文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、B.LEAGUE

「全体のレベルアップにより消化試合が少なくなった」

今週末にはチャンピオンシップのセミファイナルが開催される。頂点まで『あと3勝』と迫った川崎ブレイブサンダースを率いる北卓也ヘッドコーチに様々な話題について聞いているが、今回は指揮官の現役時代とは大きく変わったリーグ戦、そしてチームのありかたなど、コート外のことをテーマに語ってもらった。

Bリーグになって試合数はレギュラーシーズン60試合と増加した。北の現役時代から比べると倍近くになっている。「試合数が多い方が、やりがいはあるのかと思います。ただ、相手チームのベテランの選手にもたまに『疲れない?』と聞いたりすると、やっぱり『疲れます』って言ってきます。来季からは慣れの部分も出てくると思いますが、今季は初めてのことでどうなっていくのか分からない点はありました」と北は言う。

ヘッドコーチとしては試合へのアプローチに気を配る1年となった。「練習はもちろん必要ですが、それよりも試合で最高のパフォーマンスを出すためのコンディショニング。そこが一番になってきます。我々コーチングスタッフにとっては、長いシーズンの中でどう休息を与えるか、練習スケジュールの組み方がより重要になったと感じます」

川崎にとってレギュラーシーズンはコンディションとの戦いだったとも言える。開幕節に辻直人を欠き連敗スタート、シーズン中盤からはライアン・スパングラーの長期離脱もあった。その苦労とともに、リーグ全体のレベルの底上げもあった。下位を相手にしても、楽に勝てる試合がなくなった。「今は上位だけでなく、中位ならチャンピオンシップ出場、下位なら残留のためなど、これまでより消化ゲームが少なくなっています」

それでも、レベルが上がることは北にとっても歓迎だ。確かに大変ではあるが、「最後まで緊張感があるゲームが続くのは本当に良いことです」と、Bリーグ発足に伴う変化を喜んで受け入れている。

時には9日間で5試合の日程『やれないよね』と話す

ちなみに、Bリーグ誕生に伴う大きな変化について、間もなく45歳になろうとしている北が『プレーヤー目線』で見るとどう感じるのだろうか。かつてのチームメートたちと会うと、その話題になるそうだ。「現役当時と今を比べると『やれないよね』という話になりますね」と北は笑う。

「私が最初に入った頃は週に1回しか試合がありませんでしたから。それが今は週末に2試合、時には平日開催が入ると『9日間で5試合』という日程もあります。これは当時の僕たちにとっては想像ができない。東芝のOBで今もミニバスを教えている人は多いので、会って飲んだ時などは自然とそういうバスケットの話をしています」

北は、自身が現役だった頃と比較して、選手の気質が変わっていると感じるそうだ。「今の選手も闘争心は持っていますが、あまり表に出さないですね。行儀がいいというか、優しいとか、そんな印象を受けます」。それでは北の世代は? 「僕らの頃はケンカじゃないですけど、試合前に相手チームの選手とは絶対にしゃべらないとか。そういうバチバチ感みたいなものはありました」

今の選手はコート外での役割も多い。東芝から名前を変え、市民チームとして活動を始めたばかりの川崎は、この1年で選手たちがSNSを使った様々な取り組みを行い、ファンの注目を集めた。「面白いです。私は詳しくはないんですけど」と前置きしながらも、選手たちが様々な企画にトライする様子を北は好ましく眺めている。「ちゃんと見ていますよ。もっと認知されるために、いろいろなことをやっていく必要があります。バスケット以外の面で選手の個性や性格が見えるのも、ホンワカしていいなと思って見ています」

ヘッドコーチとして(?)そういった選手に『指導』することはあるのだろうか。「内容についても選手に言ったりします」と北は言う。「例えば『野本テレビ』の第1回目は面白かったですね。2回目はうーんって感じでしたけど、面白かったです。ただ、1回目のほうがインパクトが強かった。野本は意外と面白いなって。これからもやるのかって聞いたら、『続けていきたいと思います』といったやりとりがあったりしますよ」

社員選手としてキャリアを過ごしたことのメリット

そして変化と言えば、企業チームからプロへと変わったことが最も大きいだろう。企業選手からプロバスケットボール選手となり、バスケに専念できる利点は様々あるが、一方で企業選手だからこそ得られたものもあったはず。1995年の入社から2008年の現役引退までを東芝一筋で過ごした北は、この点について次のように語る。

「社会人としての適切な対応だったり教養だったり、『常識』をしっかり学ぶことができました。バスケットボールは現役でそんなに長くできるわけではありません。また、コーチになったとしても、そういう教養は絶対に必要です。それは企業チームの社員選手としてやってきたことによる良い面ですね。あとは今も応援してもらっていますが、普段から接している職場の人たちがたくさん応援してくれる、それがモチベーションになるというところはありました」

東芝の社員として業務も行っていたという北。当時の思い出を少しだけ教えてもらった。「私自身を振り返っても、当時はパソコンがそこまで普及しておらず、東芝に入っていろいろと教わるところから始まりました。社会人なら普通のことですが、楽しかったです。また、いろいろな仕事をさせてもらったことは良い経験になりました。1年目には、資材管理部にいて当時、東芝が宇宙開発に携わっていてロケットの部品を提供していたことから、種子島の宇宙開発センターでの打ち上げに行かせてもらったことは印象に残っています。会社での飲み会も含めて、いろんなことが今の自分にプラスになっています」

ベンチ登録は12人、しかし川崎は「13人で戦っている」

そして最後に、明日からチャンピオンシップのセミファイナルが始まる。新しいリーグで難しい選択を何度も迫られつつ、ここまで勝ち上がってきた川崎だが、北にとって最もつらい選択はベンチ12人の登録だという。チームは13名、つまり誰か1名を外さなければならないのだ。

「その仕事が一番つらいですね。今は目の前の試合に勝つための最善のメンバーは誰かというところで選んでいます。もちろんみんな努力をしています。シーズン前半はいろいろと試したいので、対戦チームにもよりますが、順番に外したりとか、そういう面はありました。ただ、今はそういう段階ではないです。対戦チームによって、いろんな想定をする中で決めています」

それでも北が強調するのは、川崎は13人のチームで、全員で戦っているということだ。「登録を外れたからといって、ふてくされる選手はいないですし、12名はその人のためにも頑張らないといけない。外れたメンバーは登録メンバーのためにできることをやる。チーム全員が、勝つための最善策はなにか、自分は何ができるかを考えて実行することは、チームが結束する意味で一番重要になってくると思います」

頂点まであと3試合。『勝負師』の采配にもいよいよ冴えが見られるはずだ。