安齋竜三

昨シーズンの栃木ブレックスは連敗を一度も喫しないままレギュラーシーズンを49勝11敗を乗り切った。これは優勝したBリーグ初年度を上回る成績。チャンピオンシップではセミファイナルで千葉ジェッツに敗れたが、ケガ人続出の状況でもチームスタイルであるディフェンスとリバウンドが揺らぐことはなく、試合終盤に異常なまでの勝負強さで勝ちきる戦いぶりを披露した。今夏から宇都宮ブレックスへとチーム名は変わるが、そのカルチャーは不変である。2年前の秋にヘッドコーチへと昇格し、ブレックスのカルチャーを作り上げた安齋竜三に話を聞いた。

ブレックスメンタリティ、その強さを継承すること

──昨シーズンは遠藤祐亮選手のブレイクがあり、リーグのベスト5にも選ばれました。遠藤選手自身は「信頼してもらえるようになった」ことがきっかけだと話していましたが、安齋ヘッドコーチの中で、何か特別なブレイクのきっかけがあったと思いますか?

特に、これというのはないです。彼の場合は何年も続けてきたことが形になったというか。昨シーズンもチームが苦戦している中でいろいろ考えることがあったと思いますし、そういうのも繋がったとは思います。

──シーズン中に「選手への信頼」という言葉をよく使いますよね。ヘッドコーチを続ける中で選手への信頼は強いものになっていますか?

信頼とか責任という部分を今まで(田臥)勇太が引っ張ってきましたが、チームがこの先良くなるにはそういう選手がもっと増えるべきだと思っていました。その中で昨シーズンは遠藤がそうですし、ナベ(渡邉裕規)も(鵤)誠司もある程度そういうモノが見えてきました。

ビッグマンでは、(竹内)公輔、ライアン(ロシター)とジェフ(ギブス)もそういうメンタリティを持っています。外国籍選手もブレックスのメンタリティーを、若くて何年もウチにいてくれるような選手に、ジェフとライアンから継承していくのが理想です。あくまで僕のイメージですが、外国籍選手は良い選手を取ってきたとしても、カルチャーを伝えるのが難しいと考えています。

勇太、ライアン、ジェフがいるうちに継承していくことが大事だし、彼らもプレーで見せるのはもちろん、それ以外の部分でも気持ちの持ち方をアドバイスしたり、常にコミュニケーションを取ってくれるので、良い時期に継承されているという感じはあります。それを今の選手たちが受け持ってくれれば、今度はその先何年も繋いでいけます。そうやって今のカルチャーやメンタリティーがこの先も繋がっていくのが理想だと思います。

安齋竜三

「そういう態度を取るならウチじゃないチームに行ってよ」

──宇都宮は、ほぼメンバーを変えずに新シーズンを迎えます。補強はなくてもケガ人が復帰して戦力は充実していますが、起用する側としては頭を悩ませるのではないでしょうか?

そこは正直、難しいところですよね。比江島が最初からいるし、勇太もケガを治して万全で来ます。全体のプレータイムは限られていますからね。責任を一人ひとりに与えていく中で、まずはディフェンスの強度を上げ続けます。それで3、4分で代わってもいいし、自分の持っているものをセーブせずに集中して出し切ってもらおうと思っています。

──選手は結果を出していてもプレータイムが伸びないとなれば納得がいかないものです。それでもこのチームではそういった不満が少ないように見えますが、何か秘密があるのでは?

いつも言っているので秘密ではないですが(笑)、まずは「ディフェンスにすべてを使い果たしてほしい」ということです。「疲れたら交代してほしい」と常に言っています。1人が疲れて動けなかったら他の4人の頑張りがゼロになってしまうのがバスケットです。だから、ディフェンスをやろうとしたら、そんなに長く出ていることは不可能だと思っています。長く出るには何かをセーブしている時間があるはずなので、それをしないで、という話ですね。

そういう意味でチームとしての責任を全員が持てば、誰がコートに立ってもある程度は同じことができます。それでもこの選手を入れると何かが崩れるとか、安定感がなくなることは、どのチームにもあると思います。ウチの場合はそれをなるべく減らしたい。そのために短い時間でも集中して、自分の持っているものをセーブせずに出してもらいたいです。

──試合中にうまく休む選手もいますが、それも許さないということですか?

