田中大貴

7月30日、代表候補選手が発表された会見の席で、フリオ・ラマスヘッドコーチは田中大貴のポイントガード起用を明言した。田中が自らチャレンジしたいと申し出て、それを指揮官が認めたのが事の次第だそうだ。「ラマスヘッドコーチとコミュニケーションを取り、今年のワールドカップと来年の東京オリンピックで1番にチャレンジしたいと伝えました」と田中は説明する。アジア予選を通じて活躍し、日本代表の主力として確固たる地位を築いた彼が、このタイミングで自らコンバートに挑むのはなぜなのか。その真意を語ってもらった。

「自分がこのポジションをやればチームの幅が広がる」

──今回、大貴選手がポイントガードを務めることが大きくクローズアップされています。何かきっかけがあったのか、もともと温めていた案なのか。挑戦の意図を教えてください。

世界に行けば190cm台後半や2mを超えるガードも珍しくなくて、日本にとってはサイズの不利がさらに問題になります。自分がこのポジションをやればチームの幅が広がるとは、以前から思っていました。

──新しいポジションに挑戦することで、この日本代表で今まで積み重ねてきたものがリセットされてしまうのではないか、そんなリスクは感じませんでしたか?

そこは考え方の違いで、ちょっと前だったら1番、2番と区切った考え方をしていましたが、1番をやるからと言って、これまで2番でやってきたプレーを全くやらないわけではないと思っています。自分の中ではハンドラーというくくりで、自分の良さはキープしたままボールに触れる回数が増えて、もっともっとプレーに絡むようになるプラスの印象です。

──ハンドラーというくくりで考えれば、アルバルク東京のバスケはポイントガードだけでなく、大貴選手や馬場雄大選手もピック&ロールを使えて、どこからでも仕掛けられるのが強みです。そのスタイルでBリーグで結果を出していることは、今回の挑戦でも自信になりますか?

そうですね。ルカ(パヴィチェヴィッチ)の下で2年やらせてもらって、ボールに触れる機会がこの世界に入ってから一番多くなっていますし、そこで結果を出したことが自分の中で一つの自信になっています。彼の下で学んだことは間違いなく代表で生きるだろうし、ラマスヘッドコーチもそれを見ているからこそ自分のポイントガード起用を考えてくれていると思います。ハンドラーとしてやっていけるという自信はそこにあります。

細かなところで不安はありますよ。そりゃもちろんポイントガードとしてボールを運ぶことは今までやっていなかったですが、そこはアジャストしていくつもりです。

もちろんセットプレーをコールするのはポイントガードですし、そこの経験が足りないのは間違いありません。ディフェンスにしても、相手のポイントガードにつくのと2番、3番の選手につくのでは違ってきます。そのへんの違いは確かにあると思うんですけど、ポイントガードだから何かを変えなければいけない、という考え方はあまりしていません。

他にも試合をやっていく上で足りないところが見つかると思います。アルバルクでもルカから一番厳しく要求されて、一番怒られるのはポイントガードです。大変なポジションだとは重々承知しています。それを分かった上で、覚悟を決めて自分がやらないといけないんだと。

田中大貴

インサイドの充実ぶりに「彼らを使うオプションを」

──ポイントガードではなくハンドラー、つまりはピック&ロールでズレを作り出す役割を担うと考えれば分かりやすいですね。A東京でやっているプレーとかなり近しいわけですから。

そうですね。やっぱりピック&ロールを使って空いたらシュートをバコバコ決められる選手、ステフィン・カリーがそうですけど、そういう選手が一番強いと思います。まだ自分には足りないところがありますが、ピックを使っての状況判断はBリーグの中でも優れているという自信はあります。

それに今の代表の状況というのも関係しています。昔だったら代表でピックを使ったとしても、今の(八村)塁とかニック(ファジーカス)ほどの身体能力がなくて、そこで点数があまり取れず、結局は自分たちがどうにかしなければいけない状況がありました。

それが今は彼らを使うオプションがあって、自分たちにもより良いスペースが生まれるし、ピック&ロールを使ってアドバンテージを作ることがチームの大きなメリットになります。そういうところで自分たちが普段からアルバルクでやっているようなイメージでピック&ロールを使える感じがあります。

──ファジーカス選手とは阿吽の呼吸ができている印象です。

ニックは自分がピック&ロールを使っていて一番やりやすいなと思う選手の一人です。得点能力がある選手なので、少しズレを作ってあげるだけでシュートを決める力があるので、そういった面ではこちらもすごくやりやすいですね。

田中大貴

「次にもう一回、自分にチャンスがあるかは分からない」

──国内の強化試合を経ていよいよワールドカップに臨みます。どんな大会にしたいですか?

ワールドカップに出るのは初めてなので良い経験になると思いますし、楽しい場所だと思うんですけど、次にもう一回、自分にワールドカップのチャンスがあるかと言ったら分からない状況です。来年のオリンピックで良い試合をする意味でも、今回のワールドカップを「出て終わり」にするんじゃなく、次へと進む良いステップにすることが大事です。

相手は強いチームばかりですが、なんとしてでも一矢報いて決勝トーナメントに進むこと。それができれば今の日本にとってすごく大きなことだと思うので、そこを目指します。

──今の日本代表には間違いなく勢いがありますが、相手が難敵揃いなのもまた確かです。

現実的な話だと今までヨーロッパの国には勝ったことがないわけです。ただ、今の代表メンバーは歴代の代表を見ても力のあるメンバーが揃っていますし、なんとかここでこの流れを生かして良い勝負がしたい。塁や(渡邊)雄太、ニックだったり、高さの面で前よりもずっと良くなっているので、全員でディフェンスとリバウンドを頑張ってウチらしい試合をするしかないです。

アジアとは本当にレベルが違うだろうし、そこは自分にとっても未知の世界です。かと言って「初めてだったので何もやらせてもらえずに終わりました」っていうのは違うと思うので、精一杯チャレンジする中で結果を求めていきます。

──代表歴が長くて多くの経験をしている大貴選手にとっても未知の世界です。平常心を保つのは簡単じゃないし、ビビっていたら良さを出せません。どんな心構えで大会に臨みますか?

逆に今まで出たことがなく、怖さが分からないから直前にならないと緊張しないと思います。今は至って冷静ですね。ワールドカップ前の国際強化試合が試せる機会なので、そこをうまく活用します。あとは自分がどれだけ世界でやれるのか、そのチャレンジは僕自身も楽しみです。