていれば8位以内に入りプレーオフに進出できます。この状況で有利なのは、ルカ・ドンチッチが驚異的な活躍で引っ張るマーベリックスを筆頭に、若手中心で経験の面では物足りなくても勢いのあるチームです。

上位は混戦模様で、安定して勝ち星を伸ばしているチームも一つの負けで順位が大きく落ちる状況です。この上位陣のレーティングはここ数年と少し様子が変わり、ディフェンス力の高いチームが勝率を伸ばしているのが特徴です。戦術の変化やルール改正によりオフェンス優位になった近年の流れから逆行するように、ディフェンス力に舵を切るチームが成功を収めています。

勝率上位の10チームのうちロケッツを除く9チームがディフェンスレーティング上位10位以内にはいっており、逆にオフェンスレーティング10位以内には5チームしかはいっていません。ロケッツもディフェンスが改善してから勝率を向上されており、勝つために優先すべきなのがオフェンスからディフェンスに移ってきたのです。

ディフェンス力が重要になってきた理由の一つには、オフェンス力の向上が限界を迎えたことが挙げられます。3ポイントシュートを有効に使う戦術はすでに一般化され、今シーズンはカール・アンソニー・タウンズがリーグで2番目に多く決めているなど、センターであっても積極的に3ポイントシュートを打つのが常識となりました。全チームが形は違えど有効に3ポイントシュートを取り込んだことで、オフェンスで明確なアドバンテージを得ることが難しくなってきました。時に打ち勝つことはあっても、上位陣が軒並み高い勝率を上げている中ではディフェンス力がなければ置いていかれるのが今シーズンのNBAなのです。

一方で対策となるディフェンス戦術も確立されてきました。スイッチディフェンスやゾーンディフェンスによってフリーを作らせない形や、オフボールスイッチを頻繁に取り込むことでミスマッチを避けるなど、「インサイドよりも3ポイントシュートを優先的に守る」ことを前提に工夫を凝らした戦術が構築されました。

首位を走るレイカーズがアンソニー・デイビスともう一人のセンターを起用する形は、3ポイントシュートに強くプレッシャーをかけた結果、抜かれてもヘルプに来るリムプロテクターを用意することに繋がり、またセンターであっても3ポイントシュートまで守ることが前提になります。かつてはゴール下専門だったドワイト・ハワードが献身的に動き回る選手に生まれ変わったのは、このトレンドに合わせた象徴的な変化です。

ヤニス・アデトクンボとブルック・ロペスの2人で待ち構えるバックス、ルディ・ゴベアに誘い込むようなジャズなど、3ポイントシュートを優先して守るからこそビッグマンのリムプロテクトが目立っているチームがスタートダッシュに成功しています。

またアル・ホーフォードとジョシュ・リチャードソンを補強したシクサーズは単にビッグマンを増やすだけでなく全体を大型化しました。スモールラインナップ全盛期を逆に行く編成ですが、実はシクサーズだけでなく多くのチームが大型化を図っています。

カワイ・レナードとポール・ジョージ以外にもオールラウンドなディフェンダーを並べるクリッパーズ、同じくケンバ・ウォーカー以外をオールラウンダーで固めるセルティックス、ポール・ミルサップ、ジェレミー・グラント、フアンチョ・エルナンゴメスとパワーフォワードを分厚く揃えたナゲッツなどチーム全体の大型化もディフェンス力構築に大きな影響を与えています。

3ポイントシュートと運動量でオフェンス力が大きく向上した近年の流れは、NBAの戦術を大きく変化させてきました。その変化が常識化し、対応できる能力を備えた選手が増えたことで、一つのターニングポイントを迎えたような開幕1カ月となっています。

各チームのコーチ陣がオフの間に様々な対策を施した結果がここまでの成績に影響を与えていますが、ここからさらに今シーズンの特徴に合わせた修正が施されます。ここからは、上位陣のディフェンス力が本物かどうかが問われます。