「偉大さは日々作り上げるもの。そこに責任を持つ」

ザイオン・ウイリアムソンは2019年のNBAドラフト全体1位指名選手として、鳴り物入りでペリカンズにやって来た。しかし、それから現在に至るまでプレーオフ進出はわずか2回で、いずれもファーストラウンド敗退。ザイオンは年に何試合かはモンスター級のパフォーマンスを見せるものの、とにかくケガが多く、6シーズンでわずか214試合の出場、2度のプレーオフはいずれもプレーしていない。

これだけケガが続くと不運では片付けられず、コンディショニングが根本から間違っている、あるいはザイオン自身のプロ意識の欠如が疑われる。それも6年間も続けば、疑いは確信に変わる。ペリカンズのファンも大多数はザイオンに期待せず、それでも彼がトップに君臨し続けるチームの先行きに悲観している。

しかし、2025-26シーズンのチーム始動となった現地9月23日に、その悲観論のいくらかは消えた。その理由はペリカンズのバスケットボール運営担当副社長としてチーム編成を担うことになったジョー・デュマースの確固たるアイデアと、ザイオンの引き締まった身体にある。「ザイオンは素晴らしい。何の問題もないと言っておこう」とデュマースは語る。「本当にハードに自分を追い込んでいる。この1カ月、練習場の中でも外でも一生懸命にトレーニングする姿を私は見てきた」

ザイオンはこれまでも何度か身体改造に取り組んできたが、今回はその中で最もインパクトが強い。身体は引き締まり、コンディションの良さが彼自身のメンタルを大きく向上させているのも見て取れる。元WNBA選手の『Tスプーン』ことテレサ・ウェザースプーンがオフのザイオンのトレーニングを担当した。「彼女は僕にとって姉のような存在だ。殿堂入り選手の彼女と今も一緒に練習できることを光栄に思う」とザイオンは語る。

『バッド・ボーイズ』を統率したデュマースの影響力

そして、メンタルの面ではデュマースの存在が大きな変化のきっかけになった。デュマースは『バッド・ボーイズ』と呼ばれた時代の荒々しいピストンズを引っ張ったリーダーで、1989年と1990年にNBA優勝を勝ち取った殿堂入り選手だ。ザイオンはデュマースについて「僕の大好きな人だ」と興奮した面持ちで語る。

「オフの間に彼と1対1で話す機会がたくさんあったんだけど、『すごい、ジョー・デュマースと一緒にいるぞ! バッド・ボーイズの一員で、NBAチャンピオンでファイナルMVPのデュマースだ!』と思ってしまい、『ダメだダメだ、会話に集中しないと』と自分に言い聞かせる瞬間が何度もあった。でも仕方ないよね、彼はNBAの歴史を学ぶ時の必修科目なんだから」

かつてのデュマースは卓越した統率力で荒っぽい『バッド・ボーイズ』の面々をまとめ上げたリーダーで、同じことをザイオンにもやろうとしている。デュマースは「才能と偉大さ(グレートネス)は異なるものだ。ザイオンには『偉大であるためには責任を負わなければならない。才能だけではダメだ』と伝えた」と語る。

その言葉をザイオンはこう受け止めている。「そう、彼には重要なアドバイスをもらったと思っている。彼曰く、才能は生まれ持ったものだけど、偉大さは日々作り上げるものだ。やる気が起きない時も、逆境にある時も、何が起こっていようが関係なく毎日やることが偉大さを作り上げる。そこに責任を持つようにジョーからは言われた」

これまでも多くの人から同じようなことをザイオンは言われてきたはずだが、今回は効果が違う。「ジョーは僕に責任を与え、高い基準で僕に接する。それは厳しいことだけど、ワクワクしているんだ。僕が失敗したり道を踏み外したとしても、彼が正しい道に戻してくれると分かっている。だから僕は不安を感じることなく責任に向き合うし、彼に『期待を裏切らない』と約束した。彼は僕を信じてくれる。そのことが僕にとっては本当に大きいんだ」