
「私個人が賞をもらうことに何の意味も感じない」
セルティックスは3週間前にプレーオフのファーストラウンドでセブンティシクサーズに敗れ、2025-26シーズンを終えた。ジェイレン・ブラウンの去就が噂になってはいるが、オフ序盤は去年に比べれば静かなものだ。昨年の今頃はジェイソン・テイタムがアキレス腱断裂の大ケガを負い、ドリュー・ホリデーやクリスタプス・ポルジンギスといった優勝に貢献したベテランがチームを離れようとしており、チームは不穏な雰囲気に包まれていた。
あれから1年、セルティックスは見事な立ち直りを見せた。テイタム不在のシーズンだけにベテラン放出で大胆にサラリーを削減し、たくさんの若手を試しながら、56勝26敗で東カンファレンス2位となった。レギュラーシーズン終盤にはテイタムも復帰。プレーオフでは早々に敗退したが、再建に舵を切ると思われたチームは競争力を保ったまま若返りに成功した。
現地5月26日に発表されたコーチ・オブ・ザ・イヤーにジョー・マズーラが選ばれたのは、その手腕を評価されてのことだ。同じくノミネートされたピストンズのJ.B.ビッカースタッフ、スパーズのミッチ・ジョンソンを相手に、100票中62票の1位票を獲得して大差での受賞を決めた。
セルティックスは「私にこの場を与えてくださった神に、この道のりで私を支えてくれた妻と家族に、日々全力で戦ってくれた選手たちに、クラブのすべてのメンバーに感謝する」というマズーラのコメントを発表した。
しかし、彼はこの賞に冷ややかだ。チームが絶好調だった3月の会見で「コーチ・オブ・ザ・イヤーを受賞できると思うか」と質問されたマズーラは、無表情のまま「馬鹿げた賞であり、欲しいと思ったことはない」と答えた。「プレーするのは選手たちであり、私の下で頑張っているスタッフたちだ。評価されるべきは彼らであり、彼らへの感謝を考えれば、私個人が賞をもらうことに何の意味も感じない。私は二度とこのことに触れたくない」
端的に言って、マズーラは常軌を逸したレベルのワーカーホリックで、選手たちはしばしば敬意を込めて彼を『サイコ』(変人)と呼ぶ。ただ、そのレベルで仕事に没頭するからこそ、ブラッド・スティーブンスが築き上げ、イメイ・ユドカが引き上げたセルティックスを優勝へと導き、今シーズンは勝てない言い訳がたくさんある状況を乗り越えてプレーオフ進出を果たした。
ポジティブな要素がほとんどない中でシーズン始動を迎えた昨年9月、「この苦しい状況でどこにモチベーションを見いだすつもりですか」と質問された彼は、その意味が理解できなかった。ベテランを放出してテイタムが不在でも、それは彼のモチベーションに何の影響も与えていなかったからだ。
「会ったこともない他人に期待されるかどうかをモチベーションの根拠にするようになら、私はコーチ業を引退する。私はこのチームに対して自分なりのスタンダードを持っているかどうかを大事にしている。チームに誰がいようと、高い基準を設けることで自分自身を追い込み、仕事に打ち込む。他人からの期待はいらない。自分自身に高い期待を課すことだけが、望む場所にたどり着く方法だと思っている」
「目標は常に優勝だが、シーズンごとにチームは異なるし、その道のりも異なる。どんなシーズンでもその違いを見据え、勝つためのプロセスを全うするために、あらゆる努力をする。そのプロセスこそがコーチとしての究極の目標であり、私のモチベーションだ。そこ結果として何が起きるかは、その時次第だ」
この時点ではセルティックスは勝つことをあきらめ、『豊作の年』のドラフトに向けてタンキングをするという見方もあった。しかし、マズーラの考え方は全く違った。ただ勝利を見据えて、自身の信じる『プロセス』を全うした。
シクサーズとの『GAME7』に敗れたシーズン最後の会見で、彼は喜怒哀楽の感情を特に何も見せず、淡々とした口調で1年の成果をこう語った。
「このチームは戦う集団だった。セルティックスである以上、優勝以外は『もっと改善できた』という評価になるが、シーズンを通してそのマインドセットを持っていた。開幕から優勝を目指すメンタリティで日々の練習と試合に取り組み、選手たちはただ黙々と努力を続けた。そんな彼らを誇りに思うし、ここで負けたからと言ってシーズンを通して成し遂げたことを否定するつもりはない」
コーチ・オブ・ザ・イヤー受賞に対するマズーラのコメントには、感謝はあっても喜びの言葉はなかった。その代わりコメントの最後には、「この賞は『スタッフ・オブ・ザ・イヤー』という名称に変更すべきだ」という一文と、彼とともに働いたアシスタントコーチや育成スタッフ14名の名前が付け加えられていた。
Coach of the Year from the Staff of the Year 👏 pic.twitter.com/p1Yp5k1C9Q
— Boston Celtics (@celtics) May 26, 2026