『日本人』として世界に挑むニック・ファジーカス「勝ってこそのドリームチーム」

2019/08/21
日本代表
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ニック・ファジーカス

八村塁と渡邊雄太。2人のNBA選手を擁するバスケットボール日本代表は今、かつてない個の力を備えたチームとなっている。まだ20代前半の彼らはまさに日本バスケ界の未来を明るく照らしてくれる『希望』だ。だが、2人と変わらぬインパクトを与える存在として、ニック・ファジーカスを忘れてはならない。

今、こうして日本代表がスポットライトを浴びるきっかけとなったのは、アジア予選のオーストラリア戦に勝利したことだ。ファジーカスは八村とともに、この史上最大の番狂わせを達成する立役者となっている。下馬評では圧倒的不利を評された崖っぷちの大一番を前に「僕を信じてほしい。オーストラリアは僕のいる日本代表に勝ったことはない」と語った姿はいまだ鮮烈な記憶だ。常にポジティブなメッセージを発し、日本バスケ界に『勇気』を与えるファジーカスに、その心境を聞いた。

「ワールドカップは成長のための一つのステップ」

──ワールドカップ開幕が近づいていますが、今の心境はどんなものですか?

日本代表にとって大きな意味を持つ大会であることは分かっているし、これまでは東京オリンピックに出場するために、何としても予選を突破しないと言ってきた。ただ、ワールドカップに出場することはゴールではない。代表がより成長していくための一つのステップだ。相手がどんな強豪でも、試合に出れば勝利を目指すことに変わりはないけどね。

──グループリーグを突破するにはトルコとチェコから勝利を挙げることが重要となります。ただ、ニック選手にとっては、生まれ育ったアメリカとの対戦は特別ですよね。

アメリカと戦うことは全く予想していなかったので、とても楽しみだよ。僕は1992年のバルセロナ大会、96年のアトランタ大会のドリームチームを見て育った。将来はNBAでプレーし、アメリカ代表になることを夢見ていた。

今の代表は、当時のようにみんながプレーしたいと切望するものではなくなってしまったね。もちろんアメリカ代表は世界最強のチームだし、ワールドカップとオリンピックの前回王者だ。でも、チームとしてよくまとまってプレーできれば、彼らを真剣にさせることはできると思う。

──かつてNCAAで活躍した選手が、日本に帰化し、生まれ育ったアメリカの代表チームと戦う。この背景からして、予選グループではアメリカメディアからもスポットライトを浴びることになりそうです。

アメリカとの試合前、メディアから取材を受けて自分の日本に来てからのストーリーが伝えられることもあるだろう。これは少し面白い感じではあるね。再びアメリカで注目されるのは良いことだよ。

アメリカ代表が相手とはいえ、および腰になることはない。「やってやる!」という気持ちで戦うだけだよ。大学時代、名門のカンザス大を破った時は全米で取り上げられた。あの時のような活躍ができて、再び注目されたらいいね。アメリカの昔からのバスケファンに、ニック・ファジーカスが健在であることを証明したい。

ニック・ファジーカス

「日本バスケの一員でいられるのは素晴らしい」

──昨年の4月、日本への帰化申請が通り、代表デビューを果たしてから1年と数カ月が経ちました。日本人の、日本代表のニック・ファジーカスとして何か心境の変化を感じることはありますか。

JAPANのユニフォームを身に着けることに違和感はないし、自分の日本人としてのあり方に変化はないよ。ただ、周りの人は僕にもっと日本語をしゃべってほしいと思っているのかもしれないね。そういうプレッシャーを感じる時もあるし、これは僕自身も気にしている。でも、日本語は引き続き勉強していて、どんどん上達しているよ。

──周囲の変化についてどのように感じていますか。それこそ昔は、こんな風にメディアの取材を受けることもほとんどなかったと思います。

2012年に来日した頃には、取材を受けることは全くなかった。バスケのメディアが存在しているか分からなかったし(笑)、新聞記者に話したこともなかった。試合を行ってもお客さんがほとんどいなかったのが、今ではホームゲームに4000人が集まる。さいたまスーパーアリーナでの国際試合では2万人近くの観客が来るそうだ。「2万人の観客の前で試合をやる」と数年前に言ったら、信じてもらえなかっただろう。今、こうして右肩上がりの日本バスケの一員でいられるのは素晴らしいことだ。

──ニック選手、八村選手、渡邊選手の共演には大きな期待を寄せられています。彼らと一緒にコートに立つことで、プレースタイルに何らかの変化はあると思いますか。

彼らと一緒にプレーすることでスタイルに影響はない、とは言わないよ。ただ、僕の仕事が点を取って、リバウンドを取ることなのは変わらない。ヘッドコーチもそれを期待している。2人は素晴らしい選手で、相手も彼らをよりスカウティングして警戒する。それで自分によりスペースが生まれる。そうなって多くのシュートチャンスが生まれる中でプレーできるのは楽しいよ。

ニック・ファジーカス

「ネバダ大のように、日本でも歴史に残る活躍を」

──今の代表には、日本バスケ界史上最高のタレント集団と評する声も大きいです。当事者として、日本版ドリームチームと呼ばれることをどう感じていますか。

これまでの日本代表について、どんなチームがワールドカップの予選を通過して、誰が活躍したのか。そういった詳細な話はあまり分からない。ただ、今のチームはNBAでドラフト指名された選手がいて、サマーリーグを経験している選手が何人もいる。そういうメンバーがここまで揃うのは初めてで、みんなの期待は過去と比較しても大きいと思う。

これは自分にとってもエキサイティングな経験だ。今の代表が日本にとってドリームチームかと言われれば、僕もそうだと思う。2人のNBA選手がいるわけだからね。ただ、ドリームチームと呼ばれるからには勝利をより期待されるものだと肝に命じておかないといけない。

──では、ニック選手個人について、代表史上最高のセンターになりたい、といった目標はありますか。

ネバダ大では永久欠番になることができた。日本代表でも同じように歴史に残る活躍をしたい。まずは、ワールドカップでベスト16に進出し、オリンピックでも予選リーグで何勝かする。そういった実績を残し続けることで、いずれ僕の銅像が建てられるようになれたらいいね(笑)。この夏はその第一歩にしたいと思っているよ。

──最後にあらためてワールドカップへの意気込みをお願いします。

ワールドカップは自分のキャリアにとって最高の出来事となるチャンス。これまでプレーしたことのない舞台であり、とてもレベルが高い、権威がある大会だ。もちろん、東京オリンピックに向けたチームのチューンアップにもなる。アメリカはオリンピックに間違いなく出場するし、トルコも可能性は十分にある。腕試しとして絶好の舞台だよ。