ランス・スティーブンソンは『MVPコール』に笑み
マカオで開催されるFIBA公認大会『テリフィック12』は昨日が最終日。ファイナルでは遼寧フライングレパーズ(中国)がソウルSKナイツ(韓国)を破って優勝した。
一進一退の攻防が続いて迎えた最終クォーター、わずかにリードするレパーズはNBA経験豊富なランス・スティーブンソンと現役チュニジア代表のサラー・メジリを同時起用して一気に相手を突き放そうとするが、気合の空回りしたメジリの連続ファウルで逆にリズムを乱し、SKナイツに走られて逆転を許す。しかし、67-63から0-8のランを浴びたところで、それまでボールを運びと3ポイントシュートの『省エネ運転』を続けてきたランスにスイッチが入る。
昨シーズンにレイカーズでともにプレーしたレブロン・ジェームズばりの力強いアタックから、阻みに来る相手のタイミングを巧みにかわしてのレイアップ、ターンアラウンドで置き去りにしてのジャンパー、さらには相手を引き付けてメジリのイージーシュートをアシストと大活躍。勝負どころでのランスの活躍により、レパーズが83-82で競り勝った。
34得点というスタッツ以上に競った終盤での勝負強さが光ったランスは、大会MVPを受賞。トロフィーを受け取るランスを、会場を埋めたファンは「MVPコール」で称え、ランスも試合中の鬼気迫る表情から一転して笑顔を見せた。
3位決定戦では浙江ライオンズ(中国)がサンミゲルビアメン(フィリピン)を91-89で下しているが、こちらも決勝の逆転3ポイントシュートが決まったのは残り7秒という大熱戦だった。
優勝したレパーズ「100%の力を出そうとするのは当然」
Bリーグからは前年のチャンピオンシップ4強から千葉ジェッツ、琉球ゴールデンキングス、宇都宮ブレックスが、そして新潟アルビレックスBBが参加したが、いずれもグループステージ敗退。シーズン開幕を2週間後に控え、しかも直前にアーリーカップを戦ったこともあり、勝負よりもコンディションを優先した形だ。千葉、琉球、新潟はインサイドを支える外国籍選手が思うように使えず、宇都宮はアーリーカップで3連戦を戦い、翌日にマカオに移動して2連戦に臨む『6日で5試合』の超過密日程だった。
ただ、特に決勝トーナメントに入ってからの各チームの戦いぶりを見ると、目の前の試合で勝つために全力でプレーしているのは明らかだった。スケジュールやコンディションを言い訳にしようと思えば、他国のクラブもその材料はいくらでも見つかるはず。それでも彼らは、時にはケガ人を出しながらも100%の力でぶつかり合い、この大会の優勝を目指した。
優勝したレパーズのキャプテン、ガオ・シエンは「プレシーズンかどうかは関係なく、試合となればどんな試合でも勝ちたい。仲間と力を合わせて100%の力を出そうとするのは当然」と言い切る。ランス・スティーブンソン頼みのバスケットにも見えたが、「チームに加わったばかりで連携ができていないが、それでも彼の能力を生かすように自分たちがプレーした。その結果として優勝できたのだと思う」と、その時にできるベストに徹しての優勝を誇った。
『いざという時』に100%の力を発揮できるチームを
中国の選手は高さとフィジカルで東アジアのライバルを大きく上回る。韓国の選手は体格こそ日本人選手と大差ないが、外国籍選手に頼らず自分で得点を取りに行く積極性、ボールへの執着心で日本人選手より上だった。公式戦じゃないから、過密日程だから、と言い訳をするのは簡単だ。しかし、バスケは習慣のスポーツであり、日々の練習や練習試合でやっていないことを本番でいざ出そうと思っても出せないものだ。プレシーズンの大会とはいえ、『結果よりも内容』と生ぬるい認識で臨むべきではなかった。
もっとも、日本のバスケが東アジアを舞台にしたこの大会で受け入れられた面もあった。他国の記者に聞くと、緩急のメリハリが効き、スマートなバスケットは魅力的だと言う。どの国の記者も八村塁のことは事細かに知っているし、日本バスケの急成長を脅威に感じるとともに「たいしたものだ」と感心している。少なからずリップサービスの部分もあるだろうが、注目度が数年前とは全く違うレベルになっているのは間違いない。
また、お世辞抜きで彼らを熱狂させていたのが富樫勇樹だ。中国の育成はスタート時点で身長で選別したエリートだけを対象にするため、スピードとスキルで相手を翻弄する167cmの選手は存在し得ない。彼らは日本代表で活躍する富樫のことを知っているが、そのパフォーマンスを『テリフィック12』で目の当たりにして、「噂のトガシはやっぱりすごい!」とうなった。
日本代表はワールドカップで手痛い負けを喫したが、あきらめずに繰り返し挑戦していく必要がある。アメリカやヨーロッパの強豪を倒すことを夢見るのもいいが、まずは東アジアの強豪と切磋琢磨し、レベルを上げていくことも大事だ。それをクラブレベルへと落とし込んだこの大会で、日本のチームがスケジュールやコンディションを理由に勝ちをあきらめたような戦いをしたのは残念だった。
やらない理由を見つけるのは簡単。ただ、それでは『いざという時』に100%の力を発揮して、大事な勝負に勝つことのできるチームにはなれない。ワールドカップ、八村塁がいなくなった順位決定戦で奮起したのは渡邊雄太ただ一人。この状況から脱するには、目の前の日常から変えていくしかない。
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