選手の特徴と合致していないポポビッチの戦術
バスケワールドカップ、アメリカ代表は2戦目となるトルコ戦で思わぬ苦戦を強いられました。第4クォーター残り0.1秒でトルコのファウルによって得たフリースローで追いつくも、延長で再び敗色濃厚に。そこで今度はトルコの4連続フリースローミスによって救われました。名将グレッグ・ポポビッチをヘッドコーチに迎えながら、あまりにもお粗末なプレーを続けています。
ビッグネームの代表参加辞退が相次いだとはいえ、それでも戦力的にはトルコやチェコからすると「誰か1人でも譲ってほしい」ような豪華メンバーです。期待の若手と味のあるベテランをポポビッチがどう組み合わせるのか、開幕前は楽しみでしたが、ここまでは全くの期待外れ。急造チームのため大会が進むごとに連携は深まっていくでしょうが、この2試合の戦いぶりからはその兆候が全く見られません。
例えばNBAオールスターの3ポイントコンテストで優勝した、世界最高クラスのシューターであるジョー・ハリスは、複数のスクリーンを使ってマークを振りほどき、タイミングの良いパスを受けてキャッチ&シュートで決めるのが持ち味ですが、彼のためにスクリーンをかけるのはマイルズ・ターナーくらい。それも個人の判断でスクリーナーになっている雰囲気で、タイミングの良いパスは期待できません。
トルコはゾーンを使ってアメリカを苦しめましたが、その時のアメリカは全員が足を止めてしまい、パスを回しても広いコーナーのスペースを有効には使えないだけでなく、一つひとつのパスに迷いがあるためテンポが悪く、崩しきれませんでした。
ポポビッチに限らず、今回のアメリカ代表のコーチ陣が普段率いているNBAのチームは、スクリーンを使って特定の選手を空けるプレーよりも、全員が連動して動きながらパス回しで攻略する「人とボールが連動する」チームオフェンスが主体です。そのシステムをそのまま当てはめた結果、今回招集された選手の特徴に合っていません。コーチ陣の求めるだけの判断力を選手が発揮できていないとも言えますが、どうしてもチグハグなオフェンスが続きます。妥協しない性格の指揮官が自分のやり方を優先する中で、選手たちはコート上で戸惑いを見せています。実際、「連携を深める」と言ってもどんな形で深めるのか、現時点では見えてきません。
「ルールの違い」への戸惑いと「らしくない采配」
その一方で「ポポビッチらしくない采配」も見受けられています。トルコ戦では5人の選手が28分以上プレーした一方で、5人が12分以下。メイソン・プラムリーに至っては出場機会を与えられませんでした。スパーズでは戦力を隅々まで活用し、試合の中で個人が全力を出せるようなスタミナ配分を考えるポポビッチが、アメリカ代表になると特定の選手に頼っています。その選手たちにしても、コート上でポポビッチの意図するプレーをしているようには見えないのだから疑問ばかりが浮かびます。
また初戦のチェコ戦からビッグマンを使わないスモールラインナップを頻繁に使っていますが、いくら何でも無茶なマッチアップが生まれてしまい、トルコのアーサン・イリヤソバにインサイドの薄さを利用されました。NBAルールではインプレー中にもタイムアウトを請求でき、意図したタイミングで選手交代が可能ですが、国際ルールではそれができませんし、タイムアウトの数も少ないため、細かいマッチアップ調整が難しかったことが大苦戦を招きました。
トルコ戦のアメリカはドライブしてはインサイドに収縮して待ち構えるディフェンスに潰され、2ポイントシュートの成功率が35%に留まったのが最大の問題でした。NBAではマークマンのいないディフェンダーがペイント内に3秒以上留まってはいけないルールがあるので、スモールラインナップを採用することで相手のインサイドのカバーディフェンスを減らせますが、国際ルールではそうはいきません。スモールラインナップが機能しないにもかかわらずビッグマンのプラムリーにプレータイムが与えられない状況は、采配が国際ルールでの戦い方にアジャストできていないように見えました。
3試合目の日本戦、采配に変化は見られるか
ポポビッチとしては選びたい選手を選べなかったような状況かもしれませんが、他国から見れば羨ましい限りの豪華メンバーです。それだけに限られた選手ばかりを長く起用し、機能しない戦術を続けているのは苦しい限りです。それでも2連勝で2次ラウンドへの進出は決め、余裕の出ている状況で迎える日本戦で、その采配にどのような変化が見られるのか。
このままでは、たとえ優勝できたとしても『ドリームチーム』と呼ぶには相応しくなく、世界のバスケファンの記憶に残るチームにもならないでしょう。ポポビッチにはそろそろチーム作りの回答を見いだしてもらいたいところ。頼りにしているジェイソン・テイタムとドノバン・ミッチェルがトルコ戦で足を痛めるシーンがあっただけに、何かしらの変化が必要になる点で、打開策を見いだせるでしょうか。