田中大貴

「戦えている部分もある、でもトータルすると戦えない」

日本代表はバスケワールドカップの第2戦でチェコに76-89で敗れ、2次リーグ進出の可能性が絶たれた。この試合で先発に抜擢された田中大貴が「前回の試合よりも入りは良く、自分たちのプラン通り、前半が終わるまではやれた」と言うように、立ち上がりの悪さを解消したことで、前半を5点ビハインドで折り返した。

それでも後半に入ると徐々に離され、逆転のきっかけをつかめないまま試合終了を迎えた。

指揮官のフリオ・ラマスは敗因にフィジカルの差を挙げた。田中も「相手はしっかりスクリーンも当ててきますし、それがボディーブローのようにダメージになった」と語る。

フィジカルは相手が上。しかもほぼ8人でローテーションしているのだから、日本が後半に失速することは必然の結果だ。「戦えている部分もあると思う。でもトータルすると戦えない。そこが今一番足りないところ」と、田中は言う。

先発した田中は第1クォーターをフル出場して7得点を挙げ、リズムを作った。だが、第2クォーターで6分、第3クォーターで7分のプレータイムで無得点に終わると、最終クォーターに出番は訪れなかった。フィジカルと体力を考えれば、最終クォーターに限られた時間でもフレッシュな田中を投入しても良かったのではと感じてしまう。

「いつもだったら、5分間隔で交代したりしていましたが、今日は最初に10分出たり、最後に出なかったり。正直、第4クォーターに出たかった気持ちはありましたけど、ヘッドコーチの采配なので」と、田中は率直な思いを語る。

田中大貴

「崩す工夫、引き出しを増やさないといけない」

ラマスヘッドコーチは昨日の試合後、89失点を喫したディフェンス面も敗因に挙げたが、オフェンスについては「良かった」と評価している。しかし、実際にオフェンスは機能していたのだろうか。ニック・ファジーカスは高確率でシュートを決めたが、そもそもボールを触る回数が少なく、どのようにオフェンスに絡むべきか終始模索していた。

チームハイの21得点を記録した八村塁にしても、オフェンスリバウンドからのゴール下やタフショットをねじ込んだ場面が目立ち、チームで崩してチャンスを作った印象は薄い。NBAでは『3&D』が本職の渡邊雄太も3ポイントシュートではなく、ドライブからの得点が主だった。

彼らを操る田中は「3人の良さをすべて発揮できているかと言われたら、そうではないと思う」と答えた。「これからもっと良くなるとは思うんですが、みんなでスペースを潰し合ってしまったり。コールする自分としてもちょっと難しいです」

「崩す工夫だったり、そういう引き出しをもっと増やさないといけない。今はただ塁にボールを入れたり、単にピック&ロールをやってるだけなので。ズレができなくて、最後は苦しいショットになったり、ちょっと重たいと感じます」

連携面の不協和音は、負けているチームには付き物。日本代表の戦いぶりでもう一つ気になるのは、ワールドカップ本番までは武器だったトランジションが出ないこと。速攻からの得点はトルコ戦で11-15、チェコ戦で4-16と2試合とも下回った。さらに言えば、あえて速攻に持ち込んでいなかったようにも見える。

「自分たちが速く攻めることによって相手にも速く攻められてしまい、ハイスコアゲームになってしまうので、アーリーピックは、フリースローの後だけにしようという決まり事はあります」と、田中が明かしたように、それはラマスがワールドカップ用に準備した戦略の一つだ。

田中大貴

「選手の感覚はもっと大事にしてもいいのかなって」

闇雲にペースを速めて打ち合いになれば勝機は薄い。そう考えてテンポを遅らせるのは理解できる。だが、ハーフコートオフェンスが機能しない状況で、2桁のビハインドをまくるにはリスクを背負うべきだ。

当然、選手にも同じ考えはある。田中は言う。「向こうは高さもあってよりフィジカルですし、ハーフコートで組み合ってしまうと、どうしても点数が伸びないです。決まり事を守るのも必要ですが、ただ本当に行ける時は行った方がいいと思います。戦っているのは選手なので、選手の感覚というか、そういうのはもっと大事にしてもいいのかなって。難しいところですね」

もちろん、ヘッドコーチの指示に従うことは大切であり、その遂行度によって選手の評価が決まる。ただ、リスクを背負ったその場のひらめきが劣勢を打開することがあるのも事実だ。

日本はすでに順位決定戦に進むことが確定している。そのため、10点差であろうが50点差であろうが得失点差を気にする必要はもうない。明日の1次リーグ最終戦は、世界最強のアメリカとの対戦。この貴重な機会に、今出せるすべてのものをチームとして出してもらいたい。そして田中には、自分の感覚とチームルールをすり合わせつつ、最高のパフォーマンスを見せてほしい。