
「こういう勝利はチームを団結させる」
マジックは長い再建期間を経てプレーオフ進出チームへと成長した。それでもプレーオフでは2年連続でファーストラウンド敗退を喫し、次なる飛躍が求められていた。そこで今オフにデズモンド・ベインを獲得。リーグを代表するようなスター選手ではないが、ハードワークを軸とするスタイルを変えることなく、チームの弱点だったシュート力を補強する新戦力として、ベインには大きな期待が寄せられた。
しかし、開幕前の目論見は外れた。ベインならすぐに馴染みやすいコンセプトであるマジックにフィットするとの予想に反し、キャリア平均で40%を超えていた3ポイントシュート成功率が30%を切る大不振に陥った。デビューから5シーズンでグリズリーズのバスケしか知らないベインには、順応の時間が必要だった。
現地11月10日、開幕から11試合目のトレイルブレイザーズ戦で、ついにその日がやって来た。マジックがリードしながらも突き放せず、残り3分で8点リードの場面から逆襲に遭った。デニ・アブディヤとジェレミー・グラントの目覚ましい活躍で点差が詰まり、残り10秒でグラントのバスケット・カウントで追い付かれた。
勢いは完全にブレイザーズだったが、そこで試合を決めたのはベインだった。残り1.9秒からのラストポゼッション、いまやリーグ屈指のディフェンダーとなったトゥマニ・カマラの密着マークで窮屈なシュートを打たされたが、ベインはこれを沈めた。シュートの軌道を見守っていたマジックの選手たちは、それがリングの中央を射抜いたことを確認するとベインへと殺到。ベインを中心とした歓喜の輪ができ、1万8000人の観客がスタンディングオベーションで沸き返った。
「騒ぎが収まるまで、感情をコントロールできなかった。接戦となった終盤であのシュートを決められて良かった」とベインは言う。「本当はパオロ(バンケロ)のためにデザインしたプレーだったけど、ウェンデル(カーターJr.)が素晴らしいスクリーンをかけてくれた。シュートは入る時もあれば外れる時もあるけど、時間をかけて練習してきたシュートを自信を持って打った」
カーターJr.は最初にバンケロにスクリーンをかけ、バンケロをマークしていた厄介なカマラを引き剥がしていたが、スイッチしたアブディヤの激しいマークでバンケロはパスをもらえなかった。それでもバンケロは、チームが勝てるなら自分がヒーローになる必要はないと考えている。「時間がなかったのですぐにシュートを打たなきゃならなかった。僕の角度からは打った瞬間に良いシュートかどうか分からなかったけど、ベインは決めると感じた。僕がキア・センターで見た最高のゲームウィナーだと思うよ」
ベインにとっては名誉を回復し、自信を取り戻すゲームウィナーとなったが、彼はこの劇的な勝ち方がチームのプラスになることを強調する。「こういう勝利はチームを団結させる。こういう接戦は勝つにせよ負けるにせよチームにとって大事な経験となり、この先の大きな何かに繋がる」
バンケロもそれに同意した。「こういう試合の勝利は、勝つために何が必要なのかを僕たちに教えてくれる。その学びを今後の試合すべてに反映させなきゃいけない。今日も反省すべき点はあったから改善に努め、ポジティブな面はチームに取り入れてもっと伸ばしていく。その作業をチーム全員でやっていくんだ。シーズンは長いから、1試合1試合やっていくよ」
開幕戦に勝利した後に4連敗を喫したことで、チームを取り巻く雰囲気はあまり良いものではなかった。それでもこれで5勝6敗と勝率5割に手が届くところまで来た。ベインが不振を払拭するクラッチシュートを決めたことは、マジックが本来のポテンシャルを発揮する合図となるかもしれない。