杉浦佑成と青木保憲、インカレ3連覇と男子の大学バスケ界を席巻する筑波大バスケ部4年生の2人に話を聞いた。とはいえ、場所は筑波ではなく福岡だ。6月中旬の某日、福岡大学付属大濠の体育館を訪れると、2人は現役部員とともに汗を流していた。
強豪校においては、卒業生が何かにつけて部活に顔を出し、時に練習に加わるのは別に珍しくはない。今回、彼らが一風変わっているのは教育実習生として部員を指導していたことだ。
現在、筑波大学に全国から優秀な高校生プレーヤーが進学するのは、ただ強いからだけではない。単に教員免許を取るだけでなく、指導者としてトップレベルで活躍する人材を数多く輩出する筑波の実績が、プロを目指す高校生にとってはセカンドキャリアを見据えた場合に理想的と見られている。
プロとしてトップを目指す以上、目の前のバスケに100%集中すべきという意見もあるかもしれない。だが、どんな選手にもセカンドキャリアは訪れる。人生設計として、そこまで考慮しておくことは間違いなく『正しい』やり方だ。
自分たちの代での大学3冠に意欲を燃やす2人が『現在』と『未来図』を語ってくれた。
杉浦「なんだかんだ4年生がしっかりして勝ってきた」
──まずは筑波大の現状について聞かせてください。
青木 トーナメントで勝てたことはチームの自信になりました。玉木(祥護)、波多(智也)、増田(啓介)といった下級生が大会中に活躍してくれて、下からの追い風に僕らが乗っかったような感じで勝てたので、それはチームとして良かったです。
杉浦 そうですね。結果的に下級生が活躍して、その勢いのまま行きました。
青木 リーグ戦は長期間の戦いなので、上級生がどれだけタフにやれるかです。僕らの中では、今年のチームに対して「ちょっとヤバいんじゃね?」という危機感が最初はあったので。
杉浦 トーナメントに関しては下級生の勢いがありすぎて、僕たちが上級生として何かする必要もなかったです。
──連覇に対するプレッシャーはありますか?
青木 僕自身、感じていないと言えば嘘になります。でも自分は考えすぎるとドツボにハマっていくタイプなので、「めちゃくちゃやらなきゃ」とは考えないようにしています。杉浦と馬場(雄大)がいてずっと連覇していますが、僕が4年目にして試合に出るようになって、それで負けたくはないので、責任を持ってやるつもりです。
杉浦 なんだかんだで、ずっと4年生がしっかりして勝ってきました。もちろん僕らも3年生まで、チームに勢いを与えてはいたと思うんですが、結局トーナメントやインカレの一発勝負で全部勝つのは相当に難しいです。リーグ戦での東海大みたいに全勝優勝はもっとすごいですけど、一発勝負の大会で勝つには4年生の精神的支柱みたいなものがすごく必要で、僕らは4年生になって、そういう立場になるべきです。自分たちの代で優勝することが成長を示すことなので、プレッシャーはありますが頑張ります。
──4年生でチームの精神的支柱としての自覚は出てきた?
杉浦 いや、正直なところ今は教育実習なのでオフモードです(笑)。それに、その前にユニバの代表があるので、今はそこをまず頑張ろうという気持ちです。今年は1月のオフもサンロッカーズ渋谷でバスケをして、休みなしでバスケをやり続けることを楽しいと感じていたのですが、いざやってみると移動の疲れも結構あって。今は一段落していますが、トーナメント前はキツかったですね。
──杉浦選手や馬場選手を始め、各年代の代表と掛け持ちする選手が多くて、キャプテンの青木選手としては全員が揃う機会が少ない中でチームをまとめる大変さがあるのでは?
青木 トーナメント前にチームとして上向きになれなかった要因の一つとして、それもあるとは思います。大会直前まで全員揃っての練習ができなくて、プレーを合わせていくところで噛み合わず、それがチームの雰囲気にも出てしまいました。トーナメントで勝てたことが良い兆しになるかどうかは分かりませんが、とにかく声を出したり、締めるべきところを締めたり。それでみんながついてきてくれれば。
青木「尊敬する片峯先生のような教師になりたい」
──2人は高校からずっと一緒ですが、それはやりやすさの点でメリットになりますか?
青木 特別そんなことはないですね。
杉浦 どうなんですかね。「今、怒ってるな」とか「調子に乗ってるな」というのは他の選手よりわかります。
──2人で絶対に日本一になろう、という誓いをした?
杉浦 それとは少し違いますが、僕らはウインターカップ決勝で負けて、自分たちの代で日本一になっていないので、その点で今年は高校3年の時のリベンジという気持ちはあります。それがモチベーションになっているんです。練習に行きたくない時でも、その時のことを思い出せば「こんなんじゃダメだ」と思うことができます。
青木 そこは同じですね。雪辱したいです。
──2人は教職を取っていますが、将来的に学校の先生をやりたい?
青木 僕は父親が教員ということもあって、教員になることを考えて筑波を選びました。ただ、学年が上がるにつれてバスケを続けたいと思い、卒業後はBリーグにチャレンジして現役引退後に先生になる、というビジョンが自分の中で確立しています。
杉浦 プロは何が起こるか分からないので、取れるなら取ったほうがいいと思います。教員になるのが難しいのは分かっていますが、セカンドキャリアの選択肢の一つでもあります。
──とはいえ、普通の体育教師ではなくバスケットボールの指導者を考えているんですよね?
青木 僕は片峯(聡太)先生を尊敬していて、ああいう男になりたいんです。生徒にぶつかってくれるというか、目力いっぱいで僕らを見て褒めたり怒ったりしてくれる。本当に僕のことを考えてくれているのが伝わって、「この先生のためなら何をしてもいい」ぐらいの気持ちで高校時代はやっていました。僕もそういう教師に、そういう人間になりたいと思いました。
杉浦 僕の場合、カッコいいとは思っても『人は人で僕は僕』なので、先生のようにはなれないので自分らしくやりたいです。今の目標は東京オリンピック。これからBリーグはどんどん発展するだろうし、うまい先輩もいるし後輩もうまい選手が入ってきます。大学よりも広いカテゴリーで競争しなくちゃいけない。そこで生き残るには、今まで以上に頑張らないといけないです。
青木 僕はまずBリーグに入ること自体が目標です。それだけの実力をつけなきゃいけないと思っています。そしてBリーグに入ったら、できるだけ長くプレーヤーとして頑張りたいです。
杉浦「負けるのは嫌だ、とにかく勝つことです」
──2人は長く一緒にプレーして、互いを知り尽くしていると思いますが、それぞれ相手にアドバイスするとしたら?
青木 佑成自身にもプレーの幅を広げて外の選手になりたい気持ちがあると思います。そのためには言葉でもっと伝えることが必要ですが、自分の中で終わらせてしまうタイプなので。嫌な顔している時が結構あります。自分の意見を言えるようになればリーダーとしてもやっていけると思います。プレーで言うと、シュート力は絶対に一級品。2番や3番の選手になればポストアップでミスマッチから臨機応変にやれるのが強みになると思います。ガード的な視野やスキルを磨いたらもっとすごい選手になります。
杉浦 本人も自覚しているので僕が言う必要もないと思いますが、身体能力が優れているわけでもないし、小さい選手ならではのドリブルができる選手でもありません。でも、フィジカル、シュート力、バスケットIQは優れている。苦手な分野で勝負するのではなく、強みを前面に出していってバスケットをすることが一番だと思います。
──今後のキャリアを形成する意味でも大事な一年になりますが、どんな成長をしたいですか?
青木 数字に残らないところでも人を感動させられる選手になりたいです。高校最後のウインターカップ決勝で、一番情けないプレーをして終わってしまいました。自分の勝負弱さが出てしまい、あと2~3本決めていれば、というところでした。そこを決めきるようになれば成長と言えると思います。あとはバスケットに対する姿勢や情熱を誰よりも見せて、「この選手は感動する」と思われるようになりたい。去年の東海大の寺園(脩斗)さんのように、エネルギッシュにチームを勝たせることが自分の生きる道だと思っています。
杉浦 一番変わらないといけないのは『リードする力』です。それは周りからもずっと言われていることで、言葉の部分です。どうしても向き合わないといけないことだし、その年齢でも学年でもあるので、意識したいです。どのポジションで出るか分かりませんが、どこで出たとしても試合に勝つことをとにかく一番に考えて。負けるのは嫌だし、ストレスです。大変なこともいろいろあると思いますが、とにかく勝つことなので、あと1年しっかり頑張ります。