ワールドカップ2019

バスケワールドカップのファイナルに進んだのは、アルゼンチンとスペイン。ともに国際大会で好成績を残す強豪とはいえ、優勝候補と言われたセルビアやオーストラリア、アメリカが残らなかったのは意外な結果でした。というのも、1次リーグから『圧倒的な強さ』を発揮してきたわけではなく、特にスペインは毎試合のようにギリギリの勝利を手繰り寄せてきました。そんな両チームが残ったことはバスケという競技の難しさをあらためて感じさせるものです。

迷いなく『全員に徹底できる』アルゼンチンの強さ

現役NBAプレイヤーのいないアルゼンチンは、ポイントガードのファクンド・カンパッソが絶対的な中心として見事なパスワークを披露しますが、決してカンパッソ次第というわけではなく、特定の選手ではなく誰もがリングにアタックし、常にバランスの取れたオフェンスを展開してきます。日本でのテストマッチでは日本代表に対して3ポイントシュートを打ち続けましたが、準決勝のフランス戦ではドライブが目立ちました。ディフェンスの状況に合わせたオフェンスパターンを展開でき、チーム全員の能力を活用して多彩な形での得点を挙げることができます。

単にチームの連携が優れているというだけでなく、「どんな時に何をするのか」という共通意識の高さが最大の強み。ディフェンスでもアメリカ戦でゴール下を支配したルディ・ゴベアに対しては必ずブロックアウトしてオフェンスリバウンドを取らせないことを徹底し、そしてリバウンドを押さえたら素早い攻守の切り替えで、ゴベアを置き去りにして走りました。

フランスもトランジションディフェンスに戻ってはいたものの、毎回のようにアルゼンチンの方が人数が多く、チームとしてやるべきことを『全員に徹底できる』強さがアルゼンチンを支えてきたと言えます。

それぞれ勝負どころで一つひとつのプレーに迷いがない『チームとしてのメンタルの強さ』を感じさせます。圧倒的な強さはなくても、チームとしての『迷いのなさ』という点では今大会のすべてのチームを圧倒してきました。

リスクを減らして戦う試合運びが光るスペイン

準決勝でオーストラリアとのダブルオーバータイムの激闘を制したスペインは、この試合に限らず苦戦しながらギリギリの勝利を積み重ねてきました。北京オリンピックで17歳でファイナルの舞台を踏んだリッキー・ルビオを中心に、少しずつメンバーを入れ替えながらも長期にわたって培ってきたチーム力は他国を上回っています。

ただし、中心となるルビオとマルク・ガソルがオフェンスを見事に組み立てるものの、ともに決定力に課題があり、良いプレーをしているにもかかわらず圧倒しかねてきた印象です。

しかし、自分たちに自信を持つスペインは多少のシュートミスくらいで迷うことはなく、最後まで同じように形を作ってきます。イタリア戦ではプレーを読まれたガソルのシュートが全く決まらず、大接戦で試合終盤に突入すると、残り1分でポストアップからの個人技勝負でこの試合初めてのシュートを決めました。無得点で苦しんでいても自分のプレーを貫くことのできるメンタルの強さは、ギリギリの攻防を制する強さの源となります。

また接戦を繰り広げる中で、1回リードを得ると途端にスローダウンでゲームをコントロールし、逃げ切ってしまうのもスペインの巧みさ。ルビオとセルヒオ・リュリの2人によるショットクロックをギリギリまで使いながらもシュートシーンを生み出すゲームメークは秀逸で、追い上げたい相手チームを手玉に取ってきます。圧倒してこなかった理由は、リスクを減らして戦う試合運びの上手さにもありました。

国際試合で勝つためにどうすべきか、を示すファイナルに

両チームに共通するのは『圧倒的ではない強さ』で、これはむしろチームとしての成熟を感じさせます。共通意識の高さと試合運びの上手さは単なる得点差では見えにくい強さです。それぞれのポイントガードであるカンパッソとリュリは同じレアル・マドリー所属。両チーム合わせて5人がレアル・マドリーに所属しており、NBAプレイヤーの数よりも多くなります。

国際ルールの中でどのように戦い、そしてチームをどうやって構築していくのか。これまで個人の能力によって圧倒して勝ってきたアメリカが7位に終わった大会で、ヨーロッパの強豪チームが国際試合で勝つために必要なことを示すファイナルになるのかもしれません。