桶谷大

「次の世代に良いものを繋いでいくことが僕の使命」

男子日本代表は『FIBAワールドカップ2027アジア予選』Window22試合を沖縄アリーナで実施。ゲーム1の中国戦に敗戦、ゲーム2の韓国戦に勝利し11敗で終えた。今後の展開を踏まえれば連勝で終えることが理想的ではあったが、前任のトム・ホーバスヘッドコーチの退任を受けて大会直前に発足した桶谷大ヘッドコーチによる新体制で、準備不足のまま迎えたことを考慮すれば十分に評価すべき結果だ。

新体制の日本代表では、オフェンスをシーホース三河の指揮官ライアン・リッチマン、ディフェンスをNBA経験豊富な吉本泰輔の両アシスタントコーチが担当し、それらを桶谷ヘッドコーチがゲームマネージメントするという方式をとっている。短い準備時間とはいえ、両アシスタントコーチの引き出しの多さを称える選手たちのコメントは目立っていた。これから合宿と実戦を重ねていくことでチーム力がさらに高まることが楽しみだ。

ここまで触れたような背景がゆえに、今回のWindowの戦いぶりを見て桶谷新体制を評価するのは時期尚早だ。しかし、結果がすべてのワールドカップ予選で、ホームとはいえ中国と韓国という難敵相手の連戦で1勝をもぎとったことは好スタートと言える。

その上で今Windowの戦いぶり、そして桶谷ヘッドコーチ、伊藤拓摩強化委員長のコメントから改めて印象的だったのは、日本代表が目指している方向性がこれまでと明確に違うことだ。

過去8年間において男子日本代表は、フリオ・ラマスとホーバスというヘッドコーチに大きな権限を与え、彼らの意向に完全に沿ったチーム作りを行っていた。それはラマス、ホーバスがそれぞれの実力を最大限発揮するにはベストな選択肢だったかもしれない。ただ、一方でそのやり方は「日本代表」という組織に積み重ねがないことが大きな問題だった。

大雑把に言えば、ラマスはアジアはさておき世界を相手にすると「点の取り合いは分が悪い」とテンポを落とし、ハーフコート重視の方針を取った。しかしホーバスはラマスと真逆の、ハイテンポで3ポイントシュートを多く放つスモールボールを求めた。

これは、目指す方向性が全く違う指揮官を選んだ当時の強化部門に、戦術面における明確な方針がなかっただけとも言えるが、ヘッドコーチによってスタイルが変わることは、日本代表としての継続な成長やカルチャーの熟成を考えればマイナスでしかない。

伊藤強化委員長はこのような課題に真摯に向き合い、日本バスケットボール協会(JBA)として日本代表が目指すべき方向性をしっかりと策定。これに沿ったチーム作りをアンダー世代からフル代表まで、名ばかりではない本当の意味での一気通貫で行うことで、10年先、20年先を見据えた強化を進めようとしている。筆者は、これまでと大きく変わったこのような新方針で相入れない部分が生じ、ホーバスとの契約が解除に至ったと見ている。

桶谷大

代表はスタイルが簡単に変わって良いチームではない

このJBAの指針に合致する人材として抜てきされた桶谷ヘッドコーチは、現在Bリーグ屈指の常勝チームである琉球ゴールデンキングスを創世記から指揮し、献身性と泥臭いハードワークを徹底するカルチャーの構築に貢献した実績の持ち主。ゲーム2の韓国戦後、指揮官は次のように自身のやるべきことを改めて強調していた。

「いつも言いますが、トムさんの良いところを僕たちはしっかりと残していきたいです。そして日本代表は、ヘッドコーチが変わったからといって、スタイルが簡単に変わって良いチームではないと思います。良いところを受け継いでいくことで、より良いチームになっていく。そうやって次の世代に繋いでいくのが僕の使命だと思っています。良いものを残しつつ、プラスアルファで新しいものを入れていく。その中で、新たに良いものを残して積み重ねていく。そういったメンタリティーをこのチームに注入していきたいです」

桶谷ヘッドコーチは、このブレない方向性が未来への礎になると続ける。「コーチが変わってガラッとスタイルが変わったら、育成年代の人たちは『何を参考に教えていけばいいんだ』というのは根っこの問題としてあったと思います。だからこそ僕たちは、変えたらいけないもの、日本のバスケットで世界に対しても優れているものはちゃんと残していくことに取りくんでいきます」

ちなみに男子アンダー代表のチームリーダーである福岡第一の井手口孝コーチは、桶谷ヘッドコーチの父と旧知の仲であり、桶谷ヘッドコーチとも親交が厚い。また、U17代表のヘッドコーチは琉球U15の末広朋也ヘッドコーチで、U18代表の指揮官である福岡大附属の片峯聡太コーチは今回のWindowの練習に訪れるなど、フル代表とアンダー代表の繋がりの強化にも取り組んでいる。

5日、伊藤強化委員長はWindow2の総括会見を行い、次のように語った。「もっともっと今の日本代表を良くしていけるなという風に感じましたし、強化委員長として、育成世代からどのように日本のバスケットを強くしていくのか、こういったところも課題が見えました。本当に実りのあるWindowになったなと感じました」

伊藤委員長はメディアとのやり取りの中で、一貫性を持った強化の大切さを強調した。「やはり中長期でしっかりと強化していかないと、世界の強豪相手に常に勝てるチーム作りというのは本当に厳しいなと感じました。具体的に言うと『12年』です。オリンピックで言うと3大会。これを大会ごとに分けて、『ここの年齢の人はこの大会に来るよね』『この年齢はここだよね』と意識しながら育成することが重要だと思います」

「あとは、国内の基準をどれだけ世界基準にするか。12歳、15歳、18歳の子たちが『日本一の選手』『日本一のチーム作り』ではなくて、『ヨーロッパやアメリカのチームに勝つ』というところを目指してどれだけ成長し続けられるか。これがすごく大切だと思っています。私は試合中にずっとメモを取っていますが、今回のWindowで何十回も何百回も書いたのが『どのように世界基準を日本に日常的に持ってくるか』という点です」

女子日本代表

女子代表にも浸透する『伊藤イズム』

伊藤強化委員長は桶谷体制での戦い方の変化として、「オフェンスで言うと、まず大事なのが『ペースとスペース』という考え方です。より速いバスケットをするというところと、スペースをどのように活かすかというところ。この方法論が前体制と今の体制で少し変わってくるというところです」と語っている。女子代表のコーリー・ゲインズヘッドコーチも、これから始まる『FIBA女子ワールドカップ2026』予選トーナメントを前にしたメディア取材で、ペースとスペースの徹底を語っており、伊藤イズムは女子代表にもしっかりと浸透している。

過酷なアジア予選を勝ち抜き、2027年のワールドカップ本大会の出場権獲得という目先の結果を追い求めることは大切だ。ただ、目の前の結果を追い求めつつ、将来のさらなる進化に向けた種を蒔くこともできる。この2つの大きなミッションに向け、今の男子代表はこれまでになくしっかりとした組織作りができている。

これからも難しい状況は何度も訪れるはずだ。ただ、伊藤強化委員長の描くロードマップは理路整然とした適切なものであり、桶谷ヘッドコーチとの二人三脚で、ブレずに今の方針を貫いてほしい。