すべてを許さないわけではないですが、サボっているのが見えたら誰でも代えます。ただ、実績や安定性を考慮して、そういう選手には猶予が少しだけ長くなるという感じですかね。僕としては選手の個性や特性はありますが、チームルールにおいての特別扱いをしないのが一番です。これは僕の現役時代の経験で「この人は許されて、俺は許されないのか」というのがあったりしたので。

プレータイムの多い選手のミスの数は当然ながら増えます。プレータイムの少ない選手の1つのミスを映像でチームに見せるよりは、多い選手の中でのミスを映像で見せる機会の方が比較的多いです。スタートも控えも僕の中では正直あまり関係ないですけど、チームルールに対するミスは全体で共有して少なくして行くのが良いチームになって行く事だと思います。何が正解か分からないし、他のチームがどうやっているのかもわかりませんが、そうやってチームルールにおいての特別扱いしないことを少しずつでも感じさせるのは大事だと思っていますね。

──理想に近い関係性が築けているからこその今だと思いますが、選手に自身の考えを理解させて、それに向かって努力させるのは決して簡単ではありませんよね。

僕もたまにありますけど、言いづらい選手もいますよね。外国籍選手には言いづらいとか、言うことでフテ腐れる選手もいると思います。そこをどうやって突破していくかが一番難しいです。でも、そういう態度を取るならウチじゃないチームに行ってよ、それか俺が違うチームに行きますよという考えを僕は持ってます(笑)。

安齋竜三

「毎試合ですべてを出して、責任を果たしたい」

──俺の方針に選手のワガママが入る余地はないと(笑)。

そうですね(笑)。それが責任だと思っています。でも、コミュニケーションは普段から取っていますし、選手全員を信頼しています。コートで起きたことをその後に引きずりたくないですし。

練習に来てからでもオフコートでも、何か気が付けばすぐ映像を見せたり、少ししゃべったり、食事に行くこともあります。以前、経験のあるコーチから「行く選手と行かない選手が出てくるから食事には行かないほうがいい」とアドバイスされたことがあるんですけど、切り離して考えられるつもりです。僕自身、バスケットとそうでない時では違う人間みたいな部分があるので。

この数年間で何回か、選手から「なんで俺を出してくれなかったの?」と言われたこともあります。でもそこは僕にとって許せない部分がその前にあったからなので。もちろん、試合に勝つためには出し続けることも一つの方法だとは思います。でも、勝つためにその近道をチョイスするのではなく、チームのルールや信頼を優先するためにやるべきだと、僕はそういう考えなので。

──その人心掌握術、リーダーシップの面で、お手本にしたコーチはいるんですか?

みんなの良いとこ取りみたいな感じですね。大学とか高校とかの恩師とかも基礎的なところをいっぱい教えてくれて、そういうのが今のコーチングに繋がっていたりもします。

ただ、僕は完璧なコーチなんていないと思っているんです。サッカーの(ジョゼップ)グアルディオラもトップコーチですけど、そのチームから移籍する選手もいましたし。コーチの方針にみんながみんな合うことや、納得していることなんてないと思うんですよ。僕はそれでいいと思っていますし、そういったブレないチーム方針を作って行くのが仕事だと思っています。責任を取るのは自分ですからね。

──では最後にこれまでの話を踏まえた上で、新シーズンへの抱負をお願いします。

良い選手も抱えていますし、良いゲームをしてなおかつ勝つ、良い成績を残さないといけない責任があると思っています。昨シーズンの継続もありつつ、変化もありつつ。でも応援してくれている人たちが求めているのは「ブレックスメンタリティを常に持ち続けること」だと思っています。それを毎試合続けていけば結果も出てくると思うので、毎試合ですべてを出して、責任を果たしたいです